表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

61/75

第61話《天空の要塞と不落の種》

1. 雲上の隠れ家


アイゼル砦は、文字通り「天空の要塞」だった。 標高二千メートルを超える峻険な断崖の頂に、重厚な石積みの壁が鎮座している。守備兵の規模は約五百名。王国中央を分かつ絶壁の、唯一の「喉元」を彼らが守っている。


だが、砦の背後——王国側へと続く緩やかな斜面には、意外な光景が広がっていた。


「トモヤ、見て。スノウィ村に少し似てるね」


リュミアが指差した先には、森を切り開いて作られた生活空間があった。兵士の家族が暮らし、女性や子供たちの姿も見える。 俺たち「救国改革チーム」は、この居住区にある空き家を数軒借り、当面の拠点とすることになった。


「(……この穏やかな風景が、数ヶ月後には激戦地になり犠牲者が多く出る可能性がある。それを少しでも食い止めるのが、俺たちの仕事だ)」


俺は荷物を下ろし、冷たい山の空気を深く吸い込んだ。




2. 静かなる有能と、迫る影


夕刻、拠点の広間にメンバーが集まり、調査報告会が行われた。


「……川を越えて帝国側の麓にある村を少し偵察してきた。にぎわっているように見えるが、ありゃ商売じゃねえ。物資の集積と兵の移動……遠征の『準備』だぜ」


レオンの報告に、場が引き締まる。続いてガルドが不機嫌そうに鼻を鳴らした。


「練兵を見てきたが、ありゃあ欠伸が出る。緊張感がなさすぎて、実戦じゃ足が動かねえぞ」


「弓装備も拝見しましたが、やはり旧式ですわ。弦が緩んでいるものも多く、これでは帝国の厚い装甲を抜くことは叶いません。……ですが、妙なこともありますの」


ラナが首を傾げると、リュミアとエルナが顔を見合わせた。


「そうなの。私、水の手と衛生状態を調べたんだけど……排水にはかなり気が遣われていたわ。ゴミの処理もしっかりしてるし、高山地帯なのに病人が少ないのは、そのおかげだと思う」


「兵糧庫もそうだよ」


エルナが帳簿の写しを叩く。


「管理がすごく行き届いている。いつ、誰が、何をどれだけ運び込んだか、古い記録まで完璧に揃っているね。……正直、驚いたよ。無口な将軍だからもっと杜撰だと思ってた」


(……なるほどな。ミラージュさんは、言葉こそ少ないが、組織の『運営』に関しては極めて有能な官僚型指揮官なんだろう。戦術的な鋭さよりも、兵を飢えさせず、病ませないことを優先している。……だからこそ、この平和が維持されてきたわけか)




3. 地図に描く、不落のロジック


俺たちは広間に集まり、地面に描いた地図を囲んでリスクを分析した。


「アイゼル砦は高山地帯の『喉元』だ。道が狭く包囲は難しい。だが、帝国は間違いなく物量で『強攻』してくる」


俺の分析に、エルナが付け加える。


「帝国はまず『兵糧攻め』のフリをして補給路を断つ動きを見せるだろうね。同時に投石機で城壁を削り、こちらの士気を下げる『心理戦』を仕掛けてくるはずだよ」


「石壁なんて、帝国のデカい投石機が三日も叩けば粉々だぜ。修復も間に合わねえ」


ガルドの懸念はもっともだ。石積みは一度崩れれば終わりだ。


「承認する。今の壁では耐えられない。……ですが、提案があります。折れない、砕けない、そして『現場で直せる』壁を作る。……固まる石、コンクリートだ」




4. 構造の『詰まり』と、物流の種


翌朝、俺はグレンさん、ハック、リュミアと共に砦の北側外壁を視察した。 峻険な崖に立つ石積みは、表面こそ繕われているが、あちこちに深い亀裂が入っている。


「現実的な問題は、時間と輸送だ」


ハックが絶壁の下を指差す。 砦を改修しようにも、山の上まで大量の切り出し石を運び上げるには、この細い道では夏までに間に合わない。


「……ええ。ですが、出発前に少しずつですが、鋼や木材、石材をアイゼル砦に運ぶ段取りはつけてきました。麓の村には、すでに工房と旋盤を設置中です」


(重い石を運ぶのが無理なら、その場で形を作ればいい。材料を粉体として運び、現場で流し込む。それがコンクリートの強みだ)


「(……仕組みで解決するんだ。この険しい道を、物流の幹線に変える)」




5. 降り積もる『種』


そこから数週間、俺たちは登山道の改良に全力を注いだ。


勾配のきつい箇所には、メギド鉱山から届き始めた鋼の板を薄く敷き、その上を砂利で固めて『平滑化』を行う。馬が滑らずに重い荷を引けるようにするためだ。 さらに、道が途切れている難所には、鋼のトラスを組み込んだ頑強な木橋を架け渡した。


麓の工房で作られた精密なパーツが、改良された道を通って次々と砦に運び込まれていく。


「……来たぞ!」


レオンの声が響く。 砦の村に、メギド鉱山で量産された鋼の束、そして大量の石灰が山のように積み上げられていった。


「なんだ、あの山は……?」 「この鋼、何に使うんだ?」


平和に慣れた兵士たちが、困惑した顔で資材を見つめている。


「(……これが、不落の砦の『種』だ)」


俺が資材の山を見上げていると、背後に大きな気配を感じた。 無口な巨象、ミラージュ将軍だ。彼は山積みの鋼に一度だけ触れ、俺の肩をその大きな手で力強く叩いた。


「…………智也。……頼んだぞ」


地響きのような、重みのある言葉。 俺は短く、だがはっきりと答えた。


「はい。始めましょう、将軍」


天空の要塞が、ついに鋼と石の知恵を纏い始めようとしていた。

【読者の皆様へ】

最後まで読んでいただき、心より感謝申し上げます。

日常の忙しさの中で、数分でもこのファンタジーの世界を楽しんでいただき、現実から離れてリラックスできる一助となれば幸いです。


~もしよろしければ、ブックマークや評価で応援いただけると、執筆の励みになります!~


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