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――第19章・北の砂丘――

――新宿・日本。


 セレモニー会場の中では、大きなスクリーンにカウントダウンが映し出されていた。


〈レイド開始まで残り時間:1:00:00〉


「あと一時間か」ザリアは画面を見上げる。「マジでぶっちぎってやるし……たぶん!」


 リカが四人を手招きし、円になるように集める。


「はい、集合。みんな今、どんな感じ?」


「緊張」ハンが正直に答える。


「アガってる!」ザリアが胸を張る。


「で、あたしたち何するんだっけ?」レイが首をかしげた。


 三人の視線が、じとっとレイに向く。


「お茶会じゃないの?」レイは周りを見回す。「ティーカップ見当たらないけど……」


 やがて、橘ハヤテがマイクをマリンに渡す。


「それでは、副ディレクターからルールの説明だ!」


 マリンは軽くため息をつく。


「ルールは単純です。コミッションをこなす。ポイントを稼ぐ。負けない。もし同士討ちになった場合は、手足を吹き飛ばしたり、殺したりした時点で失格です」


「甘いわね」ザリアが鼻を鳴らす。「師匠に指一本でも触ったら、魚みたいに腸引きずり出してやれないのに」


 ハンは額を押さえた。


「相手、同僚だからね?」


「私には関係ない!」


 オマリロが自分たちのテーブルへ向かおうとしたその時、アツシが肩をつかんだ。


「おい、ジジイ。お前がいなくなってる間に、時代は変わった。カイタンシャはもう、お前なんか必要としてない」


 オマリロは、杖でぴしゃりとその手をはたき落とす。


「なら良い。わしも楽だ」


 アツシは不気味に笑った。


「その古臭いプライド。昔のままだな。全力で来いよ、ニュガワ。トップのまま叩き潰してやる」


「了解」


 オマリロが一行の元へ戻ると、今度はユカと部下たちに囲まれていたアツシとすれ違う。


「あら」ユカが気づく。「ニュガワとのご挨拶は、うまくいきまして?」


「まあな」アツシは薄く笑う。「あのジジイ、まだとんでもない火力を抱えたままだ。甘ったれた子猫どもとは違う」


「そんなこと、言われなくても分かっているわ」ユカは肩をすくめた。「一度そこまで登り詰めた者は、簡単には落ちない。ただし、無敵でもない。私はあの男の弱点を突く。頂点は、私のものよ」


