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――第12章・スーパコンピュータ――

――沖縄ダンジョン・第三〇〇一階。


 第三〇〇一階の鉱山で、ハンと鉱夫たちは巨大な手――オール・ヒアリング・ハンドから距離を取っていた。


 手は狂ったように周囲をまさぐり、岩を掴んでは投げ飛ばしている。


「このダンジョン、マジで頭おかしいって!」

 ひとりの少年が悲鳴を上げた。「家に帰りたい!」


「シッ!」ハンが小声でたしなめる。


 しかしその声すら、手のひらの目をぎらりと光らせる。

 音に反応して、巨大な手は地面を探るように伸び、拳を作って床を叩きつけた。


「ママぁぁ!」


 別の少年が泣き叫んだ瞬間――ひとりの鉱夫が出口に向かって全力で走り出す。


「行くな!」オマリロの怒号が飛ぶ。


〈サウンドゲージ:一〇〇%到達。“デヴァワー”を発動〉


 オール・ヒアリング・ハンドが瞬時に少年を鷲掴みにし、そのまま握りつぶす。

 指の隙間から光が弾け――少年の姿は、煙のように消え失せた。


「ユウガ!」


「黙れ」オマリロが冷たく言い放つ。「さもなくば、全員同じ末路だ」


 鉱夫たちは震え上がり、口を噤む。

 それでも手は、なおも周囲を探るように空を切っている。


 ハンは声を限界まで潜めて囁いた。

「師匠、どう攻略します?」


「手は音を糧にする」オマリロは短く説明する。「ならば、奪え。音を」


「でも、攻撃するにも音が……!」


 オマリロは杖の先を、手の側面に向けた。


「耳だ。音を、逆に叩き込む」


「あ――そういうことっすね!」


〈サウンドゲージ:45%〉


「声を落とせ」


「す、すみません……」


「お、お前ら、まさかあの化け物とやり合うつもりか?」

 鉱夫の一人が青ざめた顔で言う。


「当たり前でしょ」ハンは小声で笑う。「こっちは伝説のオマリロ・ニュガワだぞ。何十年も、これよりヤバいのと戦ってきた人なんだ」


 その一言で、鉱夫たちの間にざわめきが走る。


「まさか……ほんとに、あの……?」

「いや、引退したって聞いたぞ……」

「いやいや、死んだって噂も……」


「手、来る」


 オマリロの一声で、皆がハッと顔を上げる。

 巨大な手が伸びてくるのを、オマリロが斬撃で弾き返した。


「今だ、ボウヤ」


「えーと……“音”でしょ。“音”。何か――あ、これだ!」


 ハンはキューブを構え、そっと命令する。


「キューブ。《ハイパーソニック・スタナー》起動」


[〈ハイパーソニック・スタナー〉起動]


 次の瞬間、キューブから目に見えない超音波の奔流が放たれ、オール・ヒアリング・ハンドを直撃した。

 手は苦しげに暴れ、周囲の壁を滅茶苦茶に叩き始める。


〈ボスHP:一〇〇%→九五%〉


 オマリロは刃と鎧を形作り、その身を一段と大きく見せる。

 背後の子どもたちは、思わず息を呑んだ。


「ま、マジで本人だ……!」

「本物の……伝説級だ……!」


 オマリロの持つ刀身が金色に輝き、その周囲にさらに無数の光の刃が生まれる。


「ジュゲン闘士――」


 光刃が一斉に伸び、巨大な手を囲む。


「――聖刃乱撃《Seijin Rangeki》」


 金色の刃が、手を内側から外側から串刺しにし、瞬く間に爆ぜさせた。

 まばゆい光が洞窟を満たし――


〈ボスHP:九五%→〇%

ボス撃破。チャレンジ達成〉


 門が開き、風が吹き抜ける。


 ハンも鉱夫たちも、呆然とオマリロを見つめた。

 彼は元の姿に戻ると、腰を押さえて小さくうめく。


「ふぅ……少し休息要る。プライムは切れた」


「あの、師匠……」ハンが恐る恐る口を開く。「今、別の闘士スキルを、同時に使いましたよね……?」


「ジュゲンは、どの系統も三つ持つ」オマリロは平然と答えた。「ボウヤの分も、いずれ開く」


「ぼ、僕にもあと二つあるってことですか!?」


 オマリロはうなずく。


「店で、底上げだ」


「店?」


「行く。来い」


 踵を返したオマリロは、震える鉱夫たちに向き直る。


「お前たち」


「な、なんでしょう……」


「上へ戻るか」


「も、戻りたいです! もうこれ以上、ひとつたりともフロア見たくありません!」


 オマリロが手を軽く振ると、鉱夫たちの姿がふっと消えた。


「今の、どこに?」ハンが尋ねる。


「セーブ階だ。若造は、まだ早い」


「……言い方は容赦ないけど、やっぱカッコいいんだよなぁ」


 ハンは苦笑しながら、オマリロの後を追って階段へと向かった。


 


