8.御祭と勝鬨
メインに参加できなくても楽しめるイベントって難しい。
『参戦者諸君!!!!観戦者諸君!!!!盛り上がっているかああああ!?!?』
そこかしこから歓声が上がる。ああ、記念すべき第一回イベントの開会式中ですがごきげんよう。今回も人類体のエナです。
「わーお。演出凝ってんね」
「うっ……久し振りの強い光……」
「わあ。影だから光が厳しいってか?」
「光が強いほど影も濃くなるから平気」
「そうなの?」
「知らない」
「ええ……」
プライベート設定のまま、アルマと会話しつつ開会式のド派手な演出を鑑賞する。花火爆上げ、ライト爆盛り。まぶし。
プライベート設定はあくまで中の声を聞こえなくさせるだけだから、外から伝わる歓声はダイレクトだ。大盛りあがりだなあ。
『今回のイベントテーマは……【お披露目】!!アンタらのフレッシュなパワー、存分に魅せ付けてくれよな!!!!』
少年のような少女のような、中性的な声をしたMCが開会式を進行する。……なんか、MCがずいぶんハイテンションだな。最初からそれで大丈夫か?
「そもそも誰だ?あのMC。エナわかる?」
「知らない。何者?」
MCはスタジアムを煽りに煽り、盛り上げまくる。人も相当いるみたいで……うわっ、立ち見までぎゅうぎゅうだ。やば。席取っておいてよかった。
とりあえずMCを眺めていると、不意に彼、もしくは彼女の頭上に白い紙が落ちてくる。カンペ?
『……?おっとお、ここでは初めましての冒険者もいたな?ハロー、エブリワン!!ミーは【クラン】!!彼でも彼女でもオールオッケー、アンタの愉快なMCだ!!!』
「……なるほど?」
「あー、【ファスティアのお祭り者】って呼ばれてるNPCだな。結構人気みたいだけど」
「ああ、私たちは……」
「“外”のスタートだから知らなかった。そういうことか」
アルマが掲示板を見ながら教えてくれる。へー、お祭り者ファンスレ。そんなのあるのか。ふむふむ、酒場のちょっとしたパーティーから、大商会主催のファッションショーまで、楽しそうな気配に駆けつけては盛り上げていく……何かの妖怪じみてない?
『ヘイヘイ、分かってるぜ?アンタらはもうチンタラ話なんか聞いてられないって!!!見たいのは……今からやり合う強烈な四人だろ!?!?!?』
「エナ。多分、もうすぐエキシビションマッチの出場NPCの紹介だ」
「おっと。ありがとう」
これは見逃せない。何せ優勝予想を当てれば豪華賞品である。今のうちによく見て、勝ち馬……ゲフンゲフン優勝候補に目をつけておかないと。
……豪華賞品なんてもらっても使えないって?いやいや、記念品と聞けば欲しくなるのが人の性だというだろう。本当は人じゃないけど。
『まずは……事前優勝予想、断トツ1位!!我らがファスティア騎士団長、【断鋼】のオーガスト!!』
「全て斬り伏せる。手加減無しでかかってこい!!」
紹介された騎士団長が声を上げる。実にシブいビジュアルだ。……ん、音を拡散するようなスキルを使ってるのか?やたらと声がよく聞こえたな……まあいいか。
『次!ベテランの次はニュースター襲来!!騎士団長のお墨付き、【西風】のフィア!!』
「我が師を超え、優勝を目指そう」
お、落ち着いた感じの女騎士が出た。ずいぶんよく通る声をしている。騎士団長のお墨付きってことは、彼女が騎士団の若手トップってところか?
『更にィ!向こうが街の猟犬ならこっちは流浪の狼だ!冒険者組合長!【牙狼】のヴォルフガング!!』
「フン……骨無し共にゃ負けねえぜ!!!!!」
声デッカ。全身に古傷が走る軽装の初老だ。……でも肉体が初老じゃなさすぎるな。これがベテラン冒険者かあ、なるほど。
『最後!謎多き飛び入り参加!!目的、能力、一切不明!!メル!!』
「……」
……お前仕込みネタだな?全身を黒の上等な外套で覆っている。その呼び名の通りアンノウンだ。あー、でも立ち方的には女、もしくは線の細い少年?声が聞こえればなあ。
「エナは誰が勝つと思う?」
「順当に予想するなら女騎士。メタ読みならマント」
「その心は」
「女騎士が一番立ち方に隙が無い。騎士団長は脚、組合長は腕にガタがきてる。マントは訓練こそ積んでいるけど実戦経験が無さそう……魔法職の可能性もあるかな。メタ的にはああいうのが勝ったりするかも?」
「おーん……確かに、団長さんは右膝が特にヤバそうだな。じゃあ女騎士さんに賭けるか」
「賭け……ああ、優勝予想か。私も女騎士かな」
目の前に投票用のウィンドウが現れる。あ、ボタン押すだけでいいんだ。楽ちんだね。しばらく周囲はざわめいている。投票相談の声もチラホラと漏れ聞こえてきた。……プライベート設定の存在、意外と知られていないのかも。
それから数分して。
『よーしアンタら、投票はもう終わったかな?』
そこかしこから再び割れんばかりの歓声。コール&レスポンスはバッチリみたいだ。せっかくなので、私たちもノッてみる。
「イェーイ」
「ヒューヒュー」
「……あー、俺たち、ノリ方が下手な可能性があるな」
「むしろかなり高いと思う。そもそもプライベート設定だから声は届かないし」
うん、やめとこう。MC、えーと。クランだ。クランの方、つまりスタジアムへ視線を向ける。
『始まるぜ、エキシビション・バトル!!!まばたき厳禁でよろしく、オーケィ!?!?!?』
さあ、まずは第1試合だ。