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96.能ある鷹の爪

 ブルームが暴れるその横をすり抜けていった、究極院とRandom15、そしてそのわずかな取り巻きたち。彼らは防衛陣営の本拠地である要塞へと押し入って、コアを探していた。


 要塞内部には、外とは比べ物にならない量の罠が、恐ろしいほどの殺意を持って仕掛けられていた。本当に防衛拠点としての運用がなされているのか、疑問に思うほどに。


 要塞と言うよりも、この建物そのものが巨大な罠のようだった。入るのはそこまで大変ではないが、この罠の密度では逃れることも敵わない、そんな作りの建造物。恐らくは、出る方向に歩くことで発動する罠もあるだろう。引き返す気も失せるというものだ。


 防衛側はあれだけの兵を取りそろえながら、少人数の防衛だと割り切って本陣にまで隙間なく罠を仕掛けていたということか。


 一人、また一人と取り巻きが罠の手にかかり脱落していく。今回ばかりは、究極院やRandom15が生き残ったのは偶然だ。踏んできた場数の違いによるものかもしれない。


 とうとうその二人も分断された。頭上からの落石を飛び退いて避けた拍子に、Random15は脇にそれる急な下り坂へと転げ落ちていった。


 究極院は、さらに深く奥へ、一人で進むことになる。


――――――――――――


 長く急な坂を落ちていくRandom15。その身体に乗った速度が再び0に戻ったとき、彼女はドームのような開けた空間に居た。


「お、Random15だったか」


 彼女から少し離れた場所で、青い狩衣の上に萌黄色の絲でおどした鎧を身に着けた青年_アルマが、やや驚いたようにそう言った。


「防衛陣営か?」

「正解。そしてようこそ、ハズレの道に。俺が言うのも何だが、アンタも災難だな」


 肩をすくめて苦笑するアルマ。その腰にはやや大振りな太刀を佩いている。


「とは言え」


 アルマは流麗な仕草で刀を抜く。肩幅は厚く、袖や差袴に隠れた四肢も恐らくがっしりと太いであろう身体には似つかわしく無いほど滑らかな所作だった。


 Random15も構える。


 その姿を、アルマは不敵に微笑んで見つめていた。抜き切った刀のその刃が、照明をキラリと跳ね返し、薄暗いドームに浮かび上がる。


「俺にも仕事があるんだ」


 Random15は考えた。ここはハズレの道だとこの男は言う。コアらしきものが隠されているようにも見えない。引き返して究極院と合流するべきだろうか。


 ……ともかく、この男とまともにやり合うのは損だ。彼女はそう算段をつけて、もと来た道を帰ろうと決めた。


「断る」

「それはもっと早く言うんだったな。もう扉は埋まってる」


 慌てて振り返るRandom15。


 確かに、そこはもう壁だった。あたりのドームの壁と全く変わらない、根が張り出してガッチリと固められたそれであったのだ。


 驚愕を隠せないRandom15を煽るように、アルマは続ける。


「元の壁を探してもいいぜ?アンタの腕なら、壁の1枚や2枚ぶち抜けたっておかしくないだろ。背中を向けた瞬間に滅多斬りにしてやるが」

「……ふん。構うものか。貴様を倒して、それからゆっくり探せばいいだけのこと」

「はは、最適解。出来るならそれが一番だよな」


 そうして、どちらからともなく仕掛けた。


――――――――――――


 ガキン、と耳障りな金属音が響く。


 アルマの刀をRandom15の腕が受け止めた音だ。


「どういう皮膚だよ……」


 アルマはぼやきながらも、その連撃の手は緩めない。両手で力いっぱいに振るうその攻撃は、斬撃と言うよりも打撃的なダメージをRandom15に与えていた。


 しかしながら、その所作は何処で止めても美しい。真っ直ぐに踏み込み脇を締めて振り下ろすだけの剣技にも、鍛え抜かれた疾さがある。しばらく打ち合い続けているにもかかわらず、その刀が大した刃毀れをしていないことからも、振るうその腕の技量が見て取れるだろう。


「……っ、はあ……」


 対して、Random15はひどく疲弊していた。奇妙だとも言えるほどに。


 腕が衝撃に震え、肘が疲労で無意識に笑ってしまっていることは、彼女にとって何らおかしなことではない。この男の一撃は一つ一つが致死的に重い、ただそれだけのことだ。


 だが、それに由来するような疲労ではなかった。そもそも彼女はログイン初日から戦闘に明け暮れていたような身分で、致死的な一撃を受け止め続けるような紙一重の戦闘などいくらでもやってきた。


 そんな日々の中で、今の彼女が抱えるような、体の芯が歪められているような疲労など、まるで感じたこともなかったはずなのだ。


「ふぅ……っ」

「しんどそうだな」

「……貴様にそう言われる謂れは無い!」


 僅かなその間を突いて、今度はRandom15が攻勢に出る。防戦一方だった先ほどの数倍のスピードで、アルマはただそれらを受けるのに必死なようだった。


 立場が逆転したかのようだ。


 Random15の……【オーガ】の拳を真正面で受けつつも、その鋭い蹴りを受け流し、時には敢えて身体で受け止めて……しかし、逆転には至れない。速すぎて隙を捉えられない。


 わかりやすいパワー系のようでいて、彼女の芯の強みはスピードとそれを制御する技術であった。


 埒が明かないな。そう言ったアルマは口の端を少しだけゆがめて、大きく踏み込んだ。最初の重さに加え、全体重を掛けたその一撃に、Random15の身体は大きく後ろへ揺らぐ。


「っぐ」

「隙あ_チッ!」


 アルマがRandom15へ追撃を打ち込もうとして、彼女の雰囲気が大きく変わったことに気が付き、ぐっと踏みとどまる。


「抜 か せ ! ! !」


 Random15の顔は白目まで真っ赤に染まり、額からは皮膚を突き破って角が生えている。悪鬼羅刹そのままの姿だ。


 踏みとどまったアルマの隙を咎めるように、Random15はがら空きの急所_その喉へ、鋭い爪を容赦なく突き立てる。


 べキャ、と嫌な音がして。アルマの頭と身体は分かたれ、その断面は引き千切られてボロボロになっていた。


 どさ、とその身体が力無く倒れ込む。


 Random15はそれを確認して、アルマに背を向けた。


――――――――――――


「あー痛え。クソ、頭ついてねえと身体動かしづれえな……そっちそっち。ったく、一人二人羽織かっての」


 死んで倒れ伏した筈のアルマ。彼一人きりになったドームで、よろよろと首無しの剣士が歩く。それはぎこちない動きでその首をつかみ上げ、そのまま嵌め込むようにぐりぐりと断面どうしを押しつけた。


 パキパキ、と生木のような音がして、その二つは先ほどまで捻じ切れていたこともわからないように綺麗にくっつく。


 首をさすり上げて、アルマはつぶやいた。


「ガワだけ人にするのも面倒くさいんだよなあ」


 やってらんねえや。そう呟くと、青年の形をした身体は何本もの枝にほどけていった。

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― 新着の感想 ―
蜘蛛な人もある意味で人外だが本当の意味で人外はアルマとエナだなぁ
なんかすごいゲームだね、がわだけ人って・・・それって操作できるんだ・・・
アルマさんもちゃんと人外
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