表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/41

第6章 最初の町と冒険者ギルド

 美月とリナは小さな村をあとにし、森の街道を歩いて数日。

 やがて石造りの城壁が遠くに見えてきた。


「わぁ……お姉ちゃん、見て! あれが町?」

「ええ。きっと、この辺りで一番大きな町ね」


 近づくにつれ、城門前には人と荷馬車の列ができていた。

 行商人、冒険者、旅芸人。さまざまな人々の声と匂いが交じり合い、胸が高鳴る。


 ――いよいよ、外の世界に足を踏み入れるのだ。



 町に入ると、そこは活気にあふれていた。

 石畳の道の両脇には露店が並び、香辛料の匂いや焼きたてのパンの香りが漂ってくる。

 リナはきょろきょろと辺りを見回し、瞳を輝かせた。


「お姉ちゃん、あっちから甘い匂いがする!」

「ふふ、落ち着いて。まずは泊まる場所を探さないと」


 だが、美月の心にはひとつの目的があった。

 ――冒険者ギルド。

 旅を続けるには情報と資金が必要だと、孤児院のシスターから聞いていた。



 木製の大きな看板に「冒険者ギルド」と刻まれた建物に入ると、中は想像以上に賑やかだった。

 武器を持った冒険者たちが酒を飲み、依頼掲示板の前で談笑している。


 美月とリナが足を踏み入れると、ざわめきが一瞬止まった。

 場違いな二人に視線が集中する。


「おい、旅人か?」

「女と子どもだけでここに? まさか冒険者志望じゃねぇよな」


 嘲笑混じりの声が聞こえ、リナは不安そうに美月の袖を握った。


 その時、奥から出てきた赤髪の受付嬢がにこやかに声をかけてきた。


「ようこそ、冒険者ギルドへ。今日はどういったご用件で?」

「えっと……旅を続けるために、依頼を受けたいんです」


 ざわっと周囲がまたざわめく。

 武装すらしていない美月たちが依頼を受けると言うのだから無理もない。



 受付嬢は首をかしげながらも、やさしい口調で尋ねた。


「武器や戦闘の心得は?」

「いえ……ありません。その代わり、料理なら得意です」


 その言葉に、冒険者たちは一斉に笑い出した。


「ははっ、料理だとよ!」

「ギルドに飯炊き女が来たってか!」


 リナが俯きかけたその瞬間――腹を鳴らした男の声が場の空気を変えた。


「……けどよ、実際にうまい飯を食わせてくれるなら、それも悪くねぇ」


 声の主は大柄な青年冒険者。ごつい体に似合わず、困ったように腹をさすっている。


「三日も携帯食ばっかでな。正直、もう限界だ」


 すると他の冒険者たちも次々と賛同した。


「おお、それなら試してみようぜ!」

「本当に料理が得意なら、この場で証明してみろよ!」



 受付嬢が気を利かせて、ギルドの裏庭を使わせてくれることになった。

 美月は荷物から調理道具を取り出し、深呼吸する。


「よし、やってみよう」


 今日選んだ食材は、市場で買ったばかりの分厚い肉と香草。

 冒険者にふさわしい、力の出る料理を作るのだ。


「リナ、火を起こすのを手伝って」

「うん!」


 二人で焚き火を準備し、鉄板を熱する。

 肉を塩と香草で揉み込み、熱した鉄板にのせると――


 じゅううううっ!


 音とともに香ばしい匂いが立ちのぼり、周囲の冒険者たちが思わず息をのんだ。


「な、なんだこの匂い……!」

「腹が……腹が刺激される!」



 美月は肉の表面を香ばしく焼き上げ、仕上げに特製ソースをかけた。

 ハーブと果実酒を煮詰めたソースが、肉の旨味を引き立てる。


「できました。よかったらどうぞ」


 皿を差し出すと、大柄な青年が真っ先に手を伸ばした。

 ナイフで切り分け、一口頬張る。


「……! やわらかい……うめえっ!」


 その叫びに、周囲がどよめいた。

 次々と冒険者たちが肉を口に運び、歓声が上がる。


「信じられねえ……ただ焼いただけなのに、なんでこんなに旨いんだ!」

「香草と肉が混ざって、体が熱くなる!」

「こいつは、戦う力をくれる料理だ!」



 リナは嬉しそうに美月を見上げた。

 彼女の目には「ほらね、お姉ちゃんはすごいんだよ」と誇らしさが宿っている。


 笑いと歓声に包まれる中、受付嬢が微笑んで言った。


「……なるほど。あなたの力は、料理なんですね」

「はい。戦えなくても、料理で人を支えられると思うんです」


 その真剣な言葉に、受付嬢は頷いた。


「では正式に、料理人としてギルドに登録しましょう。旅を続けるなら、あなたの腕は必ず役に立ちます」


 その場にいた冒険者たちも口々に賛同する。


「おう、料理係がいるパーティーは強ぇぞ!」

「ぜひうちの仲間に入ってくれ!」


 美月は驚きつつも笑顔を浮かべた。

 ――この町で、ようやく認められたのだ。



 その夜、ギルドの食堂では美月とリナが中心となり、大きな食卓を囲んだ。

 冒険者たちが豪快に笑いながら肉を食べ、酒を飲み、リナは楽しそうに皿を運んでいる。


 まるで家族のような温かい空気。

 美月は胸にこみ上げるものを感じていた。


「これから、もっといろんな人に料理を届けよう。きっと、この世界で私たちは生きていける」


 ギルドの明かりが夜遅くまで灯り続ける中、美月とリナの新しい冒険は、静かに幕を開けたのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