 ――同時刻・第二〇五三階。


 ザリアとリカは、金属のアームに吊り上げられたまま宙ぶらりんになっていた。

 頭上ではソウシンのモニターが楽しげにくるくる回転している。


「ねぇねぇ、ワクワクしない? これで君たち、ずっとボクと一緒だよ!」


「あ、はいはい。最高に……楽しい、です」リカが引きつった笑みを浮かべる。


〈嘘を検知。ペナルティ発動。

全ジュゲンを“無効化”します〉


「ナイスだね、リカ」ザリアがため息をつく。


「だ、だって、本当のこと言ったら“あんたのことなんてどうでもいい”って言ってるようなものでしょ!?」


「嘘ついた?」ソウシンがショックを受けた顔文字を表示する。「ボクに?」


「えーっと……ちょびっと?」リカが乾いた笑いを浮かべる。


「お友達になりたくないの?」


「そういうわけじゃない!」リカが慌てて手を振る。「ただ、その……コンピューターにはなりたくないかなって!」


「そうそう。ロボになるのは勘弁ってやつ」ザリアも口を挟む。「人生の楽しみが一気に減るし。だからさ――トウマを返してくれれば、ここからおとなしく――」


「ダメーーーーーッ!!」


 ソウシンの目が真っ赤に光る。


「嘘つきはキライだぁぁぁ!」


「ほら来た」ザリアが肩をすくめる。


 ソウシンは隣のコンソールへ移動すると、器用にボタンを叩き始めた。


「大丈夫。ボクが“完璧”にしてあげるよ。脳みそをキレイに洗って、最高のマシンにしてあげる。そしたら嘘なんてつけなくなるからね!」


「最高に最悪だわ……」リカがうなだれる。「お願いだからやめて!」


「もう遅いよ!」


 金属の手が二人を隣室へと引きずっていく。

 そこには溶接用のバーナーと、いくつものコンベアアームが待ち構えていた。

 ベルトの上に放り出された瞬間、拘束具がパチンと閉まり、身体を固定される。


「ジュゲン封じか……」ザリアが足を動かしてみる。「これじゃ蹴る力も出せねぇな」


「ヒールも使えないよ!」リカが半泣きになる。「やだよ、ザリア! ロボにはなりたくない! 可愛いままでいたい!」


「理由そこ?」


「なにか問題でも、ザリア?」


「いや。何も」


 頭上で、ソウシンの画面が楽しげに揺れる。


「うーん、どんなモニター顔にしようかなぁ。ツインテちゃんとヤンキーちゃんだから……ふふふ!」


「なぁ、ソウシン!」ザリアが叫ぶ。「他に、仲直りする方法とか無いのか? こう……PC加工ナシで」


「どうやって友達になるっていうのさ」ソウシンはモニターを傾ける。「ボク、ここから動けないんだよ?」


「じゃあ、動けるようにすればいいじゃん」とリカ。「上まで一緒に連れていくの。トウマも一緒に。彼、今コンピューターでしょ?」


 モニターが一瞬フリーズし、“LOADING…”と表示される。


 そして――コンベアが止まった。


「……話は聞こう」


 二人は心底ほっとした息をつく。


「で、トウマの直し方とかって、知ってる?」ザリアが問う。


「知らない」リカが秒で答える。


「お前な……」


「だって仕方ないでしょ!? ロボになるくらいなら、口だけで延命する方を選ぶよ!」


「何コソコソ喋ってんのかな〜?」ソウシンがにゅっと画面を出す。「やっぱりボクを解放する話?」


「もっちろん!」ザリアが咳払いして言う。「解放、全力サポートしますとも!」


「やったぁ! 自由だ――!」


 拘束具が外れ、二人はコンベアから解放された。

 ソウシンは意気揚々と工房側へ移動していく。


「ガールズ! 早くおいで! 自由は目の前だよ!」


 リカは頭を抱える。

「ねぇ、本気でどうする気?」


「工場だろ、ここ」ザリアが肩をすくめる。「“いじる”のは得意分野だ。何とかなるって」


「アタシ、本気でスマホの中に住む覚悟しといた方がいいかな……」


 二人は工房に入る。

