68.駆け出し始祖
「部下ねえ……いや、その話は一理あるけどさ。実際私の部下も瑾瑜一人なのに、そんなことできるの?」
『何言ってんのよ。居ないなら作ればいいじゃない』
「?」
『アンタ始祖でしょ。生みなさいよ』
……!?!?!?
「え、生めるの」
『は?逆に言うけど、生まないでどうすんのよ』
「勝手に発生するもんかと」
『……そういうのもいるっちゃいるけど、普通は始祖が生み出すに決まってるでしょ。私だってそうだもの。アンタに生み出されたの』
「……腹を痛めた記憶は無いけど」
『そんな訳無いでしょ!?!?イカれてるとは思ってたけど……アンタにそこまで常識がないなんて思わなかった』
「じゃあどうして」
『名前を付けたでしょ、私に。ある意味生まれ直したってことよ、混沌種でアンタの眷属の【瑾瑜】って』
あー……なるほどねー。
「それと同じ事をやればいいって?」
『もっと言うなら、今度は存在そのものから創り出すのよ。どういう存在だってアンタが定義して、名前をつけて、眷属にするの』
「ふーん……よく知ってるね」
『……そりゃあ、ずっと憧れてたんだもの。羨ましかったの。名前も、力も……』
「じゃあ、新たな人生……人生?死体生を楽しんで。私はちょっと考えとく」
『冷たいのか優しいのかはっきりしてよ!』
眷属ねえ。どうやって生み出しゃ良いんだ。眷属の生み方でヘルプにあったりは……しないか。流石に。
うーん……そもそもどういう存在が良いのかな。いったん側近から想定してみるか。【影禍】の側近に据えるのなら、基本的に似たような系統の存在が良いよね。なら、【幽影鬼】が丁度いいか。
それから、瑾瑜がちょっと感情的なところがあるから、冷静で包容力がある感じの性格で。常に薄くほほ笑んでいて、考えが読めないような存在だといい。補佐として、瑾瑜の足りないところをうまく補ってくれるだろう。
名前はどうしよう。……瑾瑜の意味は【玉】だったから、似た系統のが良いよな。【幽影鬼】は不定形の存在だから、もっと柔らかいイメージの……布とか?瑾瑜と並ぶほど高貴な布……絹だ。絹……うーん。
「玉帛……とか」
『お呼びになりましたか、我が君』
「うわ!?」
身体の薄く透けた青年が、そこにいた。
『……アンタ、自分で創っといて驚くんじゃないわよ』
「