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70.旅は道連れ世は情け

 一人、ぼんやりと考えていた。


「ん〜……私がここでやるべきことは、あんまりないってことかなあ……じゃあそろそろ山を降りるか?」


 桃を丸ごとかじりながら。


「……う、これはちょっとまだ硬かったか……」


 やや黄色く、甘みに乏しい。そして少し硬い。もう少し待てばよかったか、ちょっと気が逸ったな。


「洞天産の桃って、なんか効果とかあったりするのかなあ」


 そう。これ、私の洞天……つまり、【混沌なる穢那の領域】産の桃である。いやあ、流石にあらゆる場所が「どこでもドア」な状態には慣れてきたとは言え、流石にびっくりしたよ。扉を開けたら即桃園とは。


「……あ、【鑑定】すれば良いのか」


 流石に我が家の庭(?)で発生した桃に毒があるようなことはないだろうけれど。見ておくに越したことは無い……のかもしれない。


――――――――――――

【仙人桃】

 仙人の洞天に成った桃の実。その由来ゆえか、穢多くもあり、清浄でもある。

 食べると一定時間体力を回復し続ける。最大体力以上には回復しない。

 種には高い薬効がある。

――――――――――――


「……ちょっと多めに持ってくか」


 まさかの傷薬要員。もしかしたら、すり潰して塗り薬にしたり、煎じて飲み薬にしたりすれば即効性を持たせたりなんかもできるかも……?何なら、種がもっと高い効果を持つかもしれない。


 あとシンプルに美味しい。しかもほっとけば勝手に実が成ってる。実質的に、体力回復手段の無限化に成功したわけだ。


「じゃあちょっと、瑾瑜たちのところに戻ろう」


 ステータスウィンドウから、【穢れた咎の領域】を選択し、転移。まばたきをした次の瞬間には、再びあのボロボロの屋敷へと戻ってきていた。


『お帰りなさいませ、我が君』

『良かったアンタ!……その頭のは後でいいわ、ちょうどいいところに!』

「ただいま。何事?」


 ボス部屋に転移するようになってるのか。だだっ広いだけの部屋にやってくると、瑾瑜たちが何か慌てたように私の元へやってきた。


『変な奴がいるのよ。アンタが生み出したわけでもないし、かと言って餓鬼でもないやつが』

『恐らくは……魂なのですが。どこか我が君のような気配がしておりまして、処分に困っていたのです』

「……うん、玉帛は『処分』とか言うのをやめよう」


 私のような気配がする魂、ねえ。


「それはどこにいるの?」

『……隣の小部屋にございます。あれは彼処からじっと動きません』

「動かない、私の手で生み出したものでもなければ餓鬼でもないもの、ねえ……」

『確かに玉帛の言う通り、何となくアンタに似てるのよね。アンタとは到底釣り合わないけど』


 取り敢えず瑾瑜にボス部屋を守らせ、玉帛の案内に従って隣の小部屋に行く。……と言うか、ずいぶんとまた懐かしい場所だな。私の初期スポーンじゃん。


『あれにございます』

「……あー。居るねえ」


 確かに部屋のど真ん中には、時折もぞもぞと動く、謎の魂がいた。


 ……いやこれが本当に謎で。ミニ・ダーク・スピリットとか、ダーク・スピリットであればもっと真っ黒なはずなのに、それはなんと言うか、薄ぼんやりと光っている。


 かと言って、じゃあ普通の魂なのかと言うと、玉帛に聞く限り違うという。それと同じく、聖なる力とかその辺も、似ているがまた違うのだという。


「……そもそも、ここから動かないのがおかしいんだよね?」

『通常の意思無き魂であれば、本能……と言うよりも、死者に定められた全ての摂理に従って、生者たる我が君に釣られ動くものでしょう。我が君が生み出したものであれば、それは別の生者を探して漂うでしょう』

