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9.アップ・セット

タイトルで大ネタバレです。

『第1試合!【断鋼】オーガスト!対するは(バーサス)!【正体不明】メル!』


 ごきげんよう。試合直前の熱気の中から失礼、最早お馴染み人類体のエナです。


『3、2、1……試合(バトル)!!開始(スタート)!!!!』


 さて……第1試合は、早くも優勝候補と不安要素がぶち当たるカードとなった。


「これ、対戦カード作成者は確信犯だな?」

「正しい意味でね。この2人はカチ合わせたほうが面白くなる」

「違いないな。……おー、やっぱ団長さんは膝がマズそうだな」

「それでもよくカバーしてる。想定以上の動きだし、並の相手じゃ全く歯が立たないだろうね」

「今の俺たちだと?」

「アルマは切られて終わり、私は潰されて終わり。そもそも、騎士団長相手じゃなくてもすぐ死ぬ」

「デスヨネー。こんな無意味な想定あるかよ」


 試合開始と同時に、騎士団長は真っ直ぐマントへと斬りかかった。とんでもない踏み込みだ。対するマントは……お、あいつ細剣レイピアを使うのか。なんとか上手いこといなしているが、しかし同時にやり過ごすのがやっとという印象を抱く。


 あー、目が見えるっていい。


 よそは「自分だったらこうする」とか「あの動きはあのスキルが」とか喋っているけれど、私たちには一切関係がない内容なのが悲しいな。うん。もう人じゃなくてもいいから手足と感覚器官が欲しい。


「まずは進化を頑張らないとな……」

「地道に行こうな。やる気が続くのが一番だ」

「あー……あ?あのマント、何してる?」


 視線をスタジアムへ戻す。さっきまで凄まじい踏み込みで斬りかかってきた騎士団長をいなすばかりだったマントが、今見ると急に棒立ちになっていた。ヤケを起こした?いや、そんな様子じゃない……。


「むしろ、何かの条件を満たしたというか」

「言えんくもないな。団長さんも警戒してる」


 マントの合わせ目から素手が出てきた。あのマント、やっぱり鍛えてはいるが細身だな。


 刹那、騎士団長が防御姿勢を取った。


「……!?おわ!?」

あつ……ッ」


 そしてスタジアムが炎に包まれる。その瞬間だけは、その炎があらゆる照明を灼き尽くす勢いで何よりも眩く輝いていた。


 ……そして、1秒もせずに炎がしぼむ。


「……あー、団長さんは立ってるな」

「息は上がっているけど動けそう。アルマは大丈夫だった?」

「まさか攻撃がちょっと貫通してくるなんて思わなかったな……『最前列は攻撃が漏れてくる可能性があります』って書いとくべきだったろ」

「そんなイルカショーみたいな」

「エナは?大丈夫だったか?」

「平気。多分、アルマよりは火に強いから」

「確かに。俺つる植物だもんな」


 騎士団長はなんとか立っている。対するマントは、息が上がった様子も見せなかった。うん、やっぱり魔法使い系だったか。ならあの教科書みたいな立ち回りも納得が行く。近接戦闘の訓練自体はよく積んでいて、でも実戦での近接戦闘経験はほとんど無いってことなんだろう。アレだけの超威力なら、魔法を使えばだいたい事足りるだろうし。


「やっぱ団長さんから仕掛けるよな」

「攻撃のパターンが増えた。さっきまでは小手調べだったんだろう」

「おお、スピードも上がってる」

「あ、マントが一撃もらった。あれじゃあなかなか魔法も撃てないかな」

「あー。ちょっと隙を晒す必要があるんだな、アレ」

「詠唱か動作か……さっきの魔法を見た感じ、本来あのマントはロングレンジが主戦場なのかも」

「でもマントからすれば、団長相手なら相性そのものは悪くないんだろうな」

「確かに。騎士団長は一撃に重さを持たせているタイプだから、速さで黙らせ続けるのは厳しいだろうし」

「なら……このスピードにマントがついてきたら、決着はもつれるか?」

「概ねそうと言えるかな。今のところ騎士団長が相当優勢ではあるけれど」


 騎士団長は唸りを上げながら剣を叩き込む。マントはそれを必死でいなしつつ隙をうかがう。だんだん戦局が膠着して……おっと、マントが至近距離で爆発を起こしたな。騎士団長は意外な一撃にやや硬直し、その隙にマントは大きく距離を取った。


「おお。手が空かないなら無理やり空けさせる、と」

「賢いやり方だな。つまりマジカル猫だましってわけだろ?」

「マジカル……まあいいや。それより構えて。恐らく、また大技がくる」

「げ」


 慌てて少し後ずさるアルマ。スタジアムに立つマントは、すでに両手に大量の魔素を集めていた。……私がアレくらいできるまでには、一体どれほど掛かるのだろうか。気が遠くなってきた。


 そしてマントの両手から、白い光がほとばしる。


 なんだか寒い。……寒い?


「さむ……なんだこれ」

「氷系の、魔法?」


 凄まじい冷気。騎士団長も何とか態勢を整えて先制攻撃をしようとするが、どうしても動きが鈍っている。ああ、なるほど。急な寒さで古傷が引き攣れているのかもしれない。もはやマントは止まらない。


 そうして、途方もない冷気が解放され、それによってスタジアムには爆発的な霧が発生した。


「………………さっっっっむ!?!?!?!?」

「……ホット系の飲み物をもう少し買っておくんだった。スープなら在庫があるけど」

「ひとくちください……」

「どうぞ」


 ……つる植物(アルマ)にとって、寒さは相当厳しかったらしい。さっきの熱さ以上に。まあつる性植物ってだいたい温帯から熱帯に分布してるし妥当か。


 次第に霧が晴れる。やっと観客の視界が確保され、スタジアムの景色が視界に飛び込んできた。


「おお……」

「ああ……」


 そこには、倒れ伏す騎士団長と、肩で息をしながらも立っているマントがいたのだった。


『コイツは……コイツはとんだ大番狂わせ(アップ・セット)だァ!!!!!断トツの優勝候補を下し決勝戦に進んだのは……【正体不明】メル!!!!!!』


 一拍おいて、大歓声が沸き上がる。うん、イベントのつかみとしては既に最高の結果を出していると言えるだろう。

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