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第127話《『黄金の三角形』鋼路、西へ》― 移動式軌道敷設ユニット―


1. 戦略図の書き換え


王都中央駅での狂騒から数日。


俺――智也は、王立戦略局の奥深くにいた。


目の前の円卓には、竜姫ヴァレリア様、軍師キャンベル、そしてフィアレル領主ガルス様が顔を揃えている。


「……智也殿。改めて聞きたい。王都とフィアレルを繋ぐだけでは、なぜ不十分なのだ?」


ヴァレリア様が、鋭い金色の瞳で俺を射抜く。


「……物流の『一方通行』を防ぐためです。


フィアレルと王都だけでは、単なる資源の吸い上げに終わる。


真に帝国に対抗するには、西方の最前線――砦群を含む巨大な『黄金の三角形ロジスティクス・トライアングル』を完成させなきゃならない」


俺は黒板に、王都、フィアレル、西方砦を結ぶ巨大な正三角形を力強く描き込んだ。


「現在、西方へは険しい悪路を馬車で数週間かけて物資を運んでいます。


これでは前線が疲弊した際、補給が間に合わない。


だが、この三角形すべてを鉄路で繋げば、兵力も食糧も『神速』でローテーションできる。


帝国がどこを叩こうとしても、俺たちは常に最適な場所へ、最適な質量を叩き込めるんです」


(……エンジニアの視点で見れば、これは防衛戦じゃない。


広大な平原を舞台にした『リソースの最適配置問題』だ。


速度さえあれば、少ない手駒で盤面すべてを支配できる)


「……面白い。その『三角形』、我が軍の新たな大動脈となるか」


軍師キャンベルが、眼鏡の奥で不敵な笑みを浮かべた。




2. 移動式軌道敷設ユニット『鉄蜈蚣アイアン・センチピード


西方の平原。


かつては馬車が泥に足を取られ、旅人が数週間かけて横断した広大な「なだらかな大地」が、今、工学の力で塗り替えられようとしていた。


「全ユニット、同期開始! 敷設速度、時速五〇〇メートルを維持せよ!」


俺が列車の先頭車両で叫ぶ。


俺たちが造り上げたのは、ただの輸送列車ではない。


走りながら自らの前方に道を繋ぎ、自重でその道を確定させていく、移動式軌道敷設プラントだ。


工法は、俺が設計した『フラップ・レール方式(カンチレバー式)』。


あらかじめ後方の貨車で組み立てられた、枕木とレールが一体となった「軌道ユニット」が、頭上のコンベアを通って先頭のアームへ次々と運ばれる。


蟻人族アリジン! 構造計算の誤差は!?」


「誤差〇・〇三ミリ。許容範囲内。地盤の強度は……土竜人族モグラジンが完璧に固めている。問題ない」


列車の前では、土竜人族が地面を魔法で共振させ、岩盤並みの硬度にまで一瞬で踏み固めていた。


そこへ、先頭車両から伸びた巨大な片持ちカンチレバーのアームが、軌道ユニットを俺の目の前へパタパタ(フラップ)と叩きつけ、


俺はその鉄の道を踏みしめて、さらに前へと進むんだ。


「(……つまり、俺が走る一歩一歩が、そのまま王国の新しい国境線になる)」


「智也くん! 上空から補給が来たよ!」


エルナが指差す先。


梟人族フクロウジンの気流観測に導かれ、レオン率いる鳥人族の飛竜隊が、コンテナを吊るして舞い降りてくる。


コンテナの中身は、シルヴァたちが造った『人工魔石』と、追加のレール。


(……このスピード。少数民族の異能を『建設デバイス』として組み込めば、重機なんていらない。一日に一〇キロ。いや、この平原なら十五キロは伸ばせるぞ)




