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新作VRMMOでキャラクターランダム生成したら初期種族:影になった件  作者: 緑茶
二章【乾坤へ至るもの】

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77.友の友もまた友

 はあ、と深々とため息を吐くアルマ。その背はぐにゃりと脱力し曲がっていて、先ほどまでの剣呑な雰囲気は何処かへ霧散してしまっていた。


「本当、悪い……」

「……こっちとしても、まるで事情が分からないものだからなんとも言えないんだけど。取り敢えず、あー、連れの紹介からさせてもらって良い?」


 アルマは力無く頷く。赤と金を基調とした豪奢な部屋で、彼だけが小さくしぼんでしまったようだ。


 私はお構いなく剣を腰から外して掲げる。テーブルにぶつけて傷をつけないように、そっと。


「えーと、あー……この子は“ブルーム”。【混沌】種の“ミニ・カオス・スピリット”って種族でプレイヤー、私の眷属」

『よろしくおねがいします!』

「混沌ねえ……なるほどな……。でも、剣?」

「あのー……【憑依】ってスキルがあってね、それを使わせてるんだけど、と言うかこのままじゃ私を挟んで会話することになるよね」


 さてどうしたもんか、と首をひねる。ここからの会話はすべてオフレコでなくてはならないために、アルマにブルームを信用してもらう必要がある。どこかしらに預けるにしても、この流れではおいそれと席を立つこともできないし、そもそもこの状況でブルームを単独行動させるのもまずい。


「あー、じゃあ俺がその……ブルームさん?とフレンド登録するのはどうだ?そっからフレンドチャットで」

「確かに、それが一番手っ取り早いかな。ブルーム、今私と対面している人物は感じられる?」

『はい!……でも人じゃなさそうです!』


 高らかにそう言うブルーム。思わず吹き出してしまうが、何も聞こえていないアルマは不思議そうに目を眇めた。


「……こほん、よろしい。彼はアルマと言って、私の友人だよ。そしてプレイヤーだ」

『ふむふむ。アルマさんですね』

「よろしくな」

「ただ、ブルームの声はアルマに聞こえてない。アルマの言葉もブルームにはわからない。そうだね?」

『はい。人の声みたいなのは聞こえますけど、言葉は分かりません』

「あー、前までの俺らとあんま変わんない感じ?」


 アルマはげんなりしたように言う。あの感覚に極めて乏しい状況に、ブルームも置かれているのかと思うと同情せざるを得ないのだろう。


「そこでだ。私を挟まないスムーズな遣り取りのために、アルマとフレンド登録を結んでもらいたい。フレンドチャットを利用して、円滑なコミュニケーションを取ろうというわけ」

『なるほど』

「だから、今から……そうだな、アルマが登録申請を送るんでいいよね?」

『私は大丈夫です!』

「俺は良いよ」


 じゃあよろしく、としばらく待つ。アルマは数秒何らかの操作をした後、剣を少し眺めた。


「……よし、登録は済んだ。ボイスチャット開くぞ」


『グループボイスチャットがリクエストされました』


 あーあー、とブルームの声が聞こえる。大丈夫ですかー、と言う気の抜けた声に、アルマが大丈夫だと返事をした。


『聞こえます!よかった、よろしくお願いしますね』

「じゃあブルームさん、こっから言うこと全部オフレコで頼む」

『えっ』

「……アルマと私は大体似たような身分と言うか……多分そうだよね?」

「そうか、そこのすり合わせからだな」


 でもその前に小休憩にしようぜ、とアルマが言う。そう言えばこんな物々しい料理店……なのかな?に連れられておきながら何も口にしていない。空腹度も丁度よく悲鳴を上げかけている。


 机の上にある小さな鈴をちりん、と鳴らすと、上がってきたエレベーターとは反対にある隠し扉から給仕が出てきた。ちょっとビビった。


「何か食べたいものでもあるか?無ければ俺が適当に見繕うけど」

「アルマのおすすめで良いよ」

「うへえ、責任重大」

『ご飯ですか?』


 ブルームには【念話】で、そんなとこだよ、と伝えておく。アルマは給仕が差し出した紙に幾つか書きつけて給仕に返した。給仕はすっと腰を折ると、先ほどの隠し扉へ下がる。


 完全に扉が閉じるのを待って、私は口を開いた。


「……そもそも、此処は何なの?私や君の身分を喋っても大丈夫な場所?」

「内緒話には向いてるな」

『……?何処なんですか、ここ?』

「【富春楼】。良くある高級街の茶館……だが、同時に密談にもよく使われる」

「密談て」


 急に物騒なワードが飛び出してきたね?


「必要なんだよ。一階は見ただろ?広間にテーブルが沢山並んでいて、給仕はそこかしこで待機している。普通の茶館だ。でもこの部屋は違う」

「隠し扉、呼ばないと来ない給仕、エレベーターを囲む階段……」

「あ、そこまで気付くか。まあそんな訳で、此処は“そういう”目的での人間の御用達なんだよ」

『……?でもそういう、なんか……“秘密の作戦会議”みたいなことしたい人向けなのに、高級街にあるんですか?』


 アルマが少し吹き出す。秘密の作戦会議、というワードがツボに入ったらしい。


「秘密の作戦会議……くく、そうだな。そういう事はむしろ、高級街の奴の方がやりたいんだよ。別にそんなあくどい目的でもない」

「……その心は?」

「知ってるか?この【華】と、それから海を渡った先にある【瑞穂国】は商人の力が強い国なんだ。まあこの世界の海運がこの辺に集中してるからだとか、そもそも人類種と魔物種の混ざり合う地域だからだとか、理由は色々あるんだが」

『あ!商談とかしたいんですかね!』

「なるほど?独占販売したい新商品を悟らせないためにとか、派閥内で値段の協定をしたりだとか、そういうときにここは都合がいいな」

「んで、まあ。なんで俺がそんな場所を知ってるのかって話だが」


 アルマはそこでふー、と大きく息を吐く。


 コンコン、と隠し扉の向こうから軽い音が響いた。アルマがチリンと小さな鈴を鳴らす。


「ちょっとな、今。【瑞穂国】で商会幹部をやってて」


 はあ、と口から間の抜けた声が出たような気がする。給仕はそんな私を気にもせず、黙々とテーブルに大きな急須と2つの湯呑みを並べた。

給仕は当然、“そういうの”に慣れたプロ。

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