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現人神の花嫁〜離縁からはじまる運命の恋物語〜  作者: 朱宮あめ


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 無事、睡蓮が楪の花嫁となって一週間が過ぎた。

 睡蓮は既に、本拠地を花柳家の離れから楪が住まう天空の社へと変えている。

 最近の睡蓮は、社にある現人神や花嫁に関する資料を読み、勉強していることが多い。

 現人神をそれぞれ加護する神獣のこと。それぞれの現人神が得意とする術式。花嫁の役割と、幻花と呼ばれる特別な魂について――。

 現人神の花嫁として学ぶべきことは、たくさんある。

 楪や薫たち〝現人神〟についても、じぶん自身である〝花嫁〟についても、睡蓮はまだまだ知らないことが多過ぎる。

 睡蓮に与えられた部屋は、座敷と板間が襖ひとつで仕切られた二部屋。

 しかし、睡蓮はいつも資料が保管されている資料庫の窓際にある洋風机と椅子を使って勉強している。

 ぱら、と(ページ)をめくる音が響いた。

 そういえば、雨の音が消えている。

 八角格子窓のほうへ目を向けると、しっとりとした水のにおいが濃くなった。

 窓の向こうには、紫陽花がある。青、桃、白の花びらが灰色の空に鮮やかに映える。

 近くにある柳の木も、いつもの乾いた葉音ではなく、生き返ったようにみずみずしい葉音に変わる。

 睡蓮はそんなささいな変化が好きだった。

 水と言えば、東の現人神について調べ始めて、分かったことがある。

 楪は水を司る現人神だという。

 ほかの現人神――たとえば白蓮路家は風、朱鷺風家は炎、玄都織家は土、である。

 そしてひとびとは、その土地を治める現人神が司る力と同じ質の魂を持つと言われている。そのため、現人神は同じ系統の魂を持つ土地から花嫁を選ばなければならない。違う系統の魂では、番となり得ないからである。となると睡蓮は楪と同じ、水の魂を持っているらしい。しかも、その中でも特に稀有な幻の花と呼ばれる魂を。

 ふと、資料庫の扉が音を立てて開いた。睡蓮は窓の外から、扉へ目を向ける。

 だれだろう、と思って見ていると、入ってきたのは楪だった。社には今のところ、楪と睡蓮しかいないから当たり前と言えば当たり前なのだが。

 楪は、紅と桃李もいずれここへ呼ぶつもりだと言っていたが、今のところはふたり暮らしだ。

 紅と桃李は今、絶賛特訓中だからである。

 なんでも、紅は護衛としての基礎を身につけるため、護衛任務に長けた桃李が特別に特訓するのだという。

 しかし桃李の訓練は文字どおり鬼の訓練らしく、紅は半泣きになりながらこなしている、と楪は言っていた。

 紅の武運を祈りつつ、睡蓮は毎日勉強している。

「睡蓮、少しいいですか?」

 入ってきた楪が睡蓮を呼ぶ。睡蓮は資料を閉じ、立ち上がって楪のもとへ行く。

「どうかしましたか?」

 楪は睡蓮と自室に移動すると、言った。

「花嫁の神渡り式が行われることが決まりました」

「花嫁の神渡り?」

 睡蓮が首を傾げる。

「はい。以前の契約結婚時も行われる予定だったのですが。覚えていませんか?」

 言われてみれば、と思い出す。

「そういえば……前のときはたしか、南の前現人神さまが崩御されて延期になったって、桃李さんから手紙で聞きました。えっと……花嫁の神渡り式って、いわゆる結婚式のことですよね?」

「そうです」

 睡蓮と楪は、結婚式がまだなのである。

「そういえば、今南の現人神さまって……」

「炎禾さまが崩御されてからは、双子の妹である詠火さまが務めています」

「えっ! 現人神さまって、みんな男性なんじゃ……」

「まさか。現人神の中でも、朱鷺風家と玄都織家は代々、当主は女性ですよ。龍桜院家と白蓮路家は代々男が継いでいますが」

「なるほど……じゃあ、南と北の土地で幻花を持つのは、花婿さまとなるのですか?」

 睡蓮が訊ねると楪は「はい」と微笑んだ。

「神渡り式は二週間後の夜、新月のもとで行われます。式自体は難しいことはないのですが、ただひとつ、睡蓮には話しておかなければならないことがありまして」

「話しておかなければならないこと?」

 なんだろう。難しいことじゃなければいいが。

 睡蓮はごくりと息を呑む。楪は説明を続ける。

「神渡り式は、月の京という特別な場所で行われます。月の京へは式前日に入って、その日はまず各現人神とその伴侶への挨拶回りがあり、そのあと晩餐会。翌日に式をして、式のあとは現人神と伴侶別れてのお茶会をして、解散……という流れになります」

「は、はい」

 なかなか目まぐるしい。


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