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第34話《壊れゆく枷と、極限の狙撃》

1. 牙を剥く『王』と、不発の罠

北の尾根に、地鳴りのような咆哮が響き渡った。 「合図だッ! 各員、伏せろ!」 族長の声が響くのとほぼ同時に、森の暗がりから無数の影が飛び出した。


フォレストドッグの群れ。その先頭集団が第一層の「鉄びし」エリアに突っ込む。 キャンッ、という悲鳴と共に手下の犬たちが足を押さえて転倒するが、その中央を突き進む巨大な影――『新緑の王』には、鋭い鋼の棘など無意味だった。


王は強靭な足裏で鉄びしを泥ごと踏みつぶし、勢いを一切緩めることなくこちらへ肉薄してくる。 (……嘘だろ。あいつ、あの鉄びしを『砂利』程度にしか思ってないのか!?)


2. 誤算の連鎖

「ガルド、手下を叩け! 王は罠へ追い込む!」 族長の指示を受け、ガルド率いる戦士たちが手下の群れに応戦する。 土魔法で地面を隆起させ、足止めされたフォレストドッグを確実に仕留めていくが、肝心の王が想定より早すぎる。


「第二層、アンカー解放!」 ラナの合図で、地面から十本の拘束用アンカーが跳ね上がった。 だが、その内の八本は、王を守るように盾となった手下の犬たちを絡め取るに留まった。


「……王にかかったのは二本だけですわ! 拘束が弱すぎます!」 ラナの叫び通り、王の巨体に食い込んだ鎖はわずか二本。 それでも鎖はギリギリと音を立てて伸びきり、一瞬だけ王の動きを止めた。


(まずい、このままだと引きちぎられる。……『繋ぎ止めボルト』を、今ここで確実に打ち込むしかない!)


3. 舗装路の疾走と、決死の狙撃

「移動開始! 弩台を前へ!」 ラナの指揮で、俺とハックは移動式弩台を全力で押し出した。 ガルドたちが魔法で固め、俺たちが石を敷き詰めた「舗装路」のおかげで、この重量物が吸い付くように加速する。


王が鎖を引きちぎろうと暴れるその隙を、俺は逃さなかった。 「ハックさん、クランクを固定してください! ……放てッ!!」


五連装の弩が火を吹き、特製のロープ付きボルトが空を裂く。 ドスッ、ドスッ、と鈍い衝撃音が響き、三本のボルトが王の背中と肩へ深く突き刺さった。 ロープの末端は、計画通り周囲の巨木にがっちりと固定されている。


(よし、入った! これで動けなくなるはずだ……!)


4. 絶体絶命の『王』の反撃

だが、伝説の怪物を甘く見すぎていた。 『オォォォォォォンッ!!』


怒りに狂った王が、全身の筋肉を膨張させて跳ねた。 その凄まじい力に、二本の拘束アンカーが根元から引き抜かれ、空中で虚しく踊る。 「……アンカーが取れた!? あんな力、ありえない!」


王は自由になった足で地面を砕き、邪魔なロープを引きずりながら、最前線のガルドたちへと突進した。 「……ぐあぁっ!!」 盾を構えていたガルドが、王の体当たりを受けて木の葉のように吹き飛ばされる。


「ガルド! ……弓隊、援護射撃!」 ラナの叫びと共に無数の矢が放たれるが、王の硬い毛皮と筋肉に弾かれ、致命傷には程遠い。 王はロープを巨木に繋がれたまま、無理やりその可動範囲を広げ、俺たちのいる弩台へと牙を剥いて突っ込んできた。


(拘束はまだ生きている。でも、あいつが止まる前に俺たちが殺される……!)


5. 静かなる毒の胎動

王の巨大な爪が、俺の目の前まで迫った。 死を覚悟したその瞬間、王の動きがぴたりと止まった。


前肢が激しく震え、口端からどす黒い泡が溢れ出す。 「……トモヤ。毒が、『心臓』に届いた」 隣にいたリュミアが、蒼白な顔で呟いた。


ボルトに塗り込んだ濃縮トリカブト毒。 激しく暴れ、血流が加速したことで、毒は一気に王の全身へ回ったのだ。 王の目は濁り、巨木に繋がれたロープがピンと張った状態で、その巨体がぐらりと揺らいだ。


「――好機を逃すなッ!! 知恵が道を拓き、勇気が幕を引く!」


族長が、その手に握った長槍を高く掲げた。 毒とロープによって動きを封じられた王に対し、残った戦士たちが一斉に突き進む。


「……突けぇぇッ!!」


族長の号令と共に、すべての槍が王の喉元へと集中した。 悲鳴すら上げられなくなった『新緑の王』は、最後の一突きを受けると、大きな地響きを立てて崩れ落ちた。


6. 結末:静寂への凱旋

周囲を囲んでいたフォレストドッグたちが、王の死を悟り、一斉に森の奥へと逃げ去っていく。 尾根に残されたのは、荒れ果てた地面と、倒れ伏した巨大な亡骸。そして、荒い息をつく俺たちだけだった。


「……終わった、んだな」 俺は弩台のフレームに手を預け、その場に崩れ落ちそうになるのを必死で堪えた。


「智也、怪我はないか」 族長が歩み寄り、俺の肩を強く叩いた。その手は、まだ戦闘の熱を帯びて震えていた。 「……はい。なんとか。ガルドは……?」 「おう、生きてるぜ。……死ぬかと思ったが、この盾があったおかげだ」 少し離れた場所で、ボロボロになった盾を抱えたガルドが、仲間に支えられながら苦笑いしていた。


(魔法だけでは勝てなかった。仕組みだけでも、あいつは止められなかった。……でも、両方を組み合わせれば、俺たちは伝説にさえ勝てるんだな)


俺は、繋がれたままのロープが、朝日を受けて鈍く光るのを眺めていた。

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