――第33章・殺せ、さもなくば殺される――
フロア10,000―――
〈委託を受諾:残るのは“1人”のみ。ティア:3〉
「最高だな」神代コウイチが吐き捨てた。「お前みたいなデカいクソと戦わなきゃいけなければ、な」
「俺もだ!」深山ガクトが笑う。「でも狩人女がショーを望んでる。なら、見せてやろうぜ?」
「マジで言ってんのか。あの女、どう見ても胡散臭いだろ」
「そうかもな。でも強いのはわかる!」
ガクトが指を鳴らす。
「それに、お前が吐いた“あの侮辱”――あれの仕返しもしねぇとな!」
「はいはいまたそれか」コウイチはため息をつき、構える。「ついて来れるなら来い」
玉座の女――狩人女が二人を見下ろし、愉快そうに言った。
「お前たちの種は散々屠ってきた。だが……お前たちは違うかもしれないな」
「さあ、見せろ。カイダンチョウが何をできるかを!」
〈開始〉
ガクトが頭を反らす。
「ジュゲン闘士:灼熱兜!」
唸り声とともに突進。
コウイチは軽く跳んでかわし、片手を突き出した。
「ジュゲン後備者:呪いの封印!」
菱形の巨大なポータルが開き、ガクトの巨体が吸い込まれる。
コウイチがもう一度手を振ると、別のポータルからガクトが吐き出され、壁へ叩きつけられた。兜が消える。
「素晴らしい!」狩人女が拍手した。「そういうのが見たい! もっとだ! もっと見せろ!」
「安い小細工だ、ガキ!」ガクトが叫ぶ。
「俺は小細工の塊なんで」コウイチが平然と言う。
ガクトが地面を叩き、兜を再形成。
さらに身体を丸め、超高速で転がり始めた。
「ジュゲン闘士:灼熱疾走!」
闘技場を駆け、壁に激突し、跳ね返りながらコウイチを弾く。
「くそ……」コウイチが歯噛みする。
(デカいくせに速いって、反則だろ)
ガクトが跳び上がり、頭から着地。
衝撃波が走り、床が震えた。
「いいぞ!」狩人女が歓声を上げる。
コウイチは壁へ飛び、岩の出っ張りにしがみつく。
「……なるほど」
再びガクトが転がってくる。
コウイチは拳を握った。
「ジュゲン後備者:封印の網!」
黒い網が広がり、突進を受け止める。
ガクトは滑って後退した。
「頭が重すぎるんじゃねぇか?」コウイチが煽る。
「へっ」ガクトが笑う。「その小細工、全部使い切れ!」
「まだ一個ある」
コウイチは壁から飛び降り、ガクトが壁へ突っ込む瞬間に宣言する。
「ジュゲン後備者:罠糸の銃士!」
トリップワイヤーガンが現れ、ワイヤーがガクトの身体に巻き付いた。
ガクトは抵抗し、やがて勢いのまま球体へ戻り――ワイヤーごとコウイチを引きずって転がり始める。
「おい! 減速しろデカブツ!」
BOOM。BOOM。BOOM。
壁へ、壁へ、壁へ。
瓦礫が落ち、狩人女は嬉しそうに手を叩いた。
「最高!」
「影刀! もっと獅子肉を持ってこい! 今日の余興は当たりだ!」
狩人女は別の映像――オマリロ、名取ユカ、砂原アツシのフィードへ目を滑らせ、笑う。
「……本命の獲物は、まだ来ていないのにな」
◇
ガクトがコウイチを振りほどく。
コウイチは踏ん張って起き上がり、手からさらに網を射出――ガクトがかわす。
「外れた!」ガクトが笑う。
「じゃあ、もう一回撃つだけ」
同じ動き。
今度はガクトの脚に絡みつく。
ガクトが兜で地面を叩くが、網が反発し、壁へ吹き飛ばした。
BOOM。
土煙が晴れる前、岩が飛んできてコウイチの頭をかすめる。
ガクトが石を投げ上げ、兜で打ち返していた。
「その頭、何用途だよ……」コウイチが呆れる。
そこへ、闘技場にアナウンスが響いた。
「えー、カイダンの諸君。どうやら想定外の客人がイベントを“乱入”したようだ!」
「ディレクターかよ」コウイチが舌打ちする。「タイミング最悪」
「心配ご無用!」橘ハヤテの声が続く。
「そのまま続行してくれ。こちらで対処し、トーナメントは通常通り再開する!」
ガクトとコウイチが互いを睨む。
「まだやれるか、デカブツ?」
「今が一番元気だ!」
同時に踏み込み、ぶつかる。
◇
フロア9,999―――
月島カオルは狩人の屋敷らしき場所を歩いていた。廊下、扉、廊下。
