74.人並みに
【龍生九子】の楽しいギルド登録……回。
「……並んでるなあ」
『だいたいそういうものですよね〜』
大路を軽く行くと、確かに大きな建物……ギルド本部が三つ建てられていた。冒険者ギルド、商業ギルド、生産ギルドだ。取り敢えず冒険者ギルドに入ってみると、ギルド登録と正式な通行証を求める人々でごった返していた。
「これ、通行証が欲しいだけなら商業か生産でもいいや、みたいなことあるかな?」
でもそっちのギルドはそっちで、店舗とか製作品の証明をしないといけなかったりしそうだ。一番手軽だし、プレイヤーの内訳は戦闘職が大部分を占めているだろうから、やはり冒険者ギルドに人が集まる結果となる……のかもしれない。
そう言えば、この冒険者ギルドはプレイヤーによるギルドとは何か違うのだろうか?その辺も含めて後で調べておこう。
……本当に人が多いな。笠は外しておこう。誰かの視界を遮ってしまうかもしれないし。これだけ人_人以外の見た目の方も多いが便宜上こう呼ぶ_が多ければ、悪目立ちすることもないだろうし。
「意外と人類種以外も居る……」
以前【ファスティア】に行った時は、基本的に「どう見ても普通に人類」な見た目の人しか居なかった。せいぜい耳がとんがってたくらいで、多分あれはエルフなのでやっぱり人類種だろう。
だが【四安】はどうだ?獣耳としっぽを揺らす冒険者だけではなく、水棲人類のようなぬめった鱗を持つ役員に、人語を解する虎なんてのも居る。虎……四足歩行でも認められるのか、市民権(?)……。
これは【四安】だけの特色なのか、それともこの辺り一帯がそうなのか。出入りする人の多さからしておそらく後者だろうけど、だとすればこの辺りは魔物と人が交わる場所になっているのか。
じゃあ私、もしかして【影禍】のままでも……いや無理だ。【日光耐性脆弱】がある。夜だけ行動すれば良いやと思うかもしれないが、そもそも日中を凌ぎながらここまで辿り着ける気がしない。死体キャラは見当たらないのも、多分同じ理由だろう。
「次の方」
……あ、私だ。しまった、ぼんやりしていた。空いた窓口に気持ち早歩きで向かう。すみません。窓口の係員は特に何の感情もなく私に応対した。
「新規の冒険者登録でお間違い無いですか?」
「はい」
「では仮通行証をお見せください。……はい、承りました。こちらは回収させていただきます。それではこちらの水晶に手をかざしてください」
「……これは?」
「看破の水晶、と呼ばれるものです。各都市の各ギルドで重犯罪を犯したものは、目に見えない烙印を押された後に資格剥奪となるのですが、それが無いことを証明するためのものです」
「なるほど」
言われた通りに手をかざす。水晶は何の反応も寄越さなかった。
犯罪者を裁く権利を与えられているということは、ギルドという共同体は相応の地位があるのだろう。……と言うより、その特権たちを与えられているのは、冒険者や行商人といった根無し草たち、そして社会的地位を持たない異界の旅人の後ろ盾と処分を任せられる唯一のポジションであるが故になのかもしれない。
「ではこちらに名前をお書きください」
「……種族や所属は?」
「いかなる地域のいかなるギルドであっても、少なくともギルド内でそれらの提示を求められることはございません。また、ギルド内における種族や所属ギルドによる不当な差別は厳罰に処されます」
ふむ。ギルド内は治外法権であると。例えばもしとんでもない魔物種族差別が容認されているような都市があったとして、大通りで魔物種族を斬り殺すことが許されているような究極の法が布かれていても、ギルド内では魔物種族への差別を口にしただけで処罰される……みたいな認識で良いのかな。
「……ふむ。“エナ”様ですね。承りました。ギルドカードの発行窓口はあちらになります。名前をお呼びしますので、お待ち下さい」
「ありがとうございます」
係員に示された方を見る。……あっちも並んでるな。こりゃ相当だぞ。
『登録どうなりました!?』
『次に……ギルドカードってものを発行してもらうらしい』
『出来上がったら見せてくださいね!私、登録できないので……』
ギルドの登録要件は、自分で自分の名前を示すことができること。ペンが持てなくても声を伝えられれば代筆を頼めるが、ブルームは【念話】などのそれを可能にするスキルすらも持っていない。
『まあ、持ってない方が都合がいいこともあるよ。多分』
『そもそも持っててもなくても変わらないと言うか、なんと言いますか……』
ぼんやりと待っていると、にわかにギルドの入口のほうが騒がしくなってくる。
「なんだ?」
『どうしました?』
『ああいや、入口が騒がしくて』
『え!?なんですか、教えてください!』
野次馬根性が働いて、耳を澄ました。
「……あんた、……屋の」
「悪い、質は問わないから……」
「……緊急依頼か?」
「一つ二つで良い、報酬も弾む……」
「ふむ……ここの連中がそんなモンを持ってるとは……」
近づくにつれて喧騒の中心がクリアになっていく。しかし何らかの揉め事というわけではなく、どうやら何か緊急性の高い案件が急にやってきたらしい。
外にいた人や別のことをしていた人たちも野次馬に参加してきて、人がどんどん増えてきた。迫ってくる人波をすり抜けていく。何とか踏みとどまるが、だんだん波だったものが塊になっていくようで、少しずつ身動きが取れなくなってきた。ここのギルド、もう少し人口密度を考えるべきじゃないのか。ただでさえ大通りに面してるのに。
人の足を踏まないようほどほどに、しかし人の群れをかき分けていくと、背の高い青年の丸い頭頂部が見えた。青いゆったりとした着物も見える。声もはっきりと聞こえる。
「……あれ、アルマ?」
私のつぶやいた声に引かれるように、青年がこちらへ振り向いた。おぼろげながら、見覚えのある顔。
2つの目が私と合う。ぞっとするような碧い色だった。
長らくお待たせしてすみませんでした。結局十話かかってしまった…………




