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新作VRMMOでキャラクターランダム生成したら初期種族:影になった件  作者: 緑茶
二章【乾坤へ至るもの】

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78.【死穢の扶桑樹】

 給仕は箸やレンゲ、皿といったような食器と白磁の急須に少し湯を差してそのまま待機する。


 アルマが食器を手に取って、急須から茶を流して食器をすすいだ。私の分も。……作法については何も知らないので、黙ってそれを眺めておく。


 急須が空になったところで、給仕はもう一度、今度はたっぷりと急須に湯を差した。そして退室。


「まあ、取り敢えず。今の俺の身分だと、あんま派手に動けない。深く踏み込まれると困りますって示さなきゃとは言え、さっきの態度はちょっとな。悪かった」

「ああ、それは別に。目的があるなら怒ることじゃないだろうから」

「……ありがとう。じゃあまずは、【死穢の扶桑樹】である俺が瑞穂国の商会_屋号は【織屋】っていうんだが、そこの幹部になった経緯、それからここに来た目的について喋らせてもらうか」


 アルマはそう言うと、にこ、と人好きのする笑みを浮かべた。


――――――――――――


 エナはよく知ってると思うけど、俺の初期種族は【ブライオ】。平たく言えば苔だ。必死こいて光合成してはエネルギーを蓄えて、少しの余裕ができたら胞子をばら撒く。うまいこと根付けば経験を稼げる、レベルが上がったら進化する……そんな感じだった。人類にも魔物にも当てはまらない、異常に弱い存在。


 だがある時、俺がただの弱者からひっくり返る瞬間が来たんだ。


 この世界の“俺”が根付いた場所が、【鬼ヶ島】にある【扶桑樹】の上だって知る瞬間が。


 俺はその頃、つる植物だった。それまでは周囲に取り付いたり地面に大きく這って広がったりして、島の表面のほぼ全域を覆うくらいまでいってたんだが、その頃には地面の深くに根を差し込むことも始めてた。


 深く深く押し入ったら、辺りには太い根があることが分かった。試しに一つ取り付いて乗っ取ってみたら、それが【扶桑樹】の根の末端も末端だったんだ。気になってその根を辿ってみると、途中で俺のもとへ戻ってきた。だから俺の足元が扶桑樹だって分かったってわけだな。


 その頃の俺が持っていたのは、何種類もの毒と、取り付いた相手を逃さないための棘。それから、周囲の植物を支配する力。つる植物っていうのは、他に取り付いて生きる性質を持ってて、取り付く相手がいなくなれば死ぬ。そうだろ?


 だけど俺は大きくなりすぎた。適当な木に全身で取り付いたらすぐ圧し折っちまう。だから、辺りにある生物に見境なく取り付くことにしたんだ。


 結果。俺よりも弱い相手には取り付けて、そいつが死ぬまでその部分は生きながらえた。俺よりも強い相手には千切られて、そこだけ死んだ。ただこれは、当然だけど、効率がそこまで良いわけじゃなかったんだよな。


 そう、それで、扶桑樹の乗っ取りを企てたんだ。それに、単純に興味があった。固有の名前を持つ樹なんて初めて知ったからな。だって当時、俺は扶桑樹が始祖級であることなんて知らなかったんだから。ネットを使って調べることは、まだあんまやってなかったんだ。


 そんなわけで、幾つか株分けした“俺”のうち、一つを扶桑樹の内部へけしかけた。


 ああそうそう、【株分け】っていうスキルがあるんだよ。それを使うと自分が複製できるんだ。だけどその複製は、複製元と根を共有してないっていう特徴があって。まあ簡単に言うと、キャラクターを一つ増やせるんだ。俺と同じようにスキルを使って、俺と同じように死んでも復活する、本体とは違う行動を行えるキャラクターを。


 とは言えデメリットもある。当然、同時に存在する“俺”が増えるたびに複製元も複製も弱くなるし、そもそも複製は複製で別に動かそうとするなら、複数のキャラクターを同時に動かす必要があるから。


 で、その俺の複製をけしかけたは良いんだが、一瞬で死んだ。そりゃあな。驚いたのは、その複製が復活しなかったことだ。死んだ瞬間に、その複製と俺のあらゆる一切が断ち切られた。文字通り、ロストしたわけだな。


 致し方無い、扶桑樹の攻略だけに執着してると俺がキャラロストしかねん。一旦複製に任せて、俺自身はもっと別のアプローチをしよう、と。


 ってなわけで、俺は島を出ることにした。扶桑樹を乗っ取ろうと色々試行錯誤してたおかげで、この島には少ないながら現地人?がいることも分かってた。その上【変形】スキル_これは入り組んだ岩場に取り付いたりするときに使ってたんだが_が進化して【変身】になったから、こりゃ丁度よく人間になれるなと思って。