「……ねえ、誰かいる? 私の班どこ? みんな?」
そのとき、ハヤテの声がどこかから聞こえ、カオルは足を止める。
「トーナメントが乗っ取られたって……」カオルが眉をひそめる。「やっと調子出てきたのに」
目の前にフィードが浮かび、コウイチとガクトの戦闘が映し出された。
「うわ。ディレクター、本当だったんだ」
すぐに別のUIが重なる。
〈委託:最終フロアへ到達せよ。ティア:2〉
「最終フロア……あの二人がいる場所?」
カオルは唇を引き結ぶ。
「フロア10,000行けるチャンス、逃せない。やる」
周囲を見回す。
「でも……どこから?」
前方に青いマーカー。
〈ウェイポイント:150m〉
「でっかい扉の向こうか。OK」
カオルが扉を押し開けると、ラウンジで狩人たちが酒を飲み騒いでいた。
奥の扉の前には巨大なライオンが二体、護衛のように構えている。
狩人たちが一斉にこちらを向いた、その瞬間――
何かが“すっ”と走り、カオルの腕を掴んで棚の陰へ引きずり込んだ。
「え――?」
「……しっ」
ゴツい狩人が歩き回り、辺りを見渡す。
「また風かよ。ダンジョン嫌いなんだよな」
狩人が背を向け、ビールを飲む。
カオルは横を見る。
「……西園寺ミズキ?」
「うん」
「どうやってここに?」
「あなたと同じ。狩人」
「これ……誘拐ってこと?」
「わからない」
「どうするの?」
「向こうの扉。あれが出口」
カオルが覗く。ライオン二体が扉の前でじゃれ合うように取っ組み合っていた。
「でっかい子猫だね……」
「そう」ミズキが頷く。「速く。静かに」
ミズキがしゃがむ。
「つかまって」
「いや、私の方が背も高いし年上だし、絵面が――」
「私の方が速い。乗って」
カオルは渋々ミズキの背へ。
ミズキは一瞬でシャンデリアへ跳び、二人は天井近くへ移動した。
「これ、持たない」ミズキが小声で言う。「ライオンが動いたら、一気に渡る」
「どうやって動かすの?」
ミズキはポケットからコインを出し、ライオンの少し先へ投げた。
“カン”という音。
ライオンが反応し、二体ともコインへ走る。
「掴まって」
ミズキが“シュッ”と加速し、扉へ。
瞬きの間にすり抜ける。
「……終わり」
「ミズキ……」
カオルが腕を引く。
振り向いたミズキの前に、巨大な狩人が立っていた。
「いい動きだ、お嬢ちゃんたち」
「狩人女にとって、最高の獲物だ」
棍棒が振られる。
――一撃。
二人の意識が暗転した。
「四人目」狩人が淡々と言う。「あと三人」
◇
闘技場。
ガクトとコウイチの衝突は続き、揺れが止まらない。
「もっとだ!」狩人女は愉悦に目を細めた。「圧を上げろ! 手加減するな!」
ガクトが頭で地面を叩き、床が震える。
コウイチはトリップワイヤーを壁へ撃ち、引っ張って退避する。
「小さい方」狩人女が評する。「機敏。創造的。速い。まさに狩人」
視線をガクトへ移す。
「大きい方は……」
ガクトが壁を砕き、コウイチを追い立てる。
「……猛牛」狩人女は笑った。「こっちが本命かもしれない」
ガクトは兜を外し、燃えるように輝かせる。
「ジュゲン闘士:灼熱兜投げ!」
兜が飛び、コウイチがワイヤーで固定していた壁に直撃――爆ぜた。
「いい!」狩人女が叫ぶ。狩人たちの歓声が闘技場を埋める。
コウイチは転がって立て直し、網を撃つ。
ガクトが突っ込んで弾かれた瞬間、ワイヤーで引っ張り、壁へ叩きつける。
BOOM。
「見事だ」狩人女が言う。「だが……まだ抑えているな」
「教えてやろう。勝者には――この“トーナメント”で800ポイントを与える」
「それだけで、お前の班は一位になれる」
「800……」コウイチの目が細くなる。
「それなら!」ガクトが気づく。「俺が一気にトップに――!」
「悪いなデカブツ」コウイチが低く言う。「その点、渡せねぇ」
「やってみろ!」
ガクトが体当たりし、コウイチが吹き飛ぶ。
だがコウイチは封印で弾き返す。
ガクトが兜を投げる。
コウイチが網で跳ね返し、兜がガクトへ刺さるように戻る。
「ぐ……」
「降参するか、デカブツ?」
「するかよ!」