「え?普通の魂って意思無いの?瑾瑜とか、ただの魂だった割に自意識強めだったけど」

『あれが?……だとすれば、何らかの特殊個体であった可能性はございますね』


 なるほど。なら、特殊な存在だったから私を乗っ取れた可能性もあるな。まあ、今考えてもどうしようもないことではあるけど。


「うーん……つまり、玉帛の見立てだと……」

『あの魂は、自然に生まれた意思持つ魂であるのやもしれませぬ』

「なら、【念話】が通じるかな。ちょっと試すよ」

『では、玉帛は此処に控えておりまする』


 玉帛が少し後ろに下がり、私の斜め後ろで控える。その存在を確認してから、【念話】で話し掛けた。


『ごきげんよう』

『ハァァァァッシャベッタ!?!?!?!?』


 大絶叫。やや高い声は恐らく女性であろう。でもそういうことしかわからない。


『……ええと?』

『アハアッ失礼しました!ごめんなさい!何用でしょうか!』

『……あー、その。今すぐどうこうって話じゃなくて、私があなたに話しかけた理由なんですけど』

『ハイッ!申し訳ございませんっ!』

『あー、うん、まだ謝らなくても大丈夫』

『ハイ……』

『ここ、まあ、言ってしまえば、私有地みたいな場所で……』


 瞬間。その魂は、もう文字起こしが出来ないレベルの叫びを上げた。


「……ねえ玉帛」

『なんでございましょう』

「【念話】の音量って、どうやって下げられる……?」

『申し訳ございません、我が君。それについて、玉帛めは力に成れませぬ』


 まじかよ。


 頭にはまだ絶叫が響く。なんか、【魔素操作】とかうまいこと使えないかな……。あ、いけた。よかった。改めて、その魂と会話を試みる。気が付けば彼女……彼女?も落ち着いてきたようだった。


『ううう大変申し訳ございません……スポーン3秒で不法侵入とは……』

『いやいや、元々なんか……そういう場所っぽいから気にしないでください』

『そういう場所!?そんなことあります?』

『……自己紹介した方が良いですかね。私はエナ。プレイヤーで、種族は……詳しくは言えない身分です』

『アッすみません!わたしはブルームです!ランダムやったら、えーと、【混沌】の【ミニ・カオス・スピリット】になりました!プレイヤーです!』

『えまじ?』


 ……5パーセントくらい、私のせいじゃない?


『まじです!』

『……ランダムで?』

『ランダムです!あっ、もしかしてエナさんもランダムですか?それで、もしかして【混沌】ですか?』

『……えーと。その【混沌】の、まあ、今んとこ一番上と言いますか』

『エ゙ッ』


 うわあ、ブルームさん出しちゃいけない声出てるが。


『一番上と言っても、そもそも【混沌】陣営自体が生まれたてと言うか』

『……あの、エナさん』

『何でしょう?』

『視界の端にずーっと変な表示があったりしませんか!わたし、わたしの視界の端っこに、ずっと【従属可能な対象が居ます】って表示されてるんです!』

『え』

『こんな、こんなアヴァンギャルドでインモラルな雰囲気のバグなんてあるのかって思って問い合わせたら一瞬で「仕様です」って返ってきて〜……!』


 視界の端に?……なにこれ。


『【支配可能な対象が居ます】?』

『……い、インモラル!アヴァンギャルド!ハレンチ!』

『そんなこと無いでしょうよ……プレイヤーも対象にできるのは、前衛的なシステムだと思いますけども』


 ……どうしたもんかな。


『どうしましょう、エナさん……わたし目も見えないし周りのこともわからなくて、立ち往生してたらエナさんの声がして』

『う〜ん……私としても、ブルームさんをこのまま自由にしておくのは少し懸念があるんですよね』

『え。飼い殺しルートですか……?』

『流石にそれは!禁則事項ですから!』


 なんだと思ってるんだ。


『……せっかくなんですけど、やってみませんか?その……【支配】を』

『?ブルームさんが良いなら。私の方に特にデメリットは無さそうですけど』

『デメリット?……えーと、位置情報が筒抜けになるのと、ステータスとかスキル構成とかを自由に見られたり、ある程度操作されたり……でも、わたしが同意しない限りは出来ないって書いてありますよ!多分大丈夫です!』

『マジの従属契約じゃないですか。どうするんですか、私が権力とかを笠に着て強引に……なんか色々やらせたりしたら』

『大丈夫です!エナさんがそんなことする人だったらそもそも問答無用で支配されるか倒されるかしてたと思います』


 ぐう。


『……否定できない……じゃあ、ブルームさん。まずフレンド登録しましょう。それで、この【支配】はお互いの了解のもとで、検証ついでに行うことです。今後ブルームさんに【支配】関係のお願いをする時は、必ずあなたの了承を取ります』

『……はい!よろしくお願いします!敬語無しで大丈夫ですよ、ご主人様!』

『敬語無しは分かったけど、ご主人様呼びは無しで』

『はい!』


 ……元気な人だな。


『プレイヤー“ブルーム”とフレンドになりました』

『ミニ・カオス・スピリット“ブルーム”が眷属になりました。従者の管理はステータス画面から行うことが出来ます』

Q.瑾瑜と玉帛の時はなんでメッセージが出なかったんですか?

A.「眷属として生み出す」ことと、「すでに生まれている存在を眷属にする」ことでは内部的な処理が異なり、後者の(今回のブルームのような)場合のみメッセージが出る仕様です。

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