表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/43

――第30章・獅子丸――

フロア1,931―――


 アツシ、ノノカ、ユズハは階段を降りていった。松明の火が、一段ごとに揺らめく。ユズハは手を差し出し、淡い緑の光を灯す。


「何してんの」ノノカが訊く。


「自分に祝福をかけてるの。神殿って、下に行くほど怖くなるから」


「私らは?」


「……ごめん。エルフにしか効かない」


「だろうね」


 やがて巨大な石扉に辿り着く。扉には蛇の彫刻。


〈神殿の心臓部・入口〉


「心臓部……」アツシが呟く。「いい所に来たらしいな」


〈進行にはパーティ全員が必要〉


 扉に手形のスロットが三つ光り、1、2、3の表示が浮かぶ。


「私たち、どれが誰?」ユズハが首を傾げる。


「私が最後に入ったし」ノノカが肩をすくめる。「じゃ、私が3」


「ってことは私が2?」ユズハが気づく。「アツシが先頭だったから」


 アツシは自分の手を見てから、1のスロットへ置いた。ユズハとノノカも続く。扉が軋み、重く唸り――


〈通行許可〉


 扉が剥がれるように開き、内陣が現れた。玉座の上、巨大な黒い宝箱が宙に浮いている。


「ジュゲン王の秘宝!」ユズハが息を呑む。「あれだ! あとは取るだけ――!」


「待て」アツシが制す。「聖なる戦利品が、こんなに無防備なはずがない。しかも危険が見えない」


「あ……そ、そうだよね」ユズハが赤くなる。「任せて!」


「……?」


 ユズハが前へ出る。手首から緑の蔓が伸びた。


「ジュゲン魔法士:野生の狩人の守護鹿――カクタ」


 緑毛の大鹿が召喚され、ユズハはその頭を撫でる。


「行って、カクタ。罠、嗅いできて!」


 鹿は頭を下げ、周囲を丹念に嗅ぎ回る。数分後、ユズハのそばへ戻り、身を寄せて鳴いた。


「……何もない? 本当に? 助かったぁ」


「それ、分かんの?」ノノカが口を挟む。


「当然! 私のペットだもん。鳴き声で考えてること全部わかるの」


「面白い術だな」アツシが言う。「他に何ができる?」


 アツシは宝箱へ向き直る。

「安全が確認できたなら、残りはこの箱を取るしかない」


 腕を石に変え、宝箱へ手を伸ばす――


〈エラー:条件未達〉


「……何?」


 部屋が揺れ、正面の壁の中央に、光る眼が二つ浮かんだ。


〈何者だ〉


「神殿、怒らせたんじゃないっすか、隊長」ノノカが言う。


「黙れ」アツシが低く言う。「誰が喋っている」


〈それは重要ではない。貴様らはこの宝を望むのか〉


「望む」アツシが即答する。「手に入れるまで出ない」


〈ならば、この神殿の守護者と相まみえよ〉


「守護者とは誰だ」


〈――我だ〉


 壁が粉砕され、巨大な獅子が現れた。灰のような肌、灰色の鬣、緑の眼。喉の奥から低い唸りが漏れる。


「ここへ踏み込み、生きて帰った者はいない。貴様らが初めだとでも?」


「統計は俺に効かない」アツシが言い切る。「俺は“そいつら”じゃない」


「なら、試すとしよう。来い、愚かな定命の者ども。宝を得たければ――勝ち取れ」


〈ボス:ジュゲン神殿の守護者――獅子丸 ドメイン効果:???〉


「戦闘か」アツシが肩を回す。「なら望み通り――」


「違う、定命」獅子丸が言った。「これは戦いではない」


 光が三人を包む。


「――虐殺だ」


〈フェーズ1:開始〉


 閃光。空間が反転し、ユズハは一人になっていた。暗い洞窟の中心、崩れかけの橋の上。


「わっ……どこ、ここ?」


 橋の端が巨大な爪で抉られ、もう片方の爪が続く。下から獅子の頭がせり上がり、ユズハを見据えた。


「ひっ……!」


〈ルール:獅子丸を倒せ Lv65,000〉


「エルフか」獅子丸が舌なめずりするように言う。「貴様らを喰らうのは久しい。どれほどのものか見せろ」


 彼の横にトーテムが二本出現し、頭上のUIはどちらも0%。