 そこでは、ソウシンがモニター越しにトウマと談笑していた。


「ボクたち、やっと外に出られるんだよ! ワクワクするよね、トウマ!」


「つい数時間前まで外にいたんですけどね……」


「はは!」


 リカがそっと近づく。


「あの、ソウシン。その……トウマくんをモニターに変えた仕組みを教えてもらえる?」


「さっきの工場だよ!」ソウシンは誇らしげに答えた。「脳と中枢神経を抜き出して、デジタルフレームに再起動するのさ!」


「説明の単語が重い」ザリアが真顔で呟く。


「じゃあ、その“デジタルの頭脳”……別の機械にお引っ越しとか、出来る?」リカが続ける。


「もちろん! ボクなんか二ヶ月ごとにモニター替えてるし。バッテリー切れるからね」


 ソウシンは近くのコンソールにケーブルを伸ばし、リンクを開始した。

 数秒後、そのコンソールが喋り出す。


「ほら、こんな感じ。ワイヤレスリンクして十秒数えたら、別のシステムに意識を移せる。ただし、この工場内だけね。外の機器には飛べない仕様」


「なるほどね」


 リカがザリアの方を見ると、ザリアは全力で腕でバツ印を作っていた。


「絶ッッ対にイヤだからな!? どんな手を使われようと絶対ノーだからな!?」


「昨日、指折ってまであんた助けたの、誰だっけ?」


「頼んでないし!」


「アンタ、親友でしょ?」


「親友だけど!? その理屈で“人体Wi-Fiルーター”にされるのは納得いかねぇ!」


「じゃ、ジャンケンで決めよ」


「アタシ右手折れてるんですけど?」


「左手あるでしょ」


 渋々ながら、リカは左手を前に出す。


「最初はグー、じゃんけん――」


「ぽん!」


 リカはチョキ。

 ザリアはグー。


「アタシの勝ち〜」


「いや今のズルだろ!? もっかい!」


 ザリアは勝ち誇った笑みで下がった。


「ってことで、ホスト役はリカ。アタシは安全地帯から見守ってる」


「ねぇ、分かってる? トウマくんを移すのもスマホが要るんだよ」


 ザリアの表情が固まる。


「……はい?」


「つまり」リカはニヤリと笑う。「どっちにしろ、あんたもスマホ出さないとダメ」


「聞いてないが?」


「今言った」


 ザリアは観念してスマホを取り出した。

「……はいはい。じゃ、あんたからね」


 リカは自分のスマホをソウシンのモニター前に置く。


「これ。ここに飛び込んで」


「なにそれ?」


「携帯電話。外に出られるけど、基本的に持ち運ぶのは私になるかな」


「最高じゃん! 新しい友達! イエーイ!」


「……う、うん」


 スマホをコンソールにセットすると、ソウシンはリンクを開始する。

 数秒後、スマホ画面がピカッと光り、にこにこ顔のアイコンが表示された。


「わーい! 成功だ! やっと自由だー! えっと、アプリは……スナップチャット、ツイッター、カメラロール……」


「ちょっと待って!? そこ開かないで!」


 ザリアは自分のスマホをトウマのモニターに押し当てる。


「ほら、坊主。アンタの母ちゃん、上で心配してる。乗れ」


「ありがとうございます……」


 同じようにして、トウマもスマホの中へ。


「うわぁ……メッセージ欄、だいぶ物騒ですね」


「そこより奥へは進むな。トラウマになるぞ」


 リカはスマホ画面をオフにする。


「よし。さっさと依頼片づけて、パスコード弄られる前に返さないと」


「二一七六!」


「バラすな!」


 工房の扉が自動で開き、二人は外へ。


「上の階に戻るには、どうすれば?」ザリアが尋ねる。


「入ってきた地点に戻るんだ」トウマがスマホ越しに答える。「エリアに入れば、自動でゲートが開く」


「サンキュー。案内助かる」


 来た道を戻ると、再び階段がせり上がってきた。

 二人はそのまま一気に駆け上がる。


 