「自信たっぷりだな」アツシが言う。「だが氷と同じだ。ひびは入る」


「それも、見ものね」


 一方その頃、会場の別の一角。

 ミズキは静かに椅子に座っていたが、カオルがワインボトルを片手に何度も肘でつついてくる。


「ねえねえミズキ~! これ飲んでみてよ! ディレクターのお気に入りブランドだって!」


「無理」ミズキは一蹴した。「未成年」


「え~、お母さまなんて見てないって! ほら、見て見て! もう五本目~!」


 ミズキは手首を返し、ボトルをはたき落とした。


「もう十分です。立つのもやっとでしょう」


「ちょっ……なんで落とすの!?」


 カオルは慌ててボトルを拾いに行く。

 そのすぐ近くでは、ガクトとコウイチが腕相撲をしていた。互いに全く譲らない。


「その太い腕のわりには、大したことないな、トウシ使い」コウイチがあくび混じりに言う。


「そこじゃないからな!」ガクトは大笑いする。「俺の強化が乗ってるのは――」


 コウイチが目を細めた。


「はいはい、来たよ、このくだり」


「ここだァ!」


 ガクトは自分の額でテーブルに頭突きをかまし、机を真っ二つに割った。

 コウイチは無言で立ち上がり、ため息をつく。


「そんなんだから、女にモテないんだろ」


「おい! 今の取り消せ、ガキ!」


「やだね」


 そういったやりとりを、ザリアはじっと眺めていた。


「師匠、あれが組織のトップ連中っすよね? 師匠と同じぐらい強いんですか?」


 オマリロはザリアの頭に手を乗せる。


「強い。だが、穴多い」


「どゆこと?」


「すぐ分かる」


「まあ、心配してないけどね!」ザリアは笑う。「世界一強いのは、うちの師匠だし!」


「そうだよ!」他の子どもたちも頷く。


 オマリロは椅子に腰を下ろした。


「間違っておらん」


 腰を下ろした途端、ファンや記者たちが一気に押し寄せ、カメラを構えてオマリロを取り囲んだ。


「ニュガワさん、本物ですか!?」


「この数年、どこで何を?」


「あの子たちはどこで見つけたんです? そっちの裸足の子は誰?」


「ツーショットお願いします!」


 ザリアが間に割って入る。


「おいおい! 近づきすぎ!」


「そうだよ、引け引け!」リカも続く。「このジジイは、あたしたちの師匠! あんたらのじゃない!」


 ハンは人波に押され、あえいでいた。


「ぐっ……肋骨が……! 他のカイダン追いかけてきなよ! 師匠は使用中だってば!」


 レイはきらきらとカメラを見つめ、数人を指でつつく。


「わあ、光ってる~!」


「ニュガワさん!」


「沖縄ダンジョンで何があったんですか!」


「公式コメントをブログに載せたいんです!」


 ザリアは槍を召喚した。


「おい、下がれって言ったよな?」


「ザリア!」リカが小声で叫ぶ。「それで刺したらマズいって!」


「問題ないって! この槍、片方は刺突用、もう片方はカチ上げ用だから!」


「ニュガワさん、どこ行った!?」


 気づけば、オマリロが座っていた席は空っぽで、カップだけがぽつんと残っていた。


「置いてかれた」ハンが冷静に言う。「カッコいいけどさ、なんで群衆の相手だけこっちに任せるの……」


 記者の一人がカメラを掲げる。


「会場内を探して! そう遠くへは行ってないはず!」


 大急ぎで外へ飛び出していく報道陣。

 その直後、オマリロがザリアの横の席に、何事もなかったかのように現れた。


「馬鹿なニュース」


「師匠、戻ってきた!」


 オマリロは立ち上がり、背中を鳴らす。


「行く。準備だ。千代田ダンジョンが待つ」


〈レイド開始まで残り時間:0:30:00〉


 子どもたちは一斉に立ち上がる。


「師匠、ラジャー!」


 オマリロが杖を軽く突くと、その場から姿が消えた。

 その様子を、一人の男が新聞で顔を隠しながらちらりと見ていた。


「好都合だ。ニュガワさえダンジョンに縛り付けておけば、奴らは気づきもしない」


 男の姿も、すぐにかき消える。

 そのすぐ後をマリンが通りかかり、少しだけ眉を寄せた。


「……今、何か違和感があったような……?」


 首をひねるが、そのまま仕事に戻り、ハヤテの横へ歩いていく。

 会場のスクリーンには、なおもカウントダウンが続いていた。


――千代田・日本。


〈レイド開始まで残り時間:1:00〉


 七つのカイダンとその隊員たちが、千代田の街路にそれぞれ陣取っていた。無数のカメラが回り、生中継が始まる。

 ハヤテとマリンは、その少し離れた場所に立っている。


「あと一分でゲートが開く!」ハヤテが叫ぶ。「何が起きてもおかしくないぞ! どの階に落とされるか分からないし、クリアするまで帰れない!」


 リカは大きく息を吸ったり吐いたりしている。


「さすがに、いきなり超高難度フロアとかは来ないよね……?」


「むしろ来てほしいけど」ザリアはニヤリと笑う。「そのほうが早く上に行ける」


