↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
3/41

第3章 妹に似た少女


 栗色の髪。大きな瞳。あどけない微笑み。


 その少女を見た瞬間、美月の足は止まった。

 胸がぎゅっと締めつけられる。


 ――結衣。


 前世で病床に伏し、美月の腕の中で笑っていた妹。

 その面影が、目の前の少女と重なった。


「あなた……名前は?」

「リナ。あなたは?」


 少女――リナは少し恥ずかしそうに名乗った。

 声の高さも、柔らかな笑い方も、結衣とそっくりだった。


「私は……美月。旅の料理人みたいなもの、かな」


 喉が震えて声がうまく出ない。

 でもリナは気づく様子もなく、嬉しそうに微笑んだ。


⸻


 孤児院の夕食は、固い黒パンと塩ゆでの豆だけだった。

 子どもたちは無表情でパンをかじる。だがリナはパンを握ったまま、ぽつりとつぶやいた。


「……お姉ちゃんのシチューが食べたいな」


 心臓が跳ねた。

 その言葉は、前世の結衣が何度も繰り返した願いだった。


「……シチュー?」

「うん。小さいころに食べた気がするの。温かくて、やさしい味がして……」


 美月は唇を噛んだ。

 ――やっぱり、この子は。


 震える手で鍋を取り、あり合わせの食材を並べた。

 肉、玉ねぎ、根菜、そしてキャベツの葉。十分だ。


⸻


「まずは玉ねぎを切って炒めるわ」


 ざくざくと包丁を動かす。刻んだ玉ねぎを鍋に入れると、じゅうっと音が立ち、甘い香りが広がった。

 子どもたちが一斉に顔を上げる。


「いい匂いだ……!」

「これがシチュー?」


「まだよ。ここからが大事」


 肉を入れて表面を焼き、野菜を次々と投入する。

 水を加え、塩と香草で下味を整え、コトコト煮込む。


 鍋の中でぐつぐつと泡が立ち、湯気が部屋を満たした。

 鼻腔をくすぐる香りに、子どもたちはそわそわと椅子の上で揺れる。


「ねえ、まだ? もう食べられる?」

「もう少し。煮込むほど美味しくなるんだから」


 リナが興味深そうに鍋を覗き込む。

 その横顔が結衣と重なって、胸が痛んだ。


⸻


 やがて完成したシチューを器によそい、リナの前に置いた。


「どうぞ。……熱いから気をつけてね」


 リナはスプーンを手に取り、恐る恐るひと口。

 その瞬間、彼女の瞳から大粒の涙がこぼれ落ちた。


「……すごく、懐かしい味がする」


 美月の胸にも熱いものがこみ上げる。

 嗚咽をこらえきれず、ぽろぽろと涙が頬を伝った。


「ごめんね、急に泣いたりして……」

「ううん。ありがとう、美月お姉ちゃん」


 その言葉に、美月は思わずリナを抱きしめた。

 彼女の小さな体は温かく、まるで結衣が帰ってきたかのようだった。


⸻


 孤児院の食卓には笑顔が広がった。

 シチューを頬張る子どもたちが、口々に「おいしい!」と叫ぶ。

 黒パンを浸して食べる子もいれば、スープだけを大事そうに味わう子もいる。


「こんなに美味しいもの、初めて食べた……!」

「お腹がぽかぽかする!」


 その輪の中で、リナは小さく呟いた。


「……ずっと、この味を食べたかった」


 美月は静かに答えた。


「何度でも作るよ。何度でも」


 そして心の中で誓った。

 ――もう二度と、大切な妹を失わない。

 この異世界で、料理を通じて守ってみせる。


 こうして、美月とリナの“新しい家族の物語”が幕を開けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。