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第十一章 星の下の願い

使節団の一行がニューヨークの港に到着すると、すでに数千人の市民が集まり、日の丸と星条旗が並んで掲げられていた。


軍楽隊が「星条旗よ永遠なれ」を奏でる中、清之介は異国の熱気に包まれながら、グレイスの手を取って船を降りた。


「こんなにも歓迎されるとは……」


清之介は驚きとともに、どこか居心地の悪さも感じていた。


だが、グレイスがそっと彼の腕に手を添えた瞬間、その不安はすっと消えた。


「あなたたちは英雄よ。この国に真実をもたらしたのだから」


彼女は淡いピンクのドレスに身を包み、使節団の一員として誇らしげに胸を張っていた。


五番街を進むパレードでは、使節団の乗る馬車の前後を騎馬隊が護衛し、沿道には花束を手にした子どもたちが並んでいた。


清之介は、馬車の窓から手を振るグレイスの横顔を見つめながら、彼女の存在がどれほど自分の心を支えているかを改めて感じていた。


「グレイス殿……そなたは、闇を照らす灯火のようだ」


「そんなふうに言われたら……ますます離れられなくなるわ」


馬車が市庁舎前に到着すると、使節団は一人ずつ降り立ち、歓迎の式典へと向かった。


市長が壇上で挨拶を述べる間、清之介とグレイスは並んで立ち、互いの手をそっと握り合っていた。


式典後の晩餐会では、豪華な料理と音楽が振る舞われ、外交官たちが次々と清之介に声をかけた。


だが、彼の視線は常にグレイスを追っていた。


彼女が笑えば、彼も笑い、彼女が沈黙すれば、そっと寄り添った。


グレイスは微笑みながら、そっと清之介の手に触れた。


清之介は驚きながらも、彼女の手を優しく包み返した。


夜が更け、街の灯が静かに瞬く頃、グレイスは清之介を連れて市庁舎の屋上へと向かった。


そこから見える夜景は、まるで星々が地上に降りてきたかのようだった。


遠くに灯る摩天楼の光が、まるで二人の未来を照らすように瞬いていた。


「この街は、あなたの国とは違うでしょう?」


「違う。だが、そなたといると、どこでも心が落ち着く」


グレイスはしばらく黙っていた。


そして、ぽつりと呟いた。


「清之介……私は、あなたを愛してしまったの」


その言葉は、風の音に紛れて消えそうだった。


だが、清之介の耳にははっきりと届いていた。


「拙者も……同じ気持ちだ」


二人は見つめ合い、静かに微笑み合った。


その瞬間、言葉よりも深く、互いの心が通じ合ったことを感じていた。


グレイスは視線を夜空に向けながら、静かに言った。


「でも、あなたは帰る。私は残る。それが現実なのよね」


清之介は頷いた。


「使命がある。国が待っている。だが、そなたとの絆は、決して消えぬ」


「それでも……怖いの。時が経てば、あなたの記憶も、私の想いも、薄れてしまうんじゃないかって」


「忘れぬ。そなたの言葉も、笑顔も、すべて心に刻む」


グレイスは静かに息を吐き、夜風に髪を揺らしながら言った。


「この夜を、私は一生忘れない。たとえ離れても、あなたがいたことを、私は誇りに思う」


清之介は彼女の手を握り、しっかりと見つめた。


「拙者も、そなたと出会えたことを誇りに思う。いつか、必ず——」


言葉の続きを、彼は飲み込んだ。


それは約束ではなく、願いだった。


そしてその願いが、やがて訪れる別れの痛みを、より深く刻むことになる。


清之介は何も言わず、彼女を強く抱きしめた。


二人の体温が、言葉以上に深く心を通わせていた。


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