表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/42

――第26章・覚醒――

フロア1,321―――


 ザリア、リカ、そしてレイは、凍える川から体を引き上げ、全身ずぶ濡れになった。


「最高……」リカがうめく。「せっかくのカールが台無し……」


「カールはいいから、他のみんなは?」ザリアが焦った声を出す。


 レイは川べりに引っかかった車両を指さした。

「あそこにいると思う!」


 三人が車両へ向かって駆け出そうとした瞬間、狩人たちが突如周囲を取り囲み、武器を構えた。


「はいはい、悪党が目の前、と……」ザリアがため息をつく。


「待って……」リカが目を凝らす。「こいつら、あの船で私たちを閉じ込めた奴らと同じ服!」


「ドッコ……なんとか、だっけ」ザリアが思い出そうとする。「ほら、あいつらの――」


「ドッコウ団だ」誰かが訂正した。


「それそれ」


 背後でエンジン音が唸り、バンが動き出す。荷台には、鎖で固定された像。


「ちょっと!」リカが叫ぶ。「それ、私たちのじゃん!」


「いや、正確には――」ザリアが言いかける。


「今は私たちのよ、ザリア!」


 リカが追いかけようとするが、狩人たちが進路を塞ぐ。


〈経路A:追跡〉

〈経路B:残って戦闘〉


「何を迷うの?」リカがUIを睨む。「賞品が逃げてくんだよ!」


「でも先生とハンがまだあっちに――」ザリアが食い下がる。「困ってたらどうする?」


「隊長を疑うの?」リカが鋭く返す。「像を取り返せなかったら、先生に何言われると思う?」


 ザリアは一瞬だけ考え――舌打ちした。

「……分かった分かった。行くわよ」


 ザリアはUIに向かって言い放つ。

「経路A。今すぐ!」


〈確定。パーティーの進路を再設定します〉


 狩人たちが飛びかかってきた、その瞬間――三人の姿が消えた。


〈※一時車両を付与します〉


 次に目を開けると、三人は金属光沢のあるハイテクなスポーツカーの車内にいた。運転席にはザリア。


「うわ……」ザリアが目を丸くする。「ママ、こんなの一回も買ってくれなかったんだけど!」


「感想はいいから」リカが即答する。「踏めるなら踏んで! 追うよ!」


「え、どれがペダル?」


 リカは深いため息をついた。

「交代。私がやる」


 ザリアは肩をすくめて席を替わる。リカはシート周りを必死に探す。

「……は? ハンドルもないし、ペダルもないんだけど!」


「だから言ったじゃん!」


 レイが前方を指さす。

「バン、行っちゃった。えへへ!」


 リカはダッシュボードを叩いた。

「動け! このポンコツ!」


 まるで返事をするように、車が唸り声を上げて起動し、バンを追って猛加速した。


「おお!」ザリアが歓声を上げる。「動かしたじゃん! そのまま踏め踏め!」


「いや、私なにもして――」


 ガクン、と車体が跳ね、三人は右側ドアに叩きつけられる。リカはザリアにぶつかった。


「痛っ!」


 ザリアは頭をさすりながら叫ぶ。

「運転してないなら、誰が運転してんの!? レイ、魔法とか――」


 レイは両手を上げる。

「してないよ!」


 前方のバンがこちらに気づき、ドッコウ団が爆弾を投げ始める。だが車は、信じられない精度でそれらを全て回避した。


「何が起きてんの……?」ザリアが眉をひそめる。


 運転席に置きっぱなしだったリカのスマホが、突然点灯した。

『当ててみて?』


「ひいいっ!」


 リカは反射でザリアに抱きつく。

「幽霊! 幽霊だ!」


 画面には、にこにこの顔文字。

