表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/42

――第18章・カイダンチョウ――

――カイタンシャ本部・日本。


 二週間後――


 カイタンシャ本部の廊下を、エージェントたちが慌ただしく走り抜けていく。

 机に駆け込み、端末を立ち上げる者たちの横を、橘ハヤテとマリンが足早に通り過ぎた。


「レイド開始まであと十二時間だ!」ハヤテが声を張る。「ダンジョンの一ミリ残らず、しっかり監視しろ!」


「了解!」エージェントたちが一斉に敬礼する。


 ハヤテが角を曲がった瞬間、待ち構えていたカメラクルーが飛び出し、女性レポーターがマイクを突き出した。


「カイタンシャ・ディレクター橘さん!」

「本当に、オマリロ・ニュガワがトーナメントに参加すると?」


「事実だ」ハヤテは即答した。


「伝説のカイタンシャを復帰させるとなると、勢力図やバランスに大きな変化が出るのでは? 物議を醸す声も――」


「問題ない」ハヤテはきっぱりと言う。「ニュガワは今でも尊敬される男だ。全カイダンに、秘箱ヒバコを狙う公平なチャンスを与える」


「この大会は海外でも放送されますか? 世界中が、ニュガワの戦いを見たがっています!」


「これ以上の質問は受け付けない」


「ちょっと、あと一つだけ――!」


 ハヤテは強引に横を抜け、マリンもそれに続いた。

 執務室に戻ると、マリンが口を開く。


「カイダンチョウへの通達が必要かと存じます。規定では、十二時間前までに招集を知らせることになっています」


「いい案だな」ハヤテは頷く。「各カイダンチョウの居宅に、エージェントを飛ばせ」


「了解しました」


 マリンはスマホを取り出し、そのまま姿を消す。

 ハヤテは一人、モニターに中目黒エリアの映像を映し出した。


「秘箱ミスティック……今年は誰の手に渡る?」


――日本・田園調布。


 ドゴン、ドゴン、ドゴン――


「もっと腰入れろ、兵ども! 筋肉は裏切らん!」


 広い自宅ジムの中で、オレンジ色の髪と瞳をした筋骨隆々の男が、オレンジと黒のスーツに身を包んだ若いカイタンシャたちを相手にスパーリングをしていた。


「隊長……少し、休憩を……」


 男は腕を組み、ニッと笑う。


「よし。前回より十秒長く持ちこたえた。特別に、水を許可する! 厨房へ散れ!」


 隊員たちが歓声を上げたちょうどその時、ドアがノックされる。

 男――レツカイダンのカイダンチョウ、深山ガクトがドアを開けると、エージェントが一人立っていた。


「レツカイダン・カイダンチョウ、深山ガクト殿」エージェントが告げる。「ディビジョン・レイド・トーナメントへの招待状をお持ちしました」


 ガクトは封筒をひったくるように受け取る。


「ご苦労、ちっこいの! 今年も派手に燃やしてやる!」


 エージェントは一礼し、消える。


「聞いたか、お前ら!」ガクトが叫ぶ。「トーナメントが来るぞ! 気合い入れろ!」


「サー、イエスサー!」


――日本・白金台。


 柔らかな紫色の髪と瞳を持つ少女が、自室の鏡の前で、静かに髪を梳いていた。

 コツ、コツとノックの音。


『ミズキー! お客様よ!』


「すぐ参ります、お母さま」


 階段を下り、玄関を開けると、エージェントが立っていた。


「おはようございます」エージェントが丁寧に頭を下げる。「セイカイダン・カイダンチョウ、西園寺ミズキ様。レイド・トーナメントへの招待状です」


「ありがとうございます」


