第42話 世話係に就任
第42話 世話係に就任
「じゃあ今日はエンキドの番だね」
朝のギルド食堂。
ウルガはパンをかじりながら、あまりにも軽い調子でそう言った。
「……は?」
エンキドの手が止まる。
「俺とセレナは午前中、軽い依頼だから」 「バステト様の世話、頼んだよ」
「なんでそうなる!?」 エンキドは即座に立ち上がった。
「公平だろ」 ウルガは肩をすくめる。 「昨日は俺がやったんだから」
「昨日は寝てただけじゃん!」 「世話ってレベルじゃねぇぞ!」
セレナは静かに茶を飲みながら言う。 「問題ないわ。危険は……少ないはずだから」
その“はず”に、まったく信頼感がない。
「……おい」 エンキドは視線を落とした。
テーブルの上。
バステト様は当然のように香箱座りをし、エンキドを見下ろしている。
「ふむ」 「不服そうじゃな」
「いや、不服しかないけど!?」 エンキドは指をさす。 「なんで俺が猫の――」
バステト様の尻尾が、ぴしん、とテーブルを叩いた。
「見下ろすでない」
「すみませんでした!!」
即座の土下座だった。
ウルガとセレナは無言で立ち上がる。
「じゃ、頼んだ」 「留守番頼んだわよ!」
「おい待て!!」 エンキドの叫びは、二人の背中に虚しく消えた。
―――
「……で、何すりゃいいんだよ」
ギルド内、ソファ。 エンキドはバステト様と向かい合って座っている。
「まずは飲み物じゃな」
「猫が飲み物……?」 「水?」
「温いミルク」 「蜂蜜はほんの少し」
「注文多くない!?」
数分後。
エンキドは真顔でミルクを差し出していた。
「……ほう」 バステト様は一口舐める。 「悪くない」
(評価されてる……?)
「次は?」
「撫でるがよい」
「は?」
「撫でる」 「顎の下じゃ」
「……」
恐る恐る手を伸ばす。
ふわっ。
(……柔らか……)
「そこじゃ」 「もう少し右」
「はい……」
完全にペースを握られていた。
その頃、ギルド内を通りかかった冒険者たちが足を止める。
「……エンキドのやつ 苦笑」 「猫様のお世話係ってか 笑」
「猫じゃらし いるか?」
「いらん!」
バステト様は満足そうに目を細める。
「うむ」 「悪くない下僕じゃ」
「下僕って言った!?」
「言ったぞ」
正午。
エンキドは魂の抜けた顔でソファに崩れていた。
「……世話係って、こんな……」
その腹の上で、バステト様はすやすやと眠っている。
「……まぁ」 小さく呟く。 「寝顔は、悪くないな」
その瞬間、バステト様の尻尾がぴくりと動いた。
(今の……聞こえたか?)
聞こえていた。
が、何も言わない。
ただ一言、夢うつつで。
「……合格じゃ」
エンキドは、なぜか少しだけ誇らしい顔をしていた。
リーナの嫉妬と怒りに満ちた顔に気づかぬまま…