「結果が良ければ何でもいいですけどね」ハンは肩をすくめる。「師匠、具体的にはどう動きます?」


 オマリロは杖で地面をコツンと叩いた。


「敵を倒す。価値を示す」


「……了解。ざっくり把握」


〈レイド開始まで残り時間:0:30〉


「師匠の言葉なら、信じるだけだよ」ザリアが拳を握る。


「いつも通り」リカも頷いた。


「論理的には意味不明でも」ハンが付け加える。「だからこそボスなんですけどね!」


「♪いちばん強いのは、師匠~♪」レイが鼻歌まじりに歌う。


「子どもたち、よく聞け」オマリロは全員を見渡した。「怖がるな。迷うな。敵はフェアに戦わん。勝利は、もぎ取るものだ」


〈レイド開始まで残り時間:0:10〉


 一同は一斉に息を整える。


「よし」ザリアが前を見据えた。「どんな階でも、かかってこいってんだ」


〈レイド開始まで残り時間:0:00〉


「最後に残るのは俺とお前だ、ニュガワ」アツシは心の中で呟く。「その時、勝つのは必ずこの俺だ。代償が何であろうとな」


「健闘を祈る!」ハヤテが叫ぶ。


 次の瞬間、足元の道路がぐにゃりと歪み、巨大なゲートへと変わった。


「うわああああっ!」


 全カイダンが、叫び声と共に地下へと落ちていく。


〈侵入を検知――フロアレベル:1〉


「ちょっとー!」カオルが文句を言う。「いきなり一階ってなに~!?」


〈侵入を検知――フロアレベル:17〉


「まあ、マシか」コウイチがつぶやく。「さっさと終わらせて、帰って寝たい」


〈侵入を検知――フロアレベル:58〉


「許容範囲ね」ミズキは淡々と告げる。「ティア2の依頼が一つはあるはず」


〈侵入を検知――フロアレベル:164〉


「よっしゃあ!」ガクトは拳を突き上げる。「もう三桁台か! 今日はツイてるぞ、お前ら!」


〈侵入を検知――フロアレベル:341〉


「甘いわね」ユカは鼻で笑う。「なぜ千階台に送らないのかしら。私たちは子どもじゃないのに」


〈侵入を検知――フロアレベル:1931〉


「なかなか、熱い幕開けだ」アツシが口元を歪める。「このままではニュガワに先を越される。悠長にはしていられんな」


〈侵入を検知――フロアレベル:1320〉


「やっと止まった!」ザリアがぐったりする。「落下で酔った……」


「その話やめて……!」リカは必死で口を押さえる。


「ごめん、リカ」


 オマリロたちが周囲を見渡すと、そこはどこまでも砂の広がる大砂漠だった。焼けつくような熱気。

 遠くには小さな集落らしきものが見え、その上空には淡い水色の光柱が伸びている。目の前にUIが浮かんだ。


〈ウェイポイント:578メートル〉


「あれ、何だろ?」リカが指さす。


「ウェイポイント、だよね?」ザリアが思い出すように言う。「レイドダンジョンって、ああいうの出るんじゃなかったっけ」


 オマリロは軽く頷いた。


「女子、知識高い。良い」


 ザリアは照れ隠しのように鼻を鳴らす。


「当然っしょ!」


「じゃあ、あそこまで行けばいいんですかね?」ハンが確認する。


「そうだ」


 オマリロが杖を地面に軽く突く。次の瞬間、一行は村の目前に転移していた。

 そこでは、部族風の服を纏った小柄なドワーフの少女が、必死に手を振っている。


「ハンターさんたち! こっち、こっちー!」


 一同は顔を見合わせるが、オマリロが一歩前へ出る。


「少女、困っているな。事情を話せ」


「わ、私、スナコって言います! ボウサ・ナンゾクの出身で!」

「両親が、砂丘北オアシス族《サキュウ・キタ・オアシス族》に買い出しに行ったんですけど、一週間経っても戻ってこなくて……! すごく心配で……!」


「少女、両親が必要」オマリロは淡々と言う。「探してほしいと」


 スナコは勢いよく頷いた。


「はい! この道の先に、砂丘北サキュウ・ホクの村があるはずなんです! そこまで様子を見に行ってもらえませんか?」


〈コミッション受諾:スナコの両親を*捜索*せよ。ティア2依頼〉


「心配いらん」オマリロは静かに告げる。「必ず見つける」


「ありがとうございます、おじさん!」


 オマリロが一行の元へ戻ると、すでに全員が汗だくになっていた。


「つまり、あの子の両親を見つければいいんだよね?」リカが確認する。


「そうだ。それで依頼は完了だ」


「でも、なんでティア2なんだろ」


「表と裏は違う」オマリロは短く警告する。「感覚を研ぎ澄ませ。頭は冷静に。行くぞ」


 オマリロが砂の道を歩き出し、隊はその背中を追う。

 風が砂を巻き上げる。真っ青だった空は、じわじわとオレンジ色に変わっていく。


「師匠、何か見つけました!」ハンが声を上げた。「ほら、足跡!」


 一同はハンの元へ集まる。

 砂の上には、どこまでも続く二人分の足跡が伸びていた。


「向こうに進んでるだけで、戻ってきた跡がない」


「誰の足跡か、調べられる?」ザリアが提案する。


「やってみる。キューブ、トレースをスキャン!」


[スキャン中……]