 ミズキは優雅に一礼し、封筒を受け取った。


――日本・成城。


 成城の門構えの立派な邸宅に、一台の車が止まる。

 エージェントが門へ歩いていくと、二人のカイタンシャが前に立ちふさがった。


「止まれ」一人が言う。「ここは我らがカイダンチョウの邸宅だ。用件は?」


「ディビジョン・レイド・トーナメントへの招待だよ」エージェントは肩をすくめる。「ったく、もう少し気を抜けないのか?」


 二人は一度顔を見合わせ、門を開けた。


「さっさと済ませろ」


 エージェントは車を敷地内に入れ、玄関をノックする。

 出てきたのは、ボサボサの黒髪に眠たげな目をした青年。ガウン姿で、あくびを噛み殺している。


「……何」


「こちらが、ソウカイダン・カイダンチョウ、神代コウイチ様への招待状です」


 コウイチはぶっきらぼうに封筒をひったくる。


「了解。帰れ」


 バタン、と容赦なくドアが閉められ、エージェントは小さく舌打ちした。


「感じ悪いガキだな……」


――日本・代官山。


 広い庭園で、栗色の髪を結い上げた着物姿の少女が、数人の若い女性とちゃぶ台を囲み、お茶を楽しんでいた。


「すごかったのよ! 一気に五千階以上、駆け抜けちゃって!」


「一万階はクリアしたことあるの?」


「ないけど、八千五百階までは行ったわ! 一人でね!」


 そこへエージェントが近づき、咳払いをする。


「失礼します、お嬢さん方」


 彼は封筒を差し出した。


「コウカイダン・カイダンチョウ、月島カオル様。ディビジョン・レイド・トーナメントへの出場をお願いしたく存じます」


 カオルは目を輝かせて受け取る。


「ありがとうございます、ありがとうございます! みんな、観ててね、最高のショーにするから!」


 周りの女子たちは、きゃあきゃあと騒ぎながら、覗き込むように招待状を見つめる。


「ふふっ、楽しみになってきた~!」


――日本・青山。


 道場の中。長い金髪と氷のような青い瞳を持つ女性が、静かに正座し、瞑想していた。

 トン、と控えめなノック。女中が顔を覗かせる。


「お嬢さま」女中が言う。「その時が来たようです」


 女性はすっと立ち上がり、その長身と歩き方だけで人を圧倒する。


「下がりなさい」


 女中は深く一礼し、部屋を出る。

 女性――ソウカイダンのカイダンチョウ、名取ユカが扉を開けると、若いエージェントが慌てて封筒を整えていた。


「おっとっと! すみません! こちらがソウカイダン・カイダンチョウ、名取ユカ様への招待状です! その……お美しい――じゃなくて、レイド・トーナメントへのご案内を!」


 ユカは無言で封筒を受け取り、中身に目を通す。


「また二位、ですって?」


 氷のような視線がふっと細くなる。


「この不名誉、決して赦されませんわ」


 瞳が凍りついたように冷え、女中は慌てて頭を下げて退室した。


――日本・赤坂。


 三人のエージェントが、人里離れた大きな邸宅の敷地へ続く小道を歩いていた。

 庭には、無数のゴーレム像が立ち並んでいる。


「気をつけろよ」先頭の一人が小声で言う。「砂原様は、冗談の通じる相手じゃない」


 他の二人も、こくりと緊張気味に頷く。

 玄関前に立つと、意を決してノックした。


「話せ、小猫ども」


 鋭く低い声が内側から響く。


「ナラク・カイダン・カイダンチョウ、砂原アツシ様!」エージェントが声を張り上げる。「ディビジョン・レイド・トーナメントへの招待に参りました! 前回大会の優勝、お祝い申し上げます!」