〈トーテムをチャージし、獅子丸へATKダメージを与えよ〉


「どうやってチャージすんの!?」ユズハが叫ぶ。「説明書つけてよ、ダンジョンって!」


 獅子丸が爪を振るい、ユズハはよろめいて橋の端へ追い込まれる。

「痛っ! 待って、肌弱いんだけど!」


 獅子丸が掴みに来る。ユズハは転がって避ける。


「ジュゲン魔法士:持続の叡智のエルフ梟!」


 フクロウが三羽出現し、翼から棘のような荊を放った。


〈ボスHP:100%→98%〉


「よし! そのまま当てて!」


 棘の一本が弾かれ、トーテムに当たって緑に光る。


〈トーテム1ゲージ:5%〉


「え、魔法で溜まるの!? 最高!」


「愚かな娘め」


〈《不安定な猛攻》発動中〉


 天井から石の棘が降り注ぎ、フクロウを破壊し、ユズハの肩も掠めた。

「いった! ずるい!」


 獅子丸の一撃で橋が真っ二つになる。


(やばい、やばい! エルフがライオンの攻撃耐えられるわけない!)

(トーテム優先! 今すぐ!)


 ユズハは両手を重ねる。

「ジュゲン魔法士:エルフ王朝の加護!」


 緑の葉が頭上に浮かぶ。


〈《祝福》発動:ATK被ダメージ80%軽減〉


 エルフの弓兵が三体出現し、獅子丸へ矢を放つ。ユズハはトーテムを指した。

「そっちも! 当てて!」


 二体がトーテムへ向けて矢の雨を浴びせる。


〈トーテム1ゲージ:5%→20%→40%〉

〈トーテム2ゲージ:0%→15%→35%〉


 獅子丸が噛みつこうとするが、最後の弓兵が矢で顔面を撃ち抜いた。


〈ボスHP:98%→92%〉


「カクタ、行って!」


 ユズハは鹿に跨る。獅子丸が再び棘を降らせるが、弓兵が空中で撃ち落とした。


「ありがと、私の特技!」


〈トーテム1ゲージ:満タン〉


 トーテムが爆ぜ、獅子丸の胸を撃ち抜く。


〈ボスHP:92%→50%〉


「いいぞ!」


 獅子丸は体勢を立て直す。

「忌々しいエルフの魔法め……だが貴様はここで喰われる!」


「カクタ! 次、2本目!」


 獅子丸の目が光り、橋が激しく揺れる。ユズハは鹿から投げ出され、カクタはそのまま奈落へ落ちた。


「カクタ――!」


 ユズハは獅子丸を睨む。

「このクソライオン! 私の動物に手出しすんな!」


「次は貴様だ」


 爪が迫るが、矢がその動きを止めた。


〈ボスHP:50%→47%〉


「樹上暮らしめが!」


 ユズハは弓兵へ手を伸ばす。

「力、貸して! 私がやる!」


 三体の弓兵が合体し、巨大なエルフの牡鹿へ――さらに光がユズハを包む。手に弓が形作られ、ユズハはトーテムへ狙いを定めた。獅子丸が噛みつきに来る。


(魔法、頼む……失敗したら、マジでキレる!)


 矢を番える。

「ジュゲン魔法士:エルフ王朝の加護――ネイチャーズ・フューリー!」


 緑の一矢が放たれ、トーテムを貫いた。


〈トーテムゲージ:満タン〉


 爆発的なエネルギーが獅子丸を直撃する。


「ぐ……エルフに……やられるとは……だが……次は……もっと従順な奴を――」


 獅子丸は奈落へ落ち、闇に消えた。


 次の瞬間、アツシがユズハの隣へ着地する。


「エルフ」アツシが呼ぶ。「無事か」


「う、うん! ライオン消えた!」


「見ていた」アツシが言う。「大した魔法だ。なぜ今まで使わなかった」


「消耗が激しいの! 早めに使い切りたくなかったし! あと、私には名前がある! ユズハ!」


 アツシは彼女を値踏みするように見る。

「……使い道はありそうだな、ユズハ」


「え? どういう意味?」


「今はいい。ノノカを探す」


    ◇


「もしもーし。アツシ? ユズハ? ……はいはい。相変わらずだな」


 ノノカは岩を蹴りながら歩いた。彼女のいる場所は、海の上に浮かぶ無数の島。いくつかが発光している。


(娘扱いしといて、二分で消えやがる)

(人間ってほんと終わってる)


