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――第25章・ミッドナイト・トレイン――

――第1,321階層。――


 ミッドナイト・トレインは丘を抜け、川の上を滑るように走り抜けていく。

 その最後尾のデッキに、五つの人影が次々と飛び乗った。


「やっと……」

 ハンは汗だくになりながら息を切らす。「追いついた……」


「最初からテレポートじゃダメだった?」リカが首をかしげる。


「走る。体に良い」オマリロがぼそり。


「でも先生……自分は全然走ってませんでしたよね」


「走らない」


 オマリロは最後尾のドアに手をかけ、一気に開け放つ。

 そこには、マスクをつけた忍者たちがぎっしり詰まっていた。


「満員。悪い」


 忍者たちが一斉に立ち上がり、刀を抜いた――が、オマリロが両手を一度叩いた瞬間、彼らは跡形もなく消し飛び、衣装だけがどさどさと床に落ちた。


〈敵撃破:+6〉


「空席。よし」


 子どもたちは、ぽかんと口を開けて固まる。


「毎回思うけど、規模がおかしいんだよな……」ハンがぼやく。


「ねえ、先生!」ザリアが指さす。「なんか出てきました!」


 彼らの頭上に、三つのUIバーが浮かび上がる。


〈経路を選択してください〉

〈経路A:潜入〉

〈経路B:強行突入〉


「経路……?」リカが見上げる。「これ、選ぶとクエスト変わる系?」


 ハンはUIから自分のキューブへと視線を移し、目を細めた。


「慎重に行くべきだな。噂は聞いたことがある。“外れのパス”を引くと死ぬほど面倒になるって」


「つまり、殴り合うってことよね?」ザリアがニヤリと笑う。


「やったー!」レイが両手を上げる。「戦い! 戦い!」


「いや、そこで“当然バトル”って発想やめて?」ハンは即座に否定した。「潜入の方が統計的に絶対楽だし、何のボスが待ってるかも分かってないんだぞ?」


「統計的に、とか言ってもさ」ザリアは肩をすくめる。「こっちには“世界最強”の男がいるんだから、ビビらずに戦えばいいじゃん」


「私はハンに一票かな」リカはあっさり言う。「殴らずに済むなら、それが一番平和でしょ」


「二対二か」ハンはオマリロを振り返る。「ニュガワさん、先生はどっちがいいです?」


 予想に反して、オマリロはすでにボックス席に座り、コーヒーを飲んでいた。


「決めるの、子ども」

「時間、少ない」


 頭上のUIがひとつ追加される。


〈経路選択 残り時間:0:30〉


「戦闘一択でしょ!」ザリアが主張する。


「いや、理性的に考えようよ」ハンが言い返す。「潜入だって立派な作戦だ」


「ダサ。でもまあいいわよ」ザリアはため息をつく。「あんたらが“おままごと潜入作戦”したいなら付き合ってあげる」


「やっと話が通じたな、女」


〈残り時間:0:05〉


「Aで!」リカが手を挙げる。「経路A、行きます!」


〈経路Aが選択されました。確定しますか?〉


「はい、確定!」


〈確定しました。

 目標:ミッドナイト・トレイン先頭車両まで潜入せよ〉


「ふう……」リカは胸をなで下ろす。「で、どうやって?」


 ザリアは頭を抱えた。

「そこで詰まるなっての」


 オマリロは床に散らばった忍者装束を拾い上げる。


「着る」


 それぞれに一着ずつ投げてよこした。レイはきらきらした目でそれを見つめる。


「わあ……本物の忍者みたいになれる!」


「なりたくはないな」ハンが顔をしかめる。「てか、俺のだけサイズおかしくない?」


「ぎゅっと詰めれば入るって」リカが言う。「いける、いける」


「いや、いけてないからな?」


 ほどなくして、全員が忍者衣装に身を包み、マスクで顔を隠した。


「紛れろ」オマリロが低く告げる。「芝居、崩さない」


「了解、小声で行きます」


 オマリロが勢いよくドアを開けると、次の車両の入り口で見張りの忍者が待ち構えていた。


「おい……」一人が手を上げる。「さっき、ここ六人いなかったか?」