 電子音が鳴る。


[スキャン完了。*ドワーフ*のものと判明]


「やっぱり」ハンはうなずいた。「スナコの両親でほぼ確定だ」


「なら、この足跡が手がかりだね」リカは顔を上げる。


「進む」オマリロが命じる。「目と耳、油断するな」


「じゃあ、あたしがみんなを冷やしてあげよっか!」レイが手を上げた。


 次の瞬間、一行の周囲に、月光のドームが広がる。


「ジュゲン魔法士ジュゲン・マホウシ:月光の護光ゲッコウ・ノ・ゴコウ!」


 たちまち暑さが消え、ひんやりとした空気に包まれる。子どもたちはその場にへたり込んだ。


「最初からこれ出せたんだろ!?」ザリアが叫ぶ。「なんで今まで黙ってた!」


「誰も頼まなかったからだよ~」レイは楽しそうに笑う。


「最高……」リカはとろけたような声を出す。「このまま一生ここにいたい……」


「時間は少ない」オマリロが遮る。「少女、シールドを動かせ」


「はーい!」レイは素直にドームを前方へと伸ばす。


 月光のシールドに守られながら、彼らは足跡を追って進む。

 ハンが定期的に足跡を確認しながら歩き続けると、やがて小さなオアシスに辿り着いた。そこにはすでにテントが張られている。


「手掛かり発見、かも!」ハンが指さす。「見て! 焚き火、まだ煙出てる」


 ハンはそっと薪に触れ――すぐさま手を引っ込めた。


「熱ッ!」


「ハン・ジス」リカがにやりとする。「手掛かりを見抜く頭脳はあっても、触るまでは考えが及ばない」


 ザリアは、ふと別のものに目を留めた。


「ちょっと待って。見て」


 そこには、倒れたままのイノシシが一頭。

 ザリアは足先でつつきながら言う。


「誰かが仕留めたのに、放置されてる。食料にするなら、持っていくよね?」


 ハンの表情が引き締まる。


「……もし、仕留めた本人が調理する暇すらなかったとしたら?」


「どういうこと?」


「つまり――これは罠の可能性が高いってことだ」


 その瞬間。

 ジャラッ、と音を立てて鎖が飛び出し、ハンの体に巻きついた。背骨にビリッと痺れが走る。


「うわっ! 捕まった! 誰か――!」


 ハンは一気に砂の上を引きずられていく。


「ハン!」


 すぐさま、ザリアとリカにも鎖が巻きついた。


「ちょ、何これ!?」ザリアが叫ぶ。


「動けないっ!」リカも悲鳴を上げる。


 三人はそのまま砂を削りながら、エンジン音とともに遠ざかっていった。

 レイはきょろきょろと周囲を見回す。


「わあ、これもゲームの一部?」


 オマリロにも鎖が伸びるが、彼はそれを片手でつかみ、そのまま引き寄せた。

 砂の向こうから、ボロボロの鎧と仮面を身につけた大柄なハンターが姿を現す。


「答えろ」オマリロの声が低くなる。「子どもたち。どこだ」


 ハンターは口を閉ざしたまま。

 その背後から、さらに複数の鎖がオマリロへと伸びる。


「なるほど」


 オマリロは一閃で鎖を斬り、飛来した金属ダーツを身をかがめてかわす。

 レイはふらふらと歩いていき、ハンターのバンにゴツンとぶつかった。


「わ、ごめんね~」


 運転手はすかさず網を投げ、レイを捕らえるが、オマリロがすぐにそれを斬り裂いた。


「後ろに下がれ、少女。あいつらは狩る側だ」


 さらにダーツが頭めがけて飛んでくるが、オマリロは一本の矢で弾き返す。


「やってらんねえ」運転手が舌打ちする。「三人捕まえたし、ここで十分だ。ずらかるぞ!」


 バンが砂を巻き上げて走り出し、仲間を拾って次々と離れていく。

 レイはオマリロの横に立ち、真剣な顔で尋ねた。


「オマリロさん、どうする?」


「仲間を見つける」オマリロは即答した。「ついでに少女の両親もだ」


 新たなUIが浮かぶ。


〈ウェイポイント:2000メートル〉


「本当の旅は、ここからだ」


 オマリロは砂漠の彼方を見据え、歩き出した。


――

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