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第59話《規格の盾と運命の指針》― 鋼製農具と規格鎧(モジュラー・アーマー) ―

1. 鋼の雨、希望の苗


領都フィアレルの西広場は、熱気と金属音に包まれていた。


「……よし、次! 順番に並んでくれ。一台につき鍬が五丁、鎌が十丁だ」


領の農政担当の声が広場に響く。 目の前には、コモンス王国各地から集まった村名主たちの列ができていた。


彼らが受け取っているのは、『高炉』で生産・精錬された鋼を、フィアレルの工房で加工した最新の鋼製農具だ。


「智也くん、現在の配布率は全体の三割に到達。物流網の馬車は不足気味だけど、西の商隊が追加で十台、予備の荷馬車を出してくれることになったよ」


隣で帳簿を広げるエルナが、羽ペンを走らせながら報告してくる。


「分かった。商隊への報酬は、次のロットの農具の優先販売権で交渉してくれ。彼らなら、その価値が理解できるはずだ」


「了解。その条件なら、彼らは採算を度外視してでも動くね。……数字で見ると、この農具が行き渡るだけで、来期の収穫予測は2割以上跳ね上がる。すごいよ、村が……国が、目に見えて変わっていく」


エルナは相槌を打ち、現状を認め、次の一手を整理する。 彼女のロジカルな管理があるからこそ、俺は現場の設計に没頭できる。


「トモヤ、お水。……少し、休んで?」


背後からリュミアが、冷えた水を入れた木製のコップを差し出してくれた。


「ああ、助かる。悪いな、リュミア。この人混みの中、立ちっぱなしにさせて」


「ううん。トモヤが頑張ってるから、私も隣で踏ん張る。……これでお母さんたちも、もっと楽になるね。みんなの顔、すごく明るいよ」


リュミアは穏やかに微笑む。 その笑顔を見ると、連日の激務で凝り固まっていた肩の力がふっと抜けるのが分かった。 彼女の支えは、俺にとって何よりの特効薬だ。



2. 領都の工房、規格の萌芽


午後、俺は領都フィアレルの工房に籠もっていた。 机の上には、薄い金属板と木材で作った模型が並んでいる。 呼び寄せたのは、ラナと、グレンさん、ハックさんだ。


「智也……これは、奇妙な構造だな。鎧をわざわざ『小分け』にするのか?」


ハックさんが、胴体の部分が何枚ものパネルに分かれた鎧の模型を指差した。


「そうです。今の王国の鎧は、職人が一から十まで作り上げる一点モノ。……ですが、今の情勢では致命的な欠点があります。戦場で一部が凹んだだけで、修理のために工房へ戻さなきゃならない。前線の兵士が装備を失う時間が長すぎるんです」


俺は、パネルを一枚外してみせた。


「だから提案したい。防具を『フレーム(骨組み)』と『装甲パネル』に分け、損傷した箇所だけをその場で交換できるようにする。これを俺は『規格鎧モジュラー・アーマー』と呼んでいます。専門の職人でなくても、予備の部品さえあれば誰でも直せるんです」


「……なるほど。さらに、この槍も同じ考えか」


グレンさんが、模型の長槍を手に取った。 槍先が、差し込み式のソケット構造になっている。


「ええ。『部品交換式デタッチャブル長槍』です。槍先を鋳造で量産し、誰でも簡単に着脱・交換できるようにします。帝国の武器は折れたら終わりですが、わが国の兵は槍先が欠けても、予備の『規格品』をカチッとはめるだけで戦線に復帰できる。……武器そのものより、『戦い続けられる仕組み』を作るんです」


「その妙な思いつき……素晴らしい『知恵』ですわね。これならば、限られた兵員でも、常に最高の装備状態で戦い続けられます」


ラナが感心したように頷く。



3. 訓練場の驚愕と歓喜


数日後。領都の訓練場。 試作された『規格鎧』を身に纏い、交換式の長槍を構えたガルドが立っていた。


「おい、智也。この鎧、あちこち継ぎ目だらけで落ち着かねえぞ」


ガルドはいつもの調子で不敵に笑うが、その目は真剣だ。


「ガルド、試してみてくれ」


俺の合図で、数人の兵士がガルドに向かって一斉に模擬刀を叩きつけた。 激しい衝撃音が響き、ガルドの左肩の装甲パネルが大きくひしゃげる。


「そこまで!」


俺が制止すると、ガルドは肩を回しながら眉をひそめた。


「衝撃は死んでるが、これじゃ次は防げねえな」


「……いや、ここからが本番だ。リュミア!」


「うん」


リュミアが、麻袋から予備パネルと固定用のピンを取り出した。 ガルドが鎧を脱ぐ必要はない。 リュミアは立ったままのガルドの肩に手を添え、ひしゃげたパネルをパチンと外し、新しいパネルを差し込んでピンを打った。


