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97.深部の防衛戦

エナ視点にもどります。

 最深部、“正解の道”に居座り、できるだけ時間を稼ぐ……私への任務はそれ。


「貴女は……先ほどまで地上で戦闘をしていたはずでは」

「他人の空似ですね」


 そして、その正解の道へ現れたのは、究極院一人だけだった。


 ハズレの道には、ゴーレム、虫、トレント、少佐、そしてアルマがそれぞれ配置されている。アルマからの連絡では、少佐のところが一番忙しかったらしい。あの大将二人の側近にあたる人たちを全員相手してる状況らしく、ゴーレムや虫をいくつか配置換えまでしてなんとか押し返したらしいけど。


 そのアルマも、戦闘に入ってしまった。相手はRandom15らしい。しばらく連絡は望めないなと分かったので、私は私の仕事をするとしよう。


「……ふむ。他人の空似なら仕方あるまい」

「ええ」


 仕方ない。


 互いに、両刃の剣を打ち合わせた。


「……重い」

「光栄だな」


 当然だけど、そのガタイの良い全身に鎧を纏う究極院と、女にしてはそこそこ体格がいいだけの私がまともに打ち合えば私が力負けする。むしろ【龍生九子】の持つ種族的な強さを差っ引いた分、今ですら実際より相当軽く感じられているはずだ。


 ……それでもこの重さ。正面から斬り合うのはどう考えても得策じゃないな。


「まあ、仕方ないか」


 大きく後ろに飛び退き、剣を収める。腕輪を嵌めた両手を頭上に掲げた。


 右手に嵌っていた黒い腕輪が溶けるように腕からはずれて、膨らみ、黒い金魚の形を取る。


「【ダークランス】」


 陰を使った【闇魔法】。今までは腕輪のまま魔法を使ってたからこの姿での実戦投入は初めてになるが、わざわざ確かめずとも目に見えて強化されている。魔法そのもののスペックも、私の構築速度も。


「……ッ!」


 究極院は、見たことのない魔法にたじろぐ_いや、一度だけ見たことはあるはずだ。黒い槍。自分の心臓を貫いた記憶。


 かつての騙し討ち。


「覚えてます?」

「……少佐、の……」

「よかった。アレ、私が教えたんです」


 わーお、想像以上に記憶力がいいな。それともあれか?少佐のあのエグい魔法の撃ち方にトラウマ植え付けられたか。


 エグかったよねーあれ。少佐に「多分既存の魔法防御をすり抜けられる魔法」として、何となく情報提供的なつもりで【闇魔法】を教えたら、秒で覚えて一瞬で応用した。怖い何あの魔法の天才。


 ……ちょっと身バレした。今度改めて事情聴取されることになったので、私の平穏な隠遁始祖ライフは終わったかもしれない。


 話を戻そう。


 究極院の鎧には極めて高度な魔法防御が、まあ……織り込まれている?と言えば良いのかな。そうらしい。刻まれていると言うと、少し誤解が生まれそうだから、こう言わせてもらう。この情報はかぬっちさんから聞いた。


 うん。究極院の装備を打ったの、かぬっちさんだったんだよね。世界って狭い。でも惜しげもなくその魔法防御の弱点をしゃべってくれた_かぬっちさん的には元から魔法防御の弱点は公開しているから、別にそこまでの情報じゃないってことらしいけど_おかげで、【闇魔法】、ひいては【影魔法】や【侵蝕魔法】がその魔法防御をすり抜ける事実に気がつけたんだけど。


「貴方の鎧に、ただの魔法は通じないみたいだから」

「……かぬっち殿」

「対策を知ってるのと実際に持ってるのじゃ大違いだった、そういう話です。【シャドウランス】」

「……【ホーリースラッシュ】!」


 広いドームを光で埋め尽くすような、ひときわ強く輝く一閃。


 私の【シャドウランス】はその光に断ち切られて、文字通り影も形もなくなった。


 うん、これでいい。


 出来るだけ時間を稼ぐ。出来るだけ究極院の本気を引きずり出す。出来るだけ疲弊させる。


 防衛陣営の勝利条件は敵の殲滅じゃない。時間いっぱい逃げ切ることだ。


 その要は、私。


 究極院が私の魔法に少しでも焦って、少しでも生き残ろうと本気を出して、少しでも私を打ち倒してやろうと躍起になる。それを私が必死に逃げ回る。それだけで私たちは勝利に近付く。


 偽の勝利で、視野を狭める。偽の敗北で、思考を歪める。動揺を悟られるな。勝っているのは私だ。


 劣勢で平静を保つことにおいて、私並みの適任はアルマくらいしか居ないんだから。


「やぁっと、本気、出したみたいですね」

「あなた方は随分戦いが好きなようだが」

「戦うように言いつけられてるので」


 だから、仕方ない。


「【ダークネス・ボール】」

「【セイクリッド・ランス】」


 巨大な闇の球体と、光の槍。


 互いの魔法がドームの中心でぶつかり合い、膨張と収縮を繰り返す。音はない。ただ空気が一瞬で真空になったかのように耳が詰まり、次の瞬間、爆ぜるような衝撃波が全方位へ走った。


「っ……!」


 後方へ吹き飛ばされながらも、私は必死に影を操って受け身を取る。胸の奥が焼けるように痛い。攻撃の威力そのものより、聖属性が私の影を蝕んでいるせいだろう。


 だが、上等。


 これでまた、数秒は稼げた。


「……やはり、あなたは只者ではない」

「今さら気づいたんですか」


 軽口を叩く。呼吸は荒く、全身汗で濡れているのに、口元は笑顔を崩さない。敵に悟らせてはいけない。


 光と闇がせめぎ合い、空気が軋む。

 究極院は一歩も退かず、むしろ確信を得たかのように前に踏み込んでくる。


「ならば、斬り伏せるのみ!」

「……ああ、やっぱりそう来ますよね」


 彼が剣を掲げるのに合わせて、私は影を溶かす。両者の間に広がるのは、光と闇の境界線。


 私は死ぬまで時間を稼ぐ。

 だからこそ、何度でもぶつける。


「【シャドウランス】!」

「【ホーリースラッシュ】!」


 ドーム全体が再び震え、光と闇が交錯して爆ぜた。


 ――それでいい。


 にい、と口端が上がるのが、自分でもよくわかった。

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