『いたいた! 友だち! ザリアとリカ、友だち!』


「名前まで知ってる!」リカが震える。


 ザリアは目を細めた。

「待って、これ――」


『正解! ぼくだよ! 君たちの親友、ソウシン!』


 リカは姿勢を正す。

「ソウシン……? まだ私のスマホにいたの!? ちょっと待って、私のメッセージ見てないよね?」


『見たよ!』


「それは忘れて」ザリアが強引に切り替える。「てか、どうやってこの車を運転してるのよ!」


『簡単! ジュゲン操運者が使えるんだ! 見てて!』


 車が震え、さらに速度を上げた。

『ジュゲン操運者:自律車両変形!』


「うおお!」レイが拳を上げる。「速い! バレルロールして!」


『いいよ!』


 車は段差を飛び、回転しながら爆弾の雨をすり抜け、タイヤから完璧に着地した。


「……今の、現実?」リカが呆然。


「現実だね」ザリアも呆然。


 リカは運転席に戻り、スマホをダッシュボードに置く。

「いい? ソウシン。私たちを殺さない前提で、ちゃんと大人みたいな運転を――」


 ドンッ。


 車がオーバードライブに入り、ドッコウ団のバンと並走した。


「見て!」ザリアが指さす。「ユウトと、あのムカつく二人!」


 バンの屋根には日向ユウト、そして一ノ瀬アイリと白鷺リオ。ユウトは三人に気づくと顔をしかめた。


「はぁ……またお前らかよ。二回連続とか運悪すぎだろ」


 ザリアは窓を下ろす。

「おい、バカ! その像、返してもらう!」


「うるせえよ」ユウトが吐き捨てる。「俺らは口喧嘩しに来たんじゃねえ」


 アイリが肩をつつく。

「今、口喧嘩してるけど?」


「今は黙れ、アイリ!」


 ザリアはシートから立ち上がり、窓から外へ出ようとする。リカが腕をつかんだ。


「何してんの!」


「走ってるバンの上で戦う準備」ザリアは当然のように言う。「他に案ある?」


「危ないでしょ!」


「私が危険そのものだし」


 ザリアはソウシンの車の屋根に軽々と上がった。

「よし、ソウシン! 揺らすなよ!」


『はーい!』


 ザリアは手を伸ばす。

「ジュゲン闘士:呪槍――」


〈エラー。エラー。スキルは適用できません〉


「あ、そっか。えーっと……」

 ザリアは言い直す。

「ジュゲン闘士:聖士刀(Seishitō)!」


 光る刀が彼女の手に形成され、ユウトの目が見開かれた。

「は? 二つ目のスキル解放したのか?」


「違う」ザリアがニヤリ。「新しいの引いただけ。死ね!」


「ぐっ!」


 ザリアはバンの屋根へ飛び移り、刀を突き立てて身体を固定する。

「で、誰から来る?」


 ユウトはリオを前に押し出した。

「お、おい! やれ!」


 リオはため息をつく。

「はいはい」


 風が渦を巻くように揺れ、リオの身体が淡く光り始める。

「ジュゲン操運者:迷彩(Camouflage)」


 次の瞬間、彼はザリアに体当たりした。


     ◇


「俺はチンピラじゃねえぞ、ジジイ。先に殴れよ」


 ハンは背後から見守りながら、ザンがオマリロの周囲をゆっくり歩き、値踏みするのを感じていた。


「どうした? 歳で鈍ったか? それとも最後の最後で臆病者になったか?」


 オマリロは動かない。


「残念だな」ザンが嗤う。「じゃあ、こっちで手早く終わらせる」


 黒いエネルギーが閃き、空中に爆弾が出現した。


「ジュゲン滅者:霊脈手榴弾!」


 腕を振ると、爆弾がハンとオマリロへ一直線に飛ぶ。


「先生!」ハンが叫ぶ。「危ない!」


「ふん」


 金色の光が走り、オマリロは弓で爆弾を次々撃ち落とした。


「へえ」ザンが手を叩く。「悪くねえ。おい、野郎ども!」