わずか十五秒。


「……は? 直ったのか?」


「おう、新品同様だぜ。ガルド、槍先も見てろ」


俺は、先端が折れたと想定した長槍を受け取り、ソケットのロックを外して予備の穂先を差し込む。 カチッ、という確かな手応え。


「……おい、マジかよ」 「今、一瞬で直したぞ!?」


俺たちの検証を遠巻きに見ていた兵士たちが、ざわめきながら俺たちの周りに駆け寄ってきた。


4. 不滅の軍団の証明


「ガルド、ラナ、俺にも試させてくれ!」 「こっちの槍、ちょっと触ってもいいか?」


兵士たちが我先にと試作装備を手に取る。 一人の屈強な兵士が、新しく装着された長槍を力いっぱい振るった。


「……なんだこれ、軽いのにブレねえ! それにこの穂先、鋳造だろ? なんでこんなに鋭いんだ!」


「鋼の配合と、焼き入れを均一にする仕組みを作ったからな。強度はこれまでの倍はあるぞ」


グレンの言葉を聞くや否や、別の兵士が自分の古い鎧の胸当てを叩いて見せた。


「俺たちの鎧なんて、一度凹んだらそれっきりだ。……でも、これなら! 壊れても、予備の部品を持っていれば、その場ですぐに戦線に戻れるんだろ?」


「その通りです。これは『壊れない魔法の鎧』じゃない。だが、『何度でも蘇る不滅の鎧』です。」


訓練場は、これまでにない熱狂に包まれた。 兵士たちは次々と部品の交換を試し、「カチッ」とはまる感触に歓声を上げている。 彼らの瞳から、帝国への絶望が消え、確かな「対抗手段」を手に入れた希望が燃え上がっていた。


「不滅の軍団……。智也殿、あなたは戦争の常識を塗り替えようとしているのですね」


ラナが、驚きと畏怖を込めた瞳で、並んだ規格装備を見つめていた。 それは、単なる武具の提供ではない。 「自分たちは戦い続けられる」という、兵士たちの心そのものを変える革命だった。



5. 運命を指す指針


その夜。 領都フィアレルのとある広場。 月明かりの下、俺は地面に木の棒で簡単な地図を描いていた。 コモンス王国の防衛線と、ラグナ帝国の侵攻ルート。


「……さて、夏が来る前に、俺たちはどこへ向かうべきか」


鋼の農具で食料基盤は整いつつある。 規格鎧と槍で、軍の質も底上げできる。 だが、帝国が本気で攻めてくれば、兵数差は依然として絶望的だ。 俺の知恵を、どこへ全投下すべきか。


「(……俺の知恵が、最も多くの命を救える場所はどこだ? どこで食い止めれば、この平和な村づくりを続けられる?)」


俺は精神を集中し、傍らに置いていた『判断の棒』を手に取った。 それを垂直に立て、月光を反射する地面の地図の中央で、そっと指を離す。


(頼む……。俺が進むべき、次の一手を指し示してくれ)


棒が乾いた音を立てて倒れた。


その先端は、地図の上に描かれた峻険な山脈の切れ目――王国の盾であり、同時に最大の激戦地となる場所、『アイゼル砦』を真っ直ぐに指し示していた。


「……アイゼル砦か」


俺は顔を上げ、銀色に輝く月を見上げた。 そこは、工学の力が最も試される、過酷な戦場になるだろう。


「……じゃあ、やるか」


短い決意を口にする。 冷たい夜風が、地面に描いた地図の土を静かに撫でていった。



読者の皆様へ】

最後まで読んでいただき、心より感謝申し上げます。

日常の忙しさの中で、数分でもこのファンタジーの世界を楽しんでいただき、現実から離れてリラックスできる一助となれば幸いです。


次回は領主の指示よりアイゼル砦に視察にいく予定です。


~もしよろしければ、ブックマークや評価で応援いただけると、執筆の励みになります!~


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