3. 『命の雫』が繋ぐ、新しい絆


建設作業の合間。


シルヴァとミエルが、自分たちの分泌液バインダーを用いて接合されたレールの継ぎ目を、誇らしげに点検していた。


「……智也さん。私たちの力が、こんなに遠くの、会ったこともない人たちを助ける『道』になるなんて。まだ信じられません」


シルヴァが、銀色の糸を指先で弄りながら呟いた。


かつて「穢れ」と蔑まれ、森の奥で息を潜めていた彼らの生理現象が、今や王国の軍事・物流を支える『至高のバイオ触媒』として、全種族から必要とされている。


「シルヴァさん。これは君たちの力そのものだ。俺はただ、その価値に名前ラベルをつけたに過ぎない」


その夜、、


西方の平原に、巨大な火柱がいくつも立ち上がった。


敷設が完了したばかりの鋼のレールが、篝火の光を反射して銀色の河のように夜の闇を貫いている。


今夜は、王国の収穫祭の日だ。


建設に従事した蟻人族、土竜人族、そして後方を支える少数民族の面々が集い、未だかつてない規模の晩餐が始まろうとしていた。


「(……感慨深いな。つい最近までまで、彼らは極力外部と交流せず、それぞれの森や穴でひっそりと生きていたのに)」


俺は、列車のデッキからその光景を眺めていた。


そこにあるのは、種族の壁を超えた、純粋な『工学的連帯』が生んだ熱狂だった。


宴の口火を切ったのは、蟻人族アリジン土竜人族モグラジンによる合同の演武だった。


「「「「ハッ! セイッ! ズシンッ!!」」」」


蟻人族たちが六本の脚を完璧に同期させ、鋼の杭を打ち込むような鋭いリズムで大地を叩く。


それに呼応するように、土竜人族が自慢の爪で地面を振動させ、地中から重低音のドラムのような響きを突き上げた。


それはダンスというより、彼らが昼間行っている「地盤固めの工法」を芸術に昇華させたものだ。


統制された動きが生む地響きが、観衆の心拍数を強制的に跳ね上げる。


「見て、智也さん! あのリズム、レールの継ぎ目の数と同じだわ!」


隣でミエルが翅をキラキラと震わせ、楽しげにステップを踏んでいる。




4. 多種族融合のスペシャル・メニュー


中央の調理エリアでは、各領から届いたばかりの特産品が、少数民族の知恵で「化けて」いた。


『土竜焼きポテトの蜜蝋包み』: 土竜人族が地熱魔法でホクホクに蒸し上げたフィアレル・ポテトに、ミエルたち蜜蜂人族が提供した「最高級ハーブ蜜蝋」を薄くコーティングしたもの。皮はパリッと香ばしく、中は驚くほどクリーミーだ。


『草原牛の蟻酸マリネ・ステーキ』: 蟻人族が持つ特殊な酸で肉質を柔らかくし、梟人族のスパイスで焼き上げた巨大なステーキ。官僚たちが食べたら腰を抜かすような贅沢な逸品だ。


『銀糸の冷やし麺』: シルヴァの故郷の澱粉を、彼の絹糸腺液のタンパク質構成を模した特殊な製麺機(俺が自作した)で打った、驚異のコシを持つ麺。


「……美味い。智也、このポテト……俺たちが掘った穴で焼いたんだぜ。ただの泥臭い石ころだと思ってたのに、こんなに甘くなるなんてよ」

ガルドが巨大な手でポテトを頬張り、涙ぐんでいる。


宴が最高潮に達した時、平原の闇から雷鳴のような蹄の音が響いた。


バランタイン領の獣人部族による『馬乗りの秘儀』の披露だ。


彼らは馬の背に立つどころか、走る馬の腹の下を潜り抜け、逆さ吊りの状態で弓を射る。


月明かりの下、人馬一体となったシルエットがレールの左右を猛烈なスピードで並走する。


「ここだ! 鋼の道を飛び越えるぞ!」


レオンの叫びを合図に、獣人たちが一斉に手綱を引き、敷設されたばかりのレールを、まるで聖域を越える儀式のように華麗にジャンプしてみせた。


文明の象徴である「鋼」と、野生の極致である「騎馬」。


その交差に、観衆からは地を揺るがすような歓声が上がった。




5. 『汚れ』が『誇り』に変わる時


「……智也さん。俺たちからも、礼を言わせてくれ」


シルヴァとミエルの隣に、一人の蟻人族アリジンが音もなく歩み寄った。


敷設列車の現場監督を務める、頑強な外殻を持つ男だ。彼は六本の脚のうち中脚を器用に使い、自慢の計算尺を腰のベルトに差し込んだ。


「俺たちの吐く『酸』は、ずっと忌み嫌われてきた。


鉄を腐らせ、作物を枯らす『害虫の毒』だと。


土竜人族モグラジンの奴らだってそうだ、地面を這いずり回り、穴を掘るだけの『土の汚れ』だと蔑まれてきた」


彼は篝火かがりびに照らされた、夜の平原を指差した。


「だが、あんたは言った。『その酸は、鉄を洗浄し、レールを接合するための最高のクリーナーだ』と。


土竜の振動は『地盤を固めるための精密なプレス機だ』と」


蟻人族の男は、複眼の奥にある、普段は見せない湿った光を俺に向けた。


「今、みんがが食べているポテトを洗ったのも、俺たちの酸を希釈した水だ。


レールの継ぎ目が一本の線のように滑らかなのも、俺たちがミリ単位で地盤を揺らしたからだ。


……汚れ仕事だと思ってたことが、この国の『骨組み』になった」


シルヴァが深く頷き、ミエルがそっと蟻人族の硬い甲殻に手を添える。


「……智也さん。見てください。俺たちが動くと、あんなに巨大な鉄の塊が、何千人もの命を乗せて走る。俺たちの『毒』が、みんなを繋ぐ『薬』になったんだ」


彼は一際大きく、その誇り高き顎を鳴らした。


ありとして生まれて、ただ列をなして働くだけの毎日だったが……。


初めて、自分の吐く唾液の一滴に、世界を変える価値があるんだと知った。


……ありがとう、智也さん。俺たちはもう、ただの少数者じゃない。この鉄道を支える『技術者』だ」


(……ああ。彼らの『機能』は、差別というノイズに埋もれていただけなんだ)


俺は、彼らの六本の脚が刻んだ、完璧な軌道の跡を見つめた。


そこには、少数者という不条理を塗り替える、確固たる『工学の誇り』が刻まれていた。


【読者の皆様へ】

最後まで読んでいただき、心より感謝申し上げます。

日常の忙しさの中で、数分でもこのファンタジーの世界を楽しんでいただき、現実から離れてリラックスできる一助となれば幸いです。


~もしよろしければ、ブックマークや評価で応援いただけると、執筆の励みになります!~


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