 部下たちの手に爆弾が配られ、ザンが指を鳴らすと一斉に投げられる。


「ジュゲン闘士:聖刃乱撃!」


 刃の雨が空中で迎撃し、連鎖爆発が起きた。


 ドン、ドン、ドン。


 煙が晴れたとき、オマリロの額に突きつけられていたのは――アサルトライフルだった。


「ジュゲン滅者:殲滅突撃銃!」


 弾丸の奔流が放たれるが、オマリロは至近距離でそれらをすべて刀で弾く。


「本気じゃねえか」ザンが目を細める。「動きは遅いのに、全部が“計算”だな!」


 ザンが銃で殴りかかる。オマリロは半歩ずらしてかわし、二人は間合いの中で打ち合いを始めた。

 ザンの攻撃は鋭い。だがオマリロは、寸分違わず受け流し、合わせ続ける。


「ジュゲン後備者:ヘキサゴン・キューブ!」


 トラップワイヤーがザンの身体に絡みつき、ハンがオマリロの横へ駆け寄った。

「先生! 拘束しました! 動けません!」


 ザンは楽しそうに笑う。

「お前、面白いな」


 その目が黒い光を帯びた。


「ジュゲン滅者:究極生命消滅器」


 オマリロの表情が一瞬だけ変わり、ハンを突き飛ばす。

「危ない、少年!」


 黒い衝撃波が二人を飲み込み、ハンは木へ叩きつけられ、オマリロは地面を滑った。

 オマリロが腕を上げると――肘から先が、そこにはなかった。


「言っただろ」ザンが冷たく言う。「お前の型は古いんだよ、オマリロ・ニュガワ」


 ハンはかろうじて目を開けた。

 ザンが銃口をオマリロのこめかみに押し当て――そのまま意識が落ちていく。


「……先生……」


     ◇


???――


〈ハン・ジス。理想じゃないが、取る〉

〈おい。こいつが限界だ。女どもは荒すぎる。騒がしい。読めない〉

〈バレたらどうする。あいつの知能を侮るな〉

〈それはお前の問題だ。健闘を祈る。……バイタルが落ちてる。急げ〉

〈……本当に癇に障る〉


「……もしもし?」

 ハンがかすれた声を出す。「誰か、喋ってる……?」


 沈黙。

 完全な沈黙。


「今、確かに聞こえた」ハンは呟く。「……暗い。古い。二人の人間が会話してる音じゃない」


 次の瞬間、記憶が一気に押し寄せ、ハンは頭を抱えて床に崩れた。


「ぐ……っ!」


〈トラウマ。孤独。失敗。哀れで、壊れた少年。……運命とはそういうものだ〉


     ◇


 ――数年前。


「ダンジョン探索してるって?」


「うん! 昨日、ジュゲン%が50に行った!」

 キヨシは得意げに言う。「“固定”って言ってた奴ら、嘘だったな!」


「でも……危険じゃないのか?」


「人生、危険だらけだろ」キヨシは笑った。「危険だからやらない、って話でもない」


「例を挙げろ」


「車の運転。飛行機。外歩いてたら流れ弾だってある」

 キヨシは肩をすくめる。「リスク取らなきゃ強さは手に入らない。賢いだけじゃ、強くなれないんだよ」


「……下等生物の思考だな」


 ハンの部屋。

 宿題をしているハンの横で、キヨシは手のひらサイズのホロ・キューブを浮かせて遊んでいた。


「これ、マジで便利」キヨシが自慢する。「生きたダンジョン百科事典が手元にあるようなもんだぜ」


「それでも死亡リスクは高い」ハンは淡々と言う。「事実として」


「相変わらず悲観的だな」キヨシは手を振った。

「明日の放課後、板橋ダンジョン一緒に行かね?」


「俺は外で待つ」ハンは肩をすくめる。

「俺のジュゲンスキルは《永久呪縛》だけだ。中に入る理由がない」


 キヨシは立ち上がった。

「使いどころはあるかもしれないだろ」


「あるかもな」ハンは認めた。「ただし、一回しか使えない」


     ◇