 扶桑樹の攻略を俺の複製に任せてる間、俺は【変身】のレベルを上げてより普通の人間らしい見た目にしたり、現地人、まあ鬼人族だな。彼らと交流して近くの島まで船に乗せてもらえるように頼んだり、渡航先で職に就けるよう口を利いてもらったり……ああそれから、エナみたいに眷属を従えたりもしたな。今度紹介するよ。


 そんで船を出してもらって辿り着いた先が、瑞穂国の一番デカい街である【参番街】だった。そこはずいぶん商売が盛んで、この辺じゃ四安の次に栄えてるんじゃねえかな?そんなくらいの街だ。


 そこで俺は、隠れ蓑を探すことにした。わけの分からない根無し草として排除されるのは困る。万が一扶桑樹がキレて鬼ヶ島にいる“俺”が一掃されても、ここにいる“俺”は無事じゃなきゃいけない。その為に、何かあっても素知らぬ顔をして守られていられる社会的信用が欲しかったわけだ。


 ここで、鬼人族に口を利いてもらったのがグッと利いてくるんだよ。鬼人族は排他的なところがある。商売するだけから別に構いやしねえが、そいつらが信用してる人間を紹介するって言うことには、当然そういう重みがある。俺はありがたく鬼人族の紹介状を使わせてもらって、参番街イチの大商会「織屋」に勤められることになったわけだ。


 それからは、まあ、色々。


 住人(NPC)の商会だから、住人の商売人へのルートは当然ある。だけど旅人プレイヤーとの遣り取りには橋渡し役が居ないってんで頓挫してたから、そこに俺が入って上手いことまとめたり。


 そうこうしてる間に扶桑樹を乗っ取った。……結局、何千体は死んだんじゃねえかな、俺。無闇に複製しないで、少数精鋭で挑んで死んだら補充、を繰り返してたから、弱体化はそんなしなかったけど。


 ただ、なんで【死穢】なんてものになったのかは、正直よくわからないんだよな。多分、殺し過ぎたし死に過ぎたからだとは思うんだけど。先代……元の【扶桑樹】曰く、生死の根源へより近付いた存在だとか何とか言ってたが、やっぱり正直よくわかんねえ。


 そんで、今度はこっちの俺も幹部に上り詰めた。具体的な管轄は、さっきみたいに旅人との取引についてだな。


 で、じゃあ今度は四安の商会と色々話をつけたいってことになって。俺が手を挙げてここに来た、って流れだ。


 ……さっき、エレベーターを上がるとき。ついてきてた奴らが居ただろ?アレは俺が居候してるある名士の部下で、お前は警戒されてたんだよ。


 何への警戒だって?そりゃあ俺の暗殺、情報漏洩、ハニートラップ、その他諸々。お帰りいただいたけどな。どうやったか、については、まあ……秘密ってことにしといてくれ。


――――――――――――


 まあこんな感じだな、とアルマが言う。何度か茶を注ぎながら話し込んでいたから、急須の中身は既に空になっていた。


 ……なるほどね。変に親密なことを示せば、何かを勘繰られることは間違い無い……。始祖級とか、そのレベルの機密を漏らすわけにはいかないからか。「ただ久しぶりに会っただけの相手」として、周囲に処理される必要があった。


 ……なんだか頭が痛い気がする。


「……何から突っ込めば良いのやら」

『しれっと!しれっと何千体死んでましたよね!』

「まあまあそのへんは。エナもそんなもんじゃねえのって思ってるけど?」


 アルマは苦笑して、また給仕を呼ぶ。今度の給仕はワゴンを押して入ってきて、幾つかの皿や蒸籠を置き、急須に湯を差して帰っていった。


 蒸籠を開けると蒸し立ての包子が出てくる。熱いそれを割って、一口かじった。豚肉だ。


「じゃ、次はエナだな」


 よろしく、と言って、私の顔を興味深そうに覗き込んでくるアルマ。その少し下世話さすら感じる視線を浴びながら、私はのろのろと口を開いたのだった。

アルマ「このままじゃキャラロスまっしぐらだな……」

扶桑樹「しめしめ」

アルマ「別に良いや(パワープレイ)」

扶桑樹「(敗北)」

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― 新着の感想 ―
それはまぁいっかで済ませていいことなの……???
アルマも色々大変だったんだぁ〜 コピーの別行動いいなぁ〜 エナ「ま、負けないんだからね!」
後書きの 扶桑樹「しめしめ」が「しぬしぬ」に空見した。
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