マッチングアプリに散る
スマホの中には、愛が詰まっている――
と、信じていた時期が、俺にもあった。
三十代半ば、職業・市役所勤務。あだ名・「Excelの亡霊」。
そんな俺・山田タカシが、マッチングアプリの世界に足を踏み入れたのは、
会社の飲み会で「今どきアプリも使えないの?」と笑われた夜だった。
アプリ名は「恋するコネクト」。
キャッチコピーは“運命、AIが見つけます”。
……運命をAIが探すってどういう仕組みだ。
俺はAIよりもまず、人間と話したい。
最初にマッチしたのは、プロフィール写真が猫の女性だった。
「猫派なんですね」と送ると、すぐに返事が来た。
「猫派ではありません。猫そのものです。」
……?
どうやら「ネコのアカウントを代理で操作してる飼い主さん」らしい。
が、会話はすべて猫目線だった。
「きょうのカリカリ、おいしかったにゃ」
「あなたもゴロゴロしますかにゃ?」
俺は真剣に悩んだ。
これを“人間関係”と呼んでいいのか。
二人目は「経営者・美咲」と名乗る美女。
「夢は世界を変えること」と書かれている。
写真は海外の高級ホテルのプールサイド。
まぶしすぎる。俺の残業明けの顔とは別次元だ。
「趣味は?」と聞くと返ってきたのは――
「投資と、あなた。」
おい。怖い。
すぐに「今、仮想通貨に興味あります?」と続き、
俺は三秒で“ブロック”ボタンを押した。
運命AI、詐欺師までマッチさせないでくれ。
三人目、「ゆりか(28)」
彼女のプロフィールにはこう書かれていた。
「マッチングアプリで彼氏できた人いるの?実験中。」
正直でいい。
やりとりも軽快で、食べ物の話で盛り上がった。
「会いませんか?」と誘われ、俺はついに人生初のアプリデートへ。
――待ち合わせ場所、駅前のカフェ。
緊張で汗ばむ手。心臓はプレゼン前の十倍の鼓動。
そして現れたのは、
プロフィール写真の彼女……の、母親だった。
「本人、いま体調悪くて。代わりに私が確認しに来たの」
確認?なにを?
「娘にふさわしいかどうかを」
――面接かよ!
カフェで母親相手に恋愛面接。
「将来の展望」「貯金額」「親との同居は可能?」
質疑応答45分。
最後に言われた。
「あなた、悪くないけど、娘は猫派なの」
……俺は犬派だ。完敗だった。
帰り道、スマホが震えた。
アプリから通知。
「新しい運命の相手が見つかりました!」
スクリーンには、“猫”のアイコン。
メッセージ欄には――
「にゃ?また会ったにゃ?」
俺はそっとスマホを閉じた。
もう、AIにも猫にも恋はしない。




