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7.友誼を結ぶ

境遇が似てると、すぐにでも親しくなれますよね。

「エナ?このポテト旨いけど食う?」

「じゃあ貰おうかな。……辛ッ!?」

「あ、辛いのだめ!?」


 ごきげんよう、エナです。今回も引き続きイベント中なので、人類アバターで失礼。


 今はイベントの開会式とエキシビションマッチの開幕を待ちつつ、相席している茶髪で初期装備の青年_“アルマ”とフードファイト……もとい屋台飯の情報交換をしている。


「辛いのはかなり駄目……」

「マジか。じゃあこっちは?バター砂糖醤油」

「あ、これはおいしい。罪の味」

「なるほど?俺ちょっと甘じょっぱいの苦手だからもらって」

「じゃあ私のコレはアルマが食べて。結構スパイス効いたカレー味だったから」

「やーりい」


 う〜ん、旨い。これでいくら食べてもアバターに影響しないんだからありがたいことだ。


 しかし、アルマの買ったフードはずいぶん多いな……私が言えた義理じゃないけれど。本当に、まったく、私が言えた義理ではないけれど!


「ところでアルマ」

「おん?」

「なんでこんなに買い込んだの?明後日まで持ちそうだけど」

「ああそれね。俺のガチのアバターに口が無いから。だから今のうちに食っとこうと思って」


 ……あれ。全く同じ理由だった。口が無いから食べ物を食べられない、なら口が生えてるタイミングでたくさん食べたい。そりゃあ買い込むよね。ね。


「……私もない。なんなら五感が全部ない」

「マジ?……なあ、もしかしてランダム?」

「うん。だからここで何か食べるのが初めての食事」

「俺も。てことは、貰った金を使う当てもない?」

「無い。装備スロットも無い」

「俺も。……マジで!?すご、初めての仲間なんだけど」

「え、ねえ……ちょっと聞かれたくない話をしても?」


 そっとアルマに顔を近づける。プライベートってほどじゃないけれど、あんまり聞かれると気まずい話ではあるからね。


「?内緒話なら、プライベート設定があるけど」

「あれ?そんなの……そんなのあるのか。無知晒した」


 やば。


 ええと、プライベート設定……このテーブルの外に声が届かなくなるようにできるらしい。あると嬉しい設定だ。細やかでいいな。ただし運営にはリアルタイムで会話内容を聞かれていると。ふむ、よっぽど公序良俗に反するようなことができないようにということらしい。声が聞こえないって、悪巧みし放題だしね。


 さて、プライベート設定もオンにしたし、気を取り直して。


「……アルマの初期種族、なんだった?」

「…………せーので言おう。どっちもヤバそうだし」


 ……うん、なんか、影なみにヤバそうなものがポロッと出てきそう。だって口も無い種族なんてそういないはずだ。少なくとも_常識的な範囲の動物ではないはず。


 さあ、覚悟を決めて。


「「せーの」」

(シャドウ)

(ブライオ)


 ふうん、コケ。


「苔!?!?!?!?!?!?」

「影!?!?!?!?!?!?」

「苔って……苔ってどうやって生きるの?」

「光合成と水。三回干からびて死んだ。逆に影ってどうやって生きるんだ」

「わからない。でもあらゆる全てに脆弱だった。一回踏み潰されて死んだし、【干渉力低下】がレベル100だったし」

「何もできねえな!?!?キャラクターレベルどう上げるの!?」

「なんか……こう、魔素をうにうに動かして経験を稼いで……」

「まじ……?俺は定期的に体力をコストに胞子を飛ばして、運良くソイツが根付いたらレベルが上がるみたいな」

「ギャンブルが過ぎない?」

「ランダムの時点でギャンブルだから……」


 それはそう。なんか互いにとんでもないネタが出てきたな。良いのかこれ。


「え〜……それで今のエナにはまだ口も何も無いのか」

「アルマもでしょう、コケって。どうやって食事するの」

「今は進化してつる性のシダ植物。胞子は蒔いてる。だからまだ光合成だな」

「え〜……私も進化して、今は魂」

「むしろ魂の方が何食ってるんだよ」

「分からない……でも魔素くらいしか取り込めなさそうだからその辺りかも?」


 よく考えたら、私は自分の種族に関して何も知らない。いやでも、考えたって分からないでしょう。影の食事って何。魂のエネルギー源って何。私は何の魂なの。


 ……これについて考えるのはやめよう。


「なあエナ」

「ん?」

「……今ちょろっと掲示板で調べてみたんだが。影で生まれたやつ、見当たらない」

「え。コケは」

「コケもいない」

「え」

「まあ引いた上で普通に諦めた奴とかは居るだろうけど、多分結構な希少種族だ。下方向に」

「下方向に」


 ……でも言われてみれば、その辺にうじゃうじゃと影やら苔やらのプレイヤーがいたらみんな歩くだけでプレイヤーキラーになってしまうだろうし。スポーン位置も含めて、相当希少な種族であることは間違いないだろう。下方向に。


 ……なんというか、これはもう、俄然やる気が出てきた。というか、進化した段階でもう諦められなくなってしまってはいるが、それがなおのこと強固になったというか。


「……ねえ、アルマ。フレンド交換しない?」

「してないっけ」

「し……あれ?うん、してない。……それで、お互いにだけ情報交換をしよう。どうせ進化先もスタイルも被りようがないだろうけど、モチベのために」

「あー……なるほど。じゃあちょっと待って」


 アルマに制止される。あれ、なんかマズイことでもあったかな。情報交換は嫌とか?……普通嫌か。ごめんなさい。


 一人反省会をしていると、目の前にガラスのカップが差し出された。中には氷と、ブドウ色の液体がなみなみと注がれている。アルマも同じ物を持っていた。


「ほい」

「ん?」

「俺は初めてのフレンドだし。エナも多分そうだろ?だから雰囲気出そうと思って」

「あー、ええと、つまり」


 アルマがグラスを高く上げる。私もそれにならって高く掲げた。アルマが頷く。これであっているらしいが……ああ、そういうこと?


 アルマと目を合わせて、私も軽く頷いた。彼が口を開く。


「俺たちがマトモな進化先へ進めることを祈って!」

「私達がマトモな成長手段を得られることを祈って」


「「乾杯!」」


『プレイヤー“アルマ”とフレンドになりました』

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苔ミーツ影で草なんよ
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