「どけ」オマリロは淡々と言い放つ。「忍者、目悪い」


「はあ?」


 リカがそっとオマリロの袖をつつく。

「先生、ここは私に任せてもらっても?」


「行け」


 リカは一歩前に出て、両手を合わせた。

「ごめんなさい! うちの師匠、ちょっと口が悪くて。実は、一人列車から落ちちゃって」


「は?」


「さっきスピード上げたでしょ? あの時に酔っちゃって――吐きに出て、そのまま、ぽーんって」


「……助けなかったのか?」


「動いてる列車から飛び降りたいように見える?」


 見張り二人は顔を見合わせた。

「……ごもっとも」


「で、何の用件だ?」


「わ、我々は、その……」


 オマリロは忍者を完全に無視して、ドアの方へ歩き出す。

「重要任務。邪魔」


「その“重要任務”とやらは?」


「像の護衛だ!」ハンが口を挟む。「博物館からかっさらってきた、あの高い奴」


「像なら、もう専属の護衛がついてるが?」


「護衛はいくらいても困らないだろ? いざとなったら、身代わりに――」


「ん?」


「いや、“万全の布陣”になるだろって話!」


 二人は肩をすくめる。

「まあ、理屈は分かるが……あの像はマジで高いぞ。へまするなよ」


 こうして一行は車内へと入り込んだ。

 そこは、さっきの車両とは打って変わって、ギャンブルとダンスで盛り上がるパーティー会場だった。

 天井からはミラーボールまでぶら下がっている。


「ブレイク・イット・ダウン! イェーイ、ブレイク・イット・ダウン!」


 真ん中では、女忍者二人がペアで踊っている。

 ハンは思わず目をこすった。


「……いろいろ見せられすぎて、精神が死ぬ」


「わたしたちも踊る?」レイが一歩踏み出そうとする。


 ザリアはすかさず腕をつかんだ。

「踊らない。絶対」


「ええー、ザリアぁ」


 ようやく周囲の忍者たちがこちらに気づき、どよめきが起きる。

 巨体の忍者がワインボトル片手に近づいてきた。


「お前ら、新入りか?」


「はいっ、超新入りです!」ハンは必死に頭を下げる。「なので、その、何の問題もトラブルもイレギュラーも起こさず、一瞬で通過させていただけると非常に助かり――」


「お前らも祝えよ」巨忍者は笑う。「史上最高クラスの高額遺物をかっさらってきたんだ。祝杯あげずにどうする」


 その頭上に、またしてもUIが二本浮かぶ。


〈経路A:分散行動〉

〈経路B:全員同行〉


「分散だと?」ザリアが眉をひそめる。「何のために?」


 大男は足元をふらつかせ、座席に手をついた。

「いいから、一杯付き合えよ~」


「それだよ」ハンは深いため息をつく。


「何のスイッチなんだろうね、これ」レイは楽しそうにUIを見上げる。


「頼むから、俺のいるグループだけでもここから退避させてくれ……」ハンは心底願った。「あの――地獄絵図から」


 彼が指さした先では、ニンジャたちが頭にテキーラグラスを載せて踊り始めていた。


「でも、もう少し考えてからでも……」リカが口を挟む。「もしかしたら、合流できなくなるとか――」


「経路A!」ハンが叫ぶ。「経路Aを選択!」


〈確定しました。

 パーティー分断を開始します〉


 次の瞬間、レイ、リカ、ザリアの三人の姿がふっとかき消え、ハンとオマリロだけが残された。


「ちょっ、待っ――やっぱBで! Bでお願いしま――!」


 大男は辺りを見渡した。

「……あれ? 今、女の子三人いなかったか?」


 しかし、すぐにどうでもよくなったらしい。

「まあいい。ツイスターの時間だ! お前もこい!」


 ぶ厚い手がハンの肩をつかみ、中央へと引きずっていく。


「せ、先生……助けて……」


 オマリロはコーヒーを啜った。

「少年、大丈夫」


     ◇


 その頃――


 別の車両に転送された三人は、顔から床へダイブしていた。

 周囲には誰もいない。


「あーあ……」リカがうつ伏せのまま嘆く。「ちょっとぐらい踊りたかったのに……」


