表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

46/62

第46話《街の希望と領都版の精密旋盤》 ※フィアレル領編 開始

1. 救国の任命と「街の希望」

領主フィアレルの馬車に揺られ、俺たちは領都の城門をくぐった。石造りの立派な街並みが続くが、行き交う人々の顔にはどこか不安と疲れが見える。


「智也、顔を上げなさい。今日からそなたは、この街のみんなにとっての『希望』になるんだからね」


俺の右隣に座るアリア様が、優しく微笑みながら俺の肩を叩いた。弱冠十二歳。勝気で真っ直ぐな彼女の瞳には、俺への純粋な信頼と、この街の停滞を自らの手で打破したいというひたむきな意志が宿っている。


「……はい、アリア様。全力でやらせていただきます」


謁見の間。カバの獣人であるフィアレル領主は、温厚な表情の奥に鋭い光を湛えた目で俺を見据えた。 「智也殿、改めて任命しよう。救国改革の総責任者として、この領の生産力を立て直してほしい」


俺は用意していた図面を広げた。 「物流を最適化するための『大規模製粉所』と『集中倉庫』の建設です。そのために、領都の国立工房の一角をお貸しください。そこで、『精密旋盤』を造ります」


2. 新しい生活と「拠点」の夜

工房での打ち合わせを終えた俺たちは、領主から提供された「拠点」へと案内された。 そこは工房からほど近い城下町にある、大きめの空き家だった。石造りの二階建てで、村の木造小屋とは比べものにならないほど頑丈で立派な建物だ。


「……すごいな。村の家とは、壁の厚さも天井の高さも全然違う」 俺が感慨深げにロビーを見渡していると、案内役の従者が説明を始めた。 「ここは皆様お一人ずつに個室をご用意しております。食事や家事は我々従者が通いでお世話しますので、皆様は存分に研究に励んでください」


至れり尽くせりの環境に圧倒されつつも、俺たちは広々とした食堂に集まり、夕食を囲んだ。


「ひゃあ! このお肉、柔らかくて最高だね!」 エルナが元気よく肉を頬張り、ガルドが豪快に笑う。 「俺は明日から騎士団との合同訓練だ。智也、村で鍛えた新型武器の威力、奴らに見せつけてやるぜ」 「私は領主館でデータの整理を。エルナ、計算のサポートをお願いね」 ラナの言葉に、エルナが「任せて!」と胸を叩く。


「俺とハックは、明日から早速、あの精密旋盤の仕上げに取り掛かるぜ。スノウィ村の『三代目』をこっちの環境に合わせて完璧に調整しねぇとな」 グレンさんの言葉に、ハックさんも不敵に頷く。


皆がそれぞれの「戦場」について語り合う中、リュミアがそっと俺の隣で微笑んだ。賑やかな食卓を見つめながら、俺はこの「拠点」がこれからの戦いの中心地になるのだと、改めて気を引き締めた。


3. 工房の熱気と「再会」

翌朝。俺は期待と緊張を胸に、早朝の国立工房へと足を運んだ。すでにグレンさんとハックさんが作業を開始しており、ドワーフを主とした職人たちが「なんだなんだ?」と集まってくる。


「ねぇ、親方さん! その『刃物を固定する台』、なんでハンドルで動かすんすか? 手で持ったほうが早い気がするんすけど!」


若手のドワーフが、興味津々に身を乗り出してきた。グレンさんが太い腕を組み、ニヤリと答える。


「ドワーフの剛腕でも『呼吸』一つで刃先は僅かに揺れる。だがこの台なら、自慢の力も一分の狂いもない正確な『送り』に変えられる。機械が職人の理を支えてくれるのさ!」


「こっちもいいすか? この『静振石』ってのを埋め込むだけで、本当に金属の震えが止まるんすか?」 別の若手も食い入るように装置を覗き込む。今度はハックさんが答えた。


「ああ。こいつが金属の『悲鳴』を吸い取ってくれる。おかげで鋼をガリガリ削っても、軸が躍らずに済むんだ」


そんな熱狂の中、一人の少年が図面と機械を食い入るように見つめていた。以前に出会ったギルド長の孫――あの天才少年だ。彼の視線は、旋盤の奥で怪しく光る魔石パーツに釘付けになっていた。


「……待って。これ、魔石が組み込まれてる……!? お兄さん、まさかこれ、あの時のパーツを実用化したの?」


「久しぶりだね。ああ、あの時君に貰ったヒントを元に、ガバナーと安定装置を組み込んだんだ。……君があの日、俺に可能性を教えてくれたおかげで、この精密旋盤は完成したんだよ。ありがとう」


俺がお礼を告げると、少年は「え、本当に……!?」と絶句し、それから頬を紅潮させて叫んだ。 「僕のヒントで!? あれを本当に実用化しちゃったの!? お兄ちゃん、すごすぎるよ! ただの空論だと思ってたのに……!」


数日後。スノウィ村の『三代目』から産まれた部品を組み込み、ついに領都版の旋盤が完成した。 俺が主軸を回した瞬間、周囲の職人たちが息を呑んだ。目視では振れが全く分からないほど、滑らかに回る主軸。


「なっ……なんて滑らかなんだ!」 驚く若手たちを尻目に、グレンさんとハックさんは誇らしげに腕を組んだ。 「こいつはお宅らのすぐそばにいた俺たちが、智也と一緒に削り出したもんだ。スノウィ村の『三代目』を母とするなら、これはこの街のために進化した『孫機まごき』さ!」


4. 深夜の静寂、二人の訪問者

夜。石壁に囲まれた個室で、俺は一人、資材の計算に没頭していた。村の小屋とは違う静寂が、妙に落ち着かない。


コンコン、と扉を叩く音がした。 「……起きてるかな〜?」 扉を開けると、そこには寝巻姿のエルナが立っていた。薄い生地のシャツ越しに見える身体のラインに、俺は思わず視線を泳がせた。 「智也くん、計算してたでしょ? 在庫の数字、明日役人と詰めてくるね」 彼女は俺の腕に柔らかく触れ、至近距離で覗き込んでくる。(……いかん、心臓に悪い) 「あ、ああ、助かるよ。……早く寝ろよ?」 「はーい。おやすみ、智也くん」 甘い匂いを残して彼女が去ると、俺の心臓は激しく波打っていた。


再び静寂が戻った頃、今度は控えめなノックの音が聞こえた。 「トモヤ……入っても、いい?」 リュミアだった。枕を抱え、少し不安そうな顔で立っている。


「……一人、初めてだから。広すぎて、落ち着かないの」 俺たちは並んで、寝台に腰を下ろした。


「昨夜はね、長旅で疲れてたからすぐ寝られたんだけど……。今夜は、なんだか目が冴えちゃって。天井が高いせいかな」 「……ああ。村の小屋なら、手を伸ばせば誰かに届く距離だったもんな」 「うん。……トモヤ、隣にいてもいい?」


そんなとりとめのない話を、暗い部屋の中でひそひそと続けた。彼女は安心したように俺の肩に頭を預け、やがて規則正しい寝息を立て始めた。


(俺は勇者じゃない。ただのエンジニアだ。でも、この寝顔と、この街の未来だけは、俺の仕組みで守り抜いてみせる)


窓の外では、領都の夜景が銀色の月に照らされ、静かに明日を待っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