狩人女が立ち上がり、顎に手を当てた。
「面白くしよう」
玉座の傍らにあった頭蓋骨を拾い、囁く。
「――密林の怒りよ」
UIが二人の頭上に浮かぶ。
〈規則:密林の怒り。地形変動……〉
闘技場が“ジャングル”へ変わった。蔓、木々、川。
狩人女は満足げに笑う。
「よし。真の捕食者を決めよう」
〈ドメイン効果:忍び蛇
説明:4秒以上“視認”されると《蛇撃》が発動する〉
「覚えておけ、戦士ども」狩人女が言った。
「私の視界に四秒以上残れば――痛い目を見るぞ」
コウイチはワイヤーで木の葉へ。
ガクトは茂みに潜る。
「くだらねぇ」コウイチが舌打ちする。「命懸けのかくれんぼかよ。次は鬼ごっこでもやらせんのか?」
自分で頬を叩く。
「……余計な案は出すな。あの筋肉バカ、どこだ」
周囲に気配がない。
「デカいんだから隠れられるわけ――」
BOOM。
コウイチが乗っていた木が揺れ、倒れ始めた。
コウイチは次の木へ跳び、葉に潜る。
(待て、今の……静かすぎるだろ)
(あいつの巨体が、どうやって)
倒れた木の近くに兜が落ちている。
「……そっか。兜を置いて、本人は別にいる」
コウイチがニヤリとする。
「バカじゃなかったな。じゃあ、こっちもやる」
ワイヤーを別の木へ。揺らす。
すぐにガクトが兜を投げ――その方向で“いる場所”が割れる。
「左……当たり」
コウイチは茂みにワイヤーを撃ち込み、ガクトを引きずり出し、蹴りを入れた。
「いてっ!」
コウイチは蛇のように転がって距離を取る。
ガクトは川へ飛び込んだ。
「次は取るぞ、ガキ!」
狩人女の右腕――影刀が肉皿を持って戻ってきた。
「狩人女。女のカイダンチョウを二人確保。静かな方と、よく喋る方」
「素晴らしい」狩人女は頷く。「連れてこい。餌にして他も引きずり出す」
「氷と石のカイダンチョウにも狩人を?」
「行け」
「“伝説”のカイダンチョウ――あいつには大部隊を」
「承知」
狩人女は肉を一口食べ、目を細めた。
「見えているぞ、小さいの。消えろ」
それに応えるように、コウイチが木へグラップルする。
直後、ガクトが突っ込み、その木を倒した。
「出てこい、ガキ!」
「遠慮しとく」
コウイチはワイヤーで別の木を倒し、網でガクトを押し込み、転ばせた。
「卑怯だが、隙だ!」
ガクトがワイヤーを掴み、コウイチを引きずり落とす。
〈警告:《忍び蛇》発動まで:2秒〉
二人は至近距離で殴り合い――
次の瞬間、緑に光る大蛇が襲い掛かり、二人をまとめて吹き飛ばした。
「ぐ……」コウイチがうめく。「冗談じゃなかったな」
「だな……」ガクトも呻く。「でも、まだやる気あるなら――今ここで決めるぞ!」
二人はふらつきながら構え、重い足取りで突っ込む。
ガクトが頭突きの体勢に入る――その瞬間、コウイチが封印札を取り出した。
「勝ちだ、デカブツ」
封印。
コウイチはガクトを解除し、木の上“真上”に出す。
ガクトは枝を叩き折りながら落下し、地面へ激突した。
「……いてぇ。はいはい、負け」
〈勝者:神代コウイチ
エイカイダン総ポイント:1,100〉
狩人女と観客の狩人たちが立ち上がり、拍手する。
「では――仕留めろ。相手を」
コウイチは狩人女とガクトを見比べた。
「いや。いい」
狩人女の表情が凍る。
「……何だと?」
「悪いけどさ」コウイチは肩をすくめる。「カイダンチョウ同士で殺し合いはしねぇ」
そしてガクトに手を差し出し、引き起こす。
「その代わり、ボコる。これは一生モノの負けだ」
「地形が味方しただけだ」ガクトが顔をしかめる。
狩人たちが武器を抜く。
だが狩人女が手を上げて止めた。
狩人女は闘技場へ飛び降り、着地する。
歩くたびに、背が、筋肉が、圧が増していく。
「やべぇ」ガクトが小声で言う。「怒らせたな」
「女、怒らせるの得意なんだよ」コウイチがぼそっと返す。
狩人女は二人を見下ろし、低く言った。
「お前たちの“仲間意識”は見事だ」
「だが、ここは野生だ」
「ここにある規則は、ただ一つ」
両手にナイフが形成される。
右目が深緑に光った。
「――殺せ。さもなくば、殺される」
―――