 ――数日後。


 板橋ダンジョンのゲート前で、キヨシがハンの肩に手を置いた。

「やっぱ中入らない?」


「入らない。危険すぎる」


「そっか」キヨシは笑い、キューブを掲げる。

「もし俺に何かあったら、これお前にやるよ。怖がりが少しはマシになるかもな」


「大げさ」ハンは目を細める。「詰んだら安全階層に戻れ。お前はレベル3,500だ。無茶はするな」


「了解!」キヨシは親指を立てた。「じゃ、向こうでな」


 彼はゲートをくぐり、扉が閉じる。


「すぐ戻るだろ」ハンは思った。

「フロア1万なんて、行けるわけがない」


 だが――何時間経っても戻らない。

 ハンは次第に不安になり、周囲をうろつき始めた。


「いつもより奥まで行っただけだよな?」

「レベル3,500で、下層なんて無理だ」


 そのとき、ゲートがせり上がり――赤く染まった。


「赤……?」ハンが息を呑む。「何の意味だ……?」


 ゲートの向こうから、悲鳴が聞こえた気がした。


「くそ……キヨシ!」

 ハンは歯を食いしばり、ゲートへ飛び込む。


〈侵入を検知――フロアレベル:10,000〉


 ハンは顔から落ち、起き上がった瞬間、地獄を見た。

 血まみれの死体。燃え盛る炎。流れる溶岩。


 彼が落ちたのは玉座の間の中心。

 そこにキヨシが倒れ、血を流していた。


「キヨシ!」ハンが駆け寄る。「何があった!? なんで最終階層に――!」


「経路……」キヨシはかすれた声で言う。

「出たんだ……一気にクリアできるって……チャンスが……」


「バカか! お前、レベル1万じゃないだろ!」


「でも……助けが必要な人がいた……」

 キヨシは笑うように息を吐く。「ほとんど失敗したけど……何人かは逃がせた……」


 ハンは彼を抱え上げようとする。

「今すぐ出るぞ! ゲートが――」


「ハン……走れ」キヨシが止める。「レイドボスが来る……二人とも裂かれる……」


「置いていけるか!」


「ぐおおおおお!」


 部屋の外から、凄まじい咆哮と地響き。


「時間がない……」キヨシは震える手で言う。「俺のスキル……持っていけ……」


「嫌だ。お前のスキルだろ!」


 キヨシはシャツを持ち上げ、裂けた腹を見せた。

「もう俺には使えない……お前の頭なら、もっと上手く使える」


「でも――!」


 足音が近づく。

 キヨシはハンの腕を掴んだ。

「……頼む……取れ……ハン……」


 ハンは目を閉じ、涙を落とす。

「……わ、分かった」


 震える手で友の腕を握り、唱える。

「ジュゲン後備者:永久呪縛」


 黒いエネルギーが二人を包み、ハンの身体に強烈な力が流れ込んだ。

「……いけた、気がする」


 その瞬間、獣が扉を破って飛び込んでくる。


「――肉ぅ!!」


 突進してくる獣。

 そして、時間が止まったように――二つの経路が現れた。


〈経路A:ハンを救う〉

〈経路B:自分を救う〉


 ハンが反応するより早く、キヨシが口を開いた。


「……A」


「やめ――何して――!」


〈確定〉


 見えない力がハンをゲートの方へ引きずり、キヨシは親指を立てる。

 次の瞬間、獣の鉤爪がキヨシを掴み上げ――彼は二度と戻らなかった。


     ◇


 ――フロア1,321。


 ザンが銃口をオマリロのこめかみに押しつける中、ハンはゆっくり目を開けた。


〈目覚めろ、ハン。目覚めろ〉


 誰も気づかない。

 ハンの瞳が、一瞬だけ紫に光ったことを。


 ――ほんの、一瞬だけ。


——

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