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第37話《招集の号令と、エンジニアの鞄》

1. 領主の使いと、村のどよめき

『新緑の王』を討伐した熱気がまだ冷めやらぬスノウィ村に、白銀の甲冑に身を包んだ一隊が姿を現した。領主フィアレル直属、正規の伝令使だ。


「スノウィ村の一行に、領主様より正式な招待状をお持ちした!」


村の中央広場で、族長が仰々しく封を切る。そこには、魔物討伐への感謝と村の発展に対する深い関心、そして――「領地の将来について、知恵を貸してほしい」という切実な願いが記されていた。


(ただの表彰式じゃなさそうだな。領主様も相当追い詰められていると見える) 俺は、遠巻きに使いを見つめながら、これから始まるであろう「政治」と「技術」の折衝を思い、気を引き締めた。


2. 仲間の反応と、それぞれの役割

「ええっ、お城に行くんですか!? 私、そんな立派な場所……トモヤ、本当に行くの?」 リュミアが耳をぺこりと伏せて、不安そうに俺の袖を掴む。


「大丈夫だよ、リュミア。君の魔法と俺の仕組みがなければ、あの『王』は倒せなかった。君は村の英雄として堂々としていればいい」


「智也殿、お城での作法については私がある程度教えられますわ」 ラナが静かに、だが確かな自信を持ってそう言った。彼女の凛とした佇まいは、こうした公の場に相応しい落ち着きを帯びていた。


「がっはは! お城か、美味いもんが食えそうだな!」 ガルドは豪快に笑いながら、自分の泥だらけの服を叩いた。そこに、帳面を抱えたエルナが冷静な足取りで加わる。


「私も同行するわ。管理数値とか細かいデータのことを聞かれたら、私が全部答えるから安心して」 「助かるよ、エルナ。」


3. 職人たちの助言

出発の準備を進めていると、グレンさんとハックさんが歩み寄ってきた。


「智也、街の鍛冶場を見てきてくれ。特に、あっちの連中がどうやって良質な鉄を大量に仕入れているか……そのあたりの流通の仕組みが気になるんだ」 グレンさんが真剣な眼差しで言う。


「わかりました、グレンさん。しっかり見てきます」


続けて、俺はハックさんの方へ向き直った。 「ハックさん、何かお城の工房で確認してきてほしいことはありますか?」


「ああ、智也。街の大きな工房じゃ、一度にたくさんの道具を作るための『型』や『治具』をどう管理してるか見てきてほしいんだ。村の工房をこれ以上大きくするには、そいつが必要になるからな」 「治具の管理ですね。承知しました、ハックさん。プロの目線でしっかり調査してきますね」


ハックさんは満足そうに頷き、「村の守りは任せな」と力強く俺の肩を叩いた。


4. 不在中の『仕組み』の委譲

村を空けるにあたって、俺はいくつかの「運用マニュアル」を作成し、木板に書き記した。


自動給水路のメンテナンス: ガルドが固めた水路の沈殿物チェックと、土砂詰まりの解消手順。


監視網の継続: 櫓での交代時間と、色煙・シャッター灯籠による通信ルールの再徹底。


安全管理の徹底: 毒を封印した石箱には絶対に近づかないこと。


「族長、これに不在中の管理項目をまとめておきました。俺がいなくても、この通りにやれば村のインフラは維持できるはずです」 「……智也。お前は本当に、最後まで隙がないな」 族長は感心したように、俺が渡した木板の束を大切そうに受け取った。


5. 旅立ち:領主の馬車と、未知の始まり

翌朝。村の入り口に、領主から差し向けられた迎えの馬車が到着した。 領主の紋章が入ってはいるが、実用性を重視した頑丈で落ち着いた造りの馬車だ。


「……トモヤ、この椅子、村の椅子よりずっと柔らかいよ」 乗り込んだリュミアが少し緊張した様子で座る。リュミア、ガルド、ラナ、エルナ、そして俺。村の誇りを背負った五人の旅立ちだ。


「おーい! 智也、早めに戻ってこいよー!」 「みんな、気をつけてな!」 村人たちの温かい歓送の中、馬車はゆっくりと動き出す。


村の外周、俺たちが魔法とクラフトで作り上げた「全天候型舗装路」を走っている間は、馬車の揺れはほとんどなかった。しかし、その舗装路が終わり、従来の旧道に入った瞬間、激しい振動が俺たちを襲った。


(……この道の悪さが、物流を阻害しているんだな。まずは、領主様にどんなプレゼンをするか……)


「トモヤ、何か考えてるの?」 リュミアが隣で首を傾げる。


「ああ。スノウィ村の仕組みを、今度は領地全体の『基盤』にする方法をね。……じゃあ、やるか」


俺は膝の上に置いた鞄――中には、魔石を動力化するための予備設計図が詰まっている――を軽く叩いた。 西から吹く風は少し冷たかったが、俺たちの胸には、新たな『知恵』を試すための熱い期待が渦巻いていた。

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