 扉が勢いよく開き、アツシが姿を現す。

 その眼光だけで、三人の膝が震えた。


「称賛はいらん。手紙だけよこして、とっとと失せろ」


「は、はいっ!」


 封筒を押し付けるように手渡し、三人は蜘蛛の子を散らすように去っていく。

 アツシは無造作に封を切り、鼻で笑った。


「小童どもが」


 手紙を放り投げる。


「ニュガワが戻った、か。今度は何を企んでいる?」


――東京都港区。


 ジュンペイは、オマリロの家の前に車を止めた。


「生きてればいいけどな……」ジュンペイはため息をつく。「十代三人と幽霊一人の相手とか、老人の仕事じゃねえだろ」


 玄関まで歩き、ノックする。

 ガチャ、と勢いよくドアが開き、カイタンシャの制服に身を包んだレイが顔を出した。


「♪はーい、こんにちはー♪」


 ジュンペイは思わず一歩下がる。


「お、おう。えっと、オマリロ・ニュガワは在宅か?」


「♪いるかも? いないかも? でもあなたはちょっと好きかも~♪」


 ジュンペイは襟を引き直し、咳払いした。


「冗談に付き合ってる暇はない。リーダーがいるか、いないか、だ」


「じゃあ、中入って見てみて!」


 レイに案内され、リビングへ。

 そこではハンとザリアがテレビゲームに夢中で、リカはスマホを構え、自撮りしながらしゃべっていた。


「みんなー!」レイが笑いながら叫ぶ。「オマリロさんにお客さまだよー!」


 三人は同時に動きを止め、ジュンペイを見る。


「またお前かよ」ザリアが鼻を鳴らす。「何しに来たんだ?」


「お願いだから、牢屋だとか言わないでくださいね!」ハンが青ざめる。「行くならリカからにしてください!」


 リカはスマホをハンに投げつけた。


「は? あんたが先でしょ!」


「……バカか、お前ら」ジュンペイは長くため息をついた。「今日はオマリロ・ニュガワに用がある。レイド・トーナメントに申し込んだんだろ。その招待状を持ってきた」


 三人は拍子抜けしたように固まる。


「あ、そういうことか」ザリアは立ち上がり、大声を張る。「師匠―! お客さんですよ!」


 次の瞬間、オマリロが現れる。険しい顔だ。


「税金はまだだ。帰れと言っておけ。さもなくば棒で顔を叩く」


 ジュンペイはおでこを押さえた。


「なるほど。そっくりに育ってるわけだ」


 オマリロはようやく彼に気づく。


「エージェントか。何の用だ」


 ジュンペイは封筒を差し出す。


「おめでとうございます。神カイダン・カイダンチョウ、オマリロ・ニュガワ様。ディビジョン・レイド・トーナメントへの正式な招待状です」


「ふむ」オマリロは唸る。「立派な紙だ」


「ええ。ようやくお渡しできたところで、私はこれで――」


 踵を返しかけたジュンペイは、ふと思い出したように振り向く。


「それと、ディレクターからの伝言です。レイド前夜祭のセレモニーに、ご出席いただけないかと。あなたの顔があるだけで、視聴率が跳ね上がりますから」


「式典は嫌いだ」オマリロはぼそりと呟く。


「わたし、セレモニー行きたいです!」リカが割って入る。「テレビに映るの最高じゃないですか!」


「一回出たら、どれも同じだって分かるぞ」ザリアは肩をすくめた。


「もし出席してくださるなら、午後五時ちょうどに会場まで」ジュンペイは続ける。「では」


 ジュンペイが去った後、リカが目を輝かせる。


「師匠、行きますよね? ね? お願いです!」


「パーティ?」レイが首をかしげる。「そんなの、まだあったんだ?」


 オマリロは招待状を一瞥し――


「……行く」


 リカは拳を突き上げた。


「よっしゃー! パーティだ!」


 そのまま廊下へ駆けていく。

 ハンは腕を組んだまま、それを眺めた。


「女ってやつは……」


 オマリロは時計を見る。


「二時間」


 そう言うや否や、その場からかき消えた。


「師匠、本物の幽霊かもしれないな……」ハンは首をかしげる。「あの消え方、どうなってんだ」


「ほら、ハン」ザリアが肘でつつく。「着替えんぞ」


「待て、遠慮しと――!」


 引きずられていくハン。

 レイもついていく。


「わーい! お茶会? 行く行く!」


 やがて時は過ぎ――出発の時間となった。


――日本・新宿区。


 西新宿の街路には、会場となる大型ホールを囲むように、ファンたちがひしめき合っていた。

 スピーカーからは賑やかな音楽が流れ、会場のライトが夜空を照らす。


「どいてどいて! カイダンチョウたち見えないじゃん!」


「どうやったら中入れるんだ?」


「オマリロ・ニュガワ来てる? サイン欲しい!」


「ゲスト以外は一定の距離を保ってください!」


 ジュンペイたちエージェントは必死で人波を押し返す。

 そのとき、数台のリムジンがゆっくりと会場前に横付けされた。


「やっとだ……」ジュンペイは胸をなで下ろす。「これで本番が始まる」


 リムジンのドアが一つ、また一つと開き、正装したカイダンチョウたちが姿を現す。

 カメラのフラッシュが一斉に光った。


