第19話:初めてのダンジョン
私は閉所恐怖症なので絶対ムリです(-_-;)
石造りの門は、思っていたよりもずっと静かだった。
街道から半日ほど離れた丘の中腹。
苔と蔦に覆われた遺跡は、長い年月をそのまま重ねたように、口を閉ざしている。
「……ここが、ダンジョン」
ウルガがそう呟いた瞬間だった。
「ちょ、ちょっと待って!」
突然、セレナに襟首を掴まれる。
「何ですか!?」
「何ですかじゃない。装備、点検した?」
「え、えっと……剣はある、革鎧もある、ロープは――あっ」
腰のポーチをひっくり返し、慌てて中を確認するウルガ。
小物が地面に落ち、カランと情けない音を立てた。
「……松明、忘れてない?」
「い、今確認中です!」
ワタワタと動くウルガを見て、近くで準備していた別パーティの男が鼻で笑った。
「おい坊主。初ダンジョンか?」
「は、はい……」
「ダンジョン舐めるなよ。
森と違って、ここは逃げ場も空もねえ。
一歩ミスったら、死体は壁の染みだ」
脅すような低い声。
ウルガの背筋が、思わず伸びる。
「……す、すみません」
男はそれだけ言うと、仲間と共に遺跡の奥へ消えていった。
「ふふ、歓迎の洗礼ね」
セレナは楽しそうに笑いながら、ウルガの落とした小物を拾って手渡す。
「でも、ああいうのも大事よ。
怖がらせることで、油断を削る」
「……心臓に悪いです」
「そのくらいで丁度いいの」
そう言って、セレナは遺跡の門へと視線を向けた。
「初心者向けとはいえ、油断は禁物。
特に遺跡系はね」
「罠、ですよね」
ウルガが即答すると、セレナは一瞬だけ目を瞬かせ、くすっと笑った。
「正解。
ちゃんと学習してるじゃない」
石の門を押し開くと、重い音とともに冷たい空気が流れ出した。
外の陽光が嘘のように、内部は薄暗い。
床は石畳。
壁には風化した浮彫が刻まれているが、意味は読み取れない。
「……人が作った場所、なんですよね」
「そう。
だからこそ厄介。人の悪意も、油断も、全部残ってる」
一歩踏み込んだ瞬間、空気が変わった。
音が遠くなる。
呼吸だけが、やけに大きく聞こえる。
「……待って」
ウルガは反射的に足を止めた。
「どうしたの?」
「分かりません。でも……進みたくない感じがします」
床を見下ろし、慎重に足を引く。
次の瞬間、
踏み出しかけた先の石畳が、わずかに沈んだ。
「……罠だ」
「……あんた、今どうやって気づいたの?」
「……勘、です」
セレナは一拍置いてから、素直に感心したように頷いた。
「初ダンジョンでそれは上出来。
本当に、面白いわね」
照れたウルガが視線を逸らした、その時だった。
遺跡の奥。
石が擦れる音と、低い呼吸音。
「……来るわよ」
セレナが槍を構える。
森とは違う。
逃げ道は限られ、壁は閉じている。
それでも――
(……大丈夫だ)
不思議と、恐怖よりも先に、胸の奥が落ち着いていた。
(これが、ダンジョン……)
まだ、**我儘な玩具箱**に頼る時じゃない。
だが、もしもの時は――。
ウルガは遺跡の闇を、まっすぐ見据えた。