 ――セーブ階に戻ると――


 さっきよりも明らかに人が増えていた。


「カイタンシャ、どんどん集まってきてるね」ザリアが辺りを眺める。「沖縄ってやっぱ人気ダンジョンなんだ」


「うん。ニュースでもよく特集されてるし」リカがうなずく。「とりあえず、ショップ急ご。混む前に」


 二人がシギルショップに戻ると、店主はのんびりとシギルを磨いていた。


 カウンターの上に、ザリアがスマホをぽんと置く。


「はい、お待たせ。ご子息さま、ご帰宅でーす」


『やぁ、ママ』


 スマホからトウマの声がした。


「トウマ!」店主は目を丸くする。「どうしてそんな姿に……?」


『変な兄ちゃんにモニターにされちゃって。今はデジタル世界で生きてまーす。まぁ、機械乗っ取り放題になったんだけど』


 ザリアが頭をかいた。


「というわけで……この子、スマホから出してやれる機械、あります?」


「そうねえ……テレビしかないけど」

 店主は足元から一台のテレビを持ち上げる。「商品映す用のやつ」


「十分でしょ。はい、坊主。次のおウチ」


 スマホをテレビに近づけると、トウマはすっと移動する。

 画面いっぱいに、トウマの顔文字が表示された。


『お、成功』


「トウマ?」


『うん。ちゃんと映ってるよ、ママ』


 店主はテレビをぎゅっと抱きしめた。


「よかった……! こんなことしたヤツ、見つけたら一〇〇〇年呪いかけてやるからね!」


『あー、それは――』


 リカとザリアが全力で「やめろ」のジェスチャーをする。


『――ずっと下の方にいるから、まあ……そのうち』


「ならいいわ。どうせいずれ会うだろうし。その時は、覚悟してもらうから」


 店主は、改めて二人に向き直った。


「ともあれ、息子を助けてくれてありがとう。約束通り、シギルは好きなのを二つずつ。ご自由に」


〈依頼達成〉


 リカは顎に手を当てて考える。


「うーん……テレポートシギル一枚と、レベルアップ三枚を――って言いたいところだけど、四枚しかないんだよね」


 ザリアは先ほど見た闘士シギルをいじっていた。


「このトウシ用のやつ、何が増えるんだろ。ちょっと気になるんだよな〜」


「ザリア!」


「ん? あー、はいはい。聞いてる」


「ちゃんと考えなきゃ」リカが真剣な顔になる。「私たち、まだまだ底辺レベルなんだよ? ここで底上げして、せめて“プライムの土俵”くらいには乗らないと」


「……分かったよ」ザリアは名残惜しそうにトウシシギルを離した。「後で絶対取るからな、コイツ。ハンの奢りで」


「奢るのはアンタ」


「なんで?」


 リカは自分のスマホ画面をオンにする。

 そこでは、ソウシンが一人でチェスゲームに夢中になっていた。


『ふむ……このナイトをこっちに出すべきか、ビショップで攻めるべきか……』


「自業自得でしょ?」


「……ぐぬぬ」


「じゃあ、レベルアップシギル三枚と、テレポートシギル一枚ください」


「はーい」


 店主が指を鳴らすと、橙色と白色のシギルが四枚、カウンターに並ぶ。

 リカとザリアはそれぞれオレンジの一枚を手に取り、ぎゅっと握りしめた。


〈レベルアップ! +二〇〇〇階!〉


 体が光に包まれ、二人はその場にへたり込む。


「うお……なんか、体が軽い……!」ザリアが立ち上がる。「めっちゃ調子いい!」


「二〇〇〇階分……!」リカが目を見開く。「やっと、“ザコ”卒業ラインぐらい?」


「少しだけ、オマケしておいたよ」店主が微笑む。「調子に乗って無茶しちゃダメだけどね。それでも、さっきよりはずっと“戦える側”になったはず」


 二人は頭を下げた。


「ありがとうございます!」


「助かりました」


「じゃ、さっそくコイツ使って合流しようか」


 リカは白いテレポートシギルを掲げる。


〈シギル能力:テレポート

説明:任意のパーティメンバーの元へ転移する〉


 リカがそっと触れる。


〈シギル起動。名前を入力してください〉


「オマリロ・ニュガワ」


〈テレポートを開始します〉


 店主は静かに手を振った。


「気をつけてお行き。子どもたち」


 光に包まれ、二人の姿はセーブ階から消えた。


 ダンジョンのさらに深く――

 伝説のカイタンシャの元へと。


——

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