 そのとき、隣の島へ獅子丸が落下し、ゆっくり頭を持ち上げた。


「……ふむ。次の獲物か」


 不気味な笑みが浮かぶ。

「来い、娘」


〈フェーズ2:獅子丸を倒せ〉


「は?」ノノカが飛び退く。「どっから湧いた――」


 獅子丸が口を開く。凄まじいエネルギーの奔流が放たれ、ノノカの足場の島が砕け散った。

 ノノカは咄嗟に蔓に掴まり、別の島へよじ登る。


「質問に答えろって!」


〈ドメイン効果:《獅子の突撃》

獅子丸は口からエネルギー砲を放つ。現在HPに応じた継続ATKダメージ〉


「私が地獄担当かよ」ノノカが呟く。「先に倒した奴の方が楽だっただろ、絶対」


 獅子丸が再び砲撃。外れ、背後の発光島に命中し、反射して獅子丸へ返った。


〈ボスHP:100%→66%〉


 獅子丸がよろめく。


〈獅子丸の《突撃》を発光島へ誘導し、反射でカウンターせよ〉


 残りの発光島がさらに強く光った。


「それならできる」ノノカが安堵する。「釣ってやるよ」


 首元に手を当てる。

「ジュゲン操運者:呪いのスキル強化!」


〈バフ付与:現在のパーティメンバーに200%バフ〉


 獅子丸が跳び、ノノカの島へ着地するが、ノノカは発光島へ滑り込むように移動して踏みとどまる。


「こっちだ、ライオン!」


「舐めるな、娘!」


 砲撃。ノノカは次の島へ跳ぶ。ビームが島を破壊し、反射して獅子丸の肩を抉った。


〈ボスHP:66%→33%〉


 獅子丸が肩を鳴らす。

「前の娘より骨がある。どこまで耐えられるか見せろ」


〈《獅子の突撃》効果上昇〉


 獅子丸が上空へ砲撃し、ビームが分裂して無数に降り注ぐ。ノノカは避けるが、一発が胸を撃ち抜き、吹き飛ばされて島の縁へ――


「クソ!」


 両手で縁を掴み、必死に耐える。

「腕、仕事しろ……!」


 唸り声とともに引き上げた瞬間、目の前に獅子丸が待ち構えていた。


「もう手が尽きたか」


 獅子丸が砲撃を溜める。ノノカは笑った。


「まだ」


 ノノカは足元を指すように視線を落とす。

「ここ、光ってんだろ」


 獅子丸が気づいたときには遅い。島が発光している。


「……しまっ――」


BOOM。


 砲撃が島を砕き、ノノカは逃げ、反射が獅子丸を奈落へ叩き落とした。


〈ボスHP:33%→0%〉


 ノノカは座り込み、荒く息を吐く。

「ノノカ、1。デカい悪ライオン、0」


 奈落を見下ろす。

「アツシとユズハ、どこだよ。まあ……死んでないだろ。たぶん」


    ◇


下方――


 アツシは落下感を覚え、神殿の屋根へ着地した。

 そこに獅子丸がいた。今度は人型に近い姿。


「何の遊戯だ」アツシが睨む。「エルフが倒したはずだ」


「些末な勝利だ」獅子丸が言う。「仲間を試しただけ」

「だが今――真の試練に値するのは貴様だ。カイダンチョウ、砂原アツシ。Lv83,000。見事。エリートの一部に並ぶ」


「……エリート?」


「気にするな」獅子丸が言い捨てる。「来い、カイダンチョウ。俺と向き合え」


〈フェーズ3:獅子丸――覚醒形態を倒せ Lv84,000〉


 獅子丸の身体が膨張し、変質し、純白の半透明の獣――白いエネルギーの塊へ変わった。四つ足でアツシの周囲を巡り、獲物を量る。


「ジュゲン王に仕えて以来、この姿は解いていない」

「生きているうちに楽しめ。残り時間をな」


〈ドメイン効果:《獅子の災厄》

攻撃されない場合、獅子丸は15秒ごとに高速ダッシュを行う〉


「宝が欲しいなら」獅子丸が嘲る。「見せろ」


 獅子丸が爪を地面へ叩きつける。神殿が軋み、空へ持ち上がり、空が暗転した。


 外で待つナラク・カイダンの面々が見上げる。


「何が起きてる?」

「分からねえ」

「隊長とノノカ、大丈夫なのか?」


 空中。アツシは一度だけ下を見てから、獅子丸へ向き直り、拳を打ち鳴らす。


「いい試練だ」アツシが言った。

「この先の試練への準備になる。試すと言ったな――なら試せ」


 獅子丸が迫る。だが突風が吹き、巨体が押し戻される。


「ジュゲン変性者:黒曜石ゴーレム!」


BOOM。


―――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