「見ろ、神代カイダンチョウだ! 雰囲気あるな~!」


「あれ月島カオルじゃない? めっちゃ綺麗!」


「砂原カイダンチョウ、殺しに来てる顔つきなんだけど……」


 ジュンペイは彼らを迎え、会釈する。


「皆さま、ご来場ありがとうございます。こちらへどうぞ。式典会場へご案内いたします」


「ならば、さっさと行きましょう」ユカが先頭に立って歩き出す。


 建物の中は、光と音楽に満ちた大ホールだった。周囲のテーブルには招待客たちが座り、談笑している。

 正面には大きなステージ。そこに、マリンとハヤテが立っていた。


 カイダンチョウたちが一歩足を踏み入れた瞬間、会場の視線が一斉に集まり、照明が落ちる。


「我がカイダンチョウたちよ!」ハヤテが両手を広げる。「レイド前夜祭へようこそ!」


 一同が軽く頭を下げる。


「光栄に存じます、ディレクター」ユカが代表して答えた。


「では早速、ステージに上がってくれ!」


 拍手の中、カイダンチョウ全員がステージに並び立つ。


「ところで――ニュガワはどこだ?」


 ざわ、と客席が揺れた。


「どうせあのジジイの腰が壊れて、這ってるんだろ」砂原アツシが鼻で笑う。「来るとは思わんがな、ディレクター」


「誤報だ」


 自然と視線が入口へ向く。

 そこには、バスローブにローファーという場違いな格好のオマリロが立っており、その後ろから、きちんとドレスアップした子どもたちが顔を出していた。


「本物……!」


「ウソだろ、まだ生きてたのかよ……」


「なんか……寝起きみたいな格好してるけど!?」


 カイダンチョウたちは、それぞれ複雑な表情を浮かべる。

 オマリロがステージへ近づくと、ハヤテは満面の笑みで腕を広げた。


「いやあ、ニュガワ! その格好はちょっとラフすぎるが――来てくれて嬉しい!」


 オマリロは、ひょいとステージに飛び乗る。


「さっさと始めろ」


「まだまだ元気そうだな」コウイチがあくび混じりに言う。「案外、しぶとい」


「本当に」ユカが冷たく言い放つ。「この場にあの格好で現れるなんて。マナーはご存じなくて?」


「ちょ、ちょっと!」カオルが慌てる。「オマリロ様はレジェンドなんだよ!? もっと敬意払おうよ!」


「俺も賛成だ」ガクトが頷く。


「ディレクターのお話の最中ですよ」ミズキが静かに諫める。「私情は後でどうぞ」


 アツシは身をかがめ、オマリロを覗き込むように睨んだ。


「ニュガワ……一つも変わってないな」


 オマリロは視線だけを上げる。


「砂原も、相変わらずだ」


 アツシの目つきがさらに鋭くなるが、ハヤテが間に入るように声を張った。


「よしよし! 七人全員そろったところで――ランキングを表示してくれ!」


 エージェントが端末を押すと、各カイダンの順位が、カイダンチョウたちの頭上に浮かび上がる。


「最下位って、なんかムカつくな……」ザリアがリカに囁く。「一番カッコいいカイダンチョウがいるのに、ビリってどういうこと」


「大丈夫だよ!」リカは拳を握る。「私たちが弱くても、オマリロさんは弱くない! レイドボス、片手間で倒してたじゃん!」


「だよね、だよね!」


「他のカイダンチョウたち、師匠に変な目向けてますね」ハンは冷ややかに観察する。「性格悪いな」


 ランキング表示が一段落すると、背後のスクリーンに千代田ダンジョンの俯瞰図が映し出された。


「数時間後、この千代田ダンジョンを舞台に――」ハヤテが宣言する。「各カイダンが、今年の賞品プライズ――“ティア3・秘箱ミスティック”を賭けて争うことになる!」


 会場から、どよめきと驚きの声が上がる。


「ティア3ですって?」ユカが前に出る。「ディレクター、ティア3の秘箱が発見されたのは、五十年ぶりですわよ」


「その通りだ」ハヤテは誇らしげに頷く。「だからこそ、今年の大会は過去最大級の賭けになる。勝ったカイダンは、一気に戦力を底上げできる」


「ティア3……」ザリアが息を呑む。「それゲットできたら、私たちもめちゃ強くなれる。師匠と並んで戦えるかもじゃん」


「ってことは、他も全力で取りにくるってことだ」ハンが指を折る。「皆欲しがる。特に――うちの師匠が狙ってるって分かってる連中は」


「来るなら来い、だよ」リカがニヤリと笑う。「うちのカイダンチョウと一緒なら、嫉妬してる連中まとめて蹴散らしてやるんだから!」


「やったー!」レイも意味は分かってないまま拳を振る。


 カイダンチョウたちは互いに牽制するように視線を交わし合い、オマリロはただ黙ってバスローブの袖を整える。


「さて――」ハヤテが声を低めた。「ここで一つ、気になる問いが生まれる」


 スポットライトがオマリロを照らし、視線が集まる。


「ニュガワが戻ってきた今――」


 ハヤテはゆっくりと客席とステージを見渡した。


「――勝つのは、どのカイダンだ?」


 拍手と歓声が、会場を揺らした。


――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