「先生と一緒がよかったけど」ザリアは起き上がりながら肩を回す。「まあ、ハンの顔が楽しみだからいいか」


「だね、ちょっとだけ面白い」


 レイは白く光る手をひらひらさせた。

「完全に貸切! この列車、全部わたしたちのものだよ!」


〈目標:ミッドナイト・トレイン先頭車両に到達せよ〉


「目標自体は単純そうだけどね」ザリアはあっさり言う。


 しかし、その直後に新たなUIが重なる。


〈経路ペナルティ:分散行動を選択したため、使用可能スキルは“付与スキル”のみに制限されます〉


「付与スキル……?」リカが読み上げる。「どういう意味よ、それ」


 そのとき、リカの頭上に新しいバーが現れた。


〈パーティーメンバー1:スキル《気手裏剣乱舞(Ki Shuriken Ranbu)》/クラス:魔法士〉


 続けてザリアの頭上にも。


〈パーティーメンバー2:スキル《聖士刀(Seishitō)》/クラス:闘士〉


 最後に、レイ。


〈パーティーメンバー3:スキル《迷彩忍法(Meisai Ninpo)》/クラス:操運者〉


 リカは両手を見つめる。

「……クラスチェンジ? ダンジョンって、そんなことまでできるの?」


「ジュゲン封印できるくらいだからね」ザリアは頷く。「クラスの差し替えくらい朝飯前でしょ。――っていうか、レイはどこいった?」


 二人が辺りを見回した瞬間、そこにいたはずのレイの姿が消えていた。


「ばあっ!」


 レイがいきなり目の前に現れ、二人は尻もちをつく。


「この感じ、やばい! 操運者、最っ高!」


 リカは胸を押さえた。

「二度とやらないで。心臓止まるから」


「はーい!」


 そう返事したそばから、レイはくるりと回って姿を消す。


「で、私は何ができるわけ?」ザリアは掌を見つめ――そこに、淡く光る片刃の刀が形を取るのを見た。


「おお……剣だ!」


 彼女が軽く振るうと、刃がリカの髪をかすめた。


「ちょっと!? 危ないでしょ!」


「ごめん、つい」


 リカは呆れたようにため息をつく。

「ほんと、あんたたち揃いも揃って……」


 そうつぶやいた瞬間、彼女の手元に白い大手裏剣がぽんっと生成され、ザリアの刀を弾き飛ばした。


「……あ」


 頬を赤く染めるリカに、ザリアがじろりと視線を向ける。


「はい今、完全に狙ったでしょ」


「ち、違うって! 今のは、その……新スキルのテスト……」


 そこへ、忍者の見張りがドアを蹴り開けて飛び込んでくる。


「お前ら、何してやがる。うるせえぞ」


 三人は一瞬で横一列に並んだ。


「いえ、なにも! ちょっとしたじゃれ合いです!」ザリアが即答する。


「じゃれ合いは七両後ろの娯楽車両でやれ。さっさと像の警備に回れ」


 三人は顔を見合わせる。


「了解です!」リカは満面の笑みで答える。「すぐ向かいます!」


「急げ。盗まれたら、こっちの首が飛ぶ。どうやら、像を狙うバカが紛れ込んでるらしい。盗っ人から盗るやつは、ただの屑だ」


 彼はぶつぶつ言いながら立ち去った。


「今の、完全に私たちのことだよね?」リカが小声でささやく。


「さあ?」ザリアは肩をすくめる。「どのみち、隙を見て像をかっさらって先生のところに戻る。それしかないでしょ」


 三人は忍者の後を追い、次の車両へ移動した。

 そこには、宝石や遺物が詰まった袋が山のように積み上げられている。


「わあ……」レイは目を丸くする。「キラキラいっぱい……」


 リカがそっと宝石の一つに手を伸ばした瞬間、ザリアがその手をぴしゃりと叩いた。


「こら。触らない」


「え、一個だけでしょ?」


「それがトリガーで爆発したらどうすんの」


「なんで爆発する前提なのよ!」


「ダンジョンだから」


 忍者がドアをどんどん叩く。

「おい! お前ら!」


「はーい、今行きます!」


 いくつかの車両を抜けた先――

 ついに、ひときわ広い先頭車両へとたどり着いた。


「おおお……」


 中には数十人の忍者がひしめき合い、その中心には黒と金で彩られた巨大なガーゴイル像が鎖で固定されている。


「どうやって運ぶのよ、あれ……」リカがつぶやく。


「三人いるし――」ザリアが言いかける。


「冗談でしょ」


 先ほどの忍者が仲間と短く言葉を交わし、三人を車両の最前部へと指さした。


「お前ら三人は、そのドアの警備だ。何か入って来たら――殺せ」


 三人はうなずき、ドア前に立ち位置を取る。


「レイは像の方に忍び込んで」ザリアが囁く。「“忍者らしく”ね」


「その駄洒落に満足してるの?」リカは半眼になる。


「ちょっとだけ」


 レイは親指を立てた。

「了解!」


 次の瞬間、彼女の姿は空気に溶けるように消え、ドアがきぃ……とわずかに開く。

 忍者たちは誰一人気づかない。

 レイはそろりそろりと像に近づき、鎖の隙間からそっと押し始めた。


「ふーっ……重い……!」


 そのきしむ音に、忍者たちが一斉に振り向く。


「おい……あの像、動いてねえか?」


「いや、絶対動いてる!」


「やっぱ呪われてたんだ、この像! さっさと川に捨てよう!」


「待て」一人が手を上げた。「目の錯覚かもしれん。落ち着け」


 彼はゆっくりと像へ近づいていく。

 まさにその瞬間――窓ガラスを突き破って、何かが転がり込んできた。


「やべっ! 伏せろ――!」


 ボンッ。


 列車全体が大きく揺れ、そのままレールを外れて川へと転落する。

 ザリア、レイ、リカもろとも、水の中へと投げ出された。


     ◇


 反対側――


 ハンとオマリロが乗っていた車両も同じく水中に沈み始めた。

 オマリロはハンの襟首をつかんで引き上げ、そのまま川から飛び出し、岸辺へと着地する。


 ハンは耳に入った水をばしゃばしゃとかき出した。

「うぇ……先生、今の爆発、何ですか……? また女どものドジです?」


「違う」オマリロは短く答える。「もっと悪い」


 その視線の先では、カイタンシャの制服を着た連中が、次々と沈んだ車両へ飛び込み、中身を根こそぎ回収していた。


「ドッコウ団」オマリロは呟く。「来た」


 そこへ大きなバンが一台乗りつけ、連中は回収した宝物を後ろの荷台へと放り込んでいく。

 ハンの目に、黒く光るガーゴイル像がずるずると引き上げられる光景が映った。


「先生、像を奪われました!」


〈警告:至宝像との距離が規定範囲を超えました〉


「像、取り返す」オマリロははっきりと言う。「必ず」


「そこで止まれや、ジジイ」


 背後から飛んできたダーツを、オマリロは指でつまみ取る。

 ゆっくりと振り返ると、半分黒、半分白に染めた髪を持つ長身の男が、マスク越しにこちらを見下ろしていた。


「ふむ」


 その背後には、日向ユウト、白鷺リオ、一ノ瀬アイリの姿。


「こいつが、お前たちをここまで追い詰めてる奴か?」


 三人は無言でうなずく。


「なら、像の回収はお前らに任せる」

 男は肩を回しながら言う。「ここは俺が締める」


 三人は即座に戦利品の方へと駆け戻っていく。

 男は首を鳴らし、オマリロを見据えた。


「オマリロ・ニュガワ。分かってねえなら教えてやるが――ドッコウ団にケンカ売るってのは、そういうことだ」


「ドッコウ団。どうでもいい」


「もう一回言ってみろ」


 ハンはオマリロの肩を揺さぶった。

「先生、誰なんですかコイツ。やばいくらいヤバい気配しかしないんですけど!」


 男は手を突き出し、その掌に爆弾を形作る。


「名前は――ザン・イカルガ」

「覚えとけよ。これから、お前の肉に彫るんだからな」


 その背後で、ドッコウ団のハンターたちが川から這い上がり、ハンとオマリロを取り囲む。


「なにせ――」ザンは笑う。「俺の名を刻んだ死体は、わりと評判がいいんでね」


 その頭上に、新たなUIが浮かび上がった。


〈メイン依頼:一時停止〉

〈新規依頼:ドッコウ団カイダンチョウ・ザン・イカルガを撃破せよ〉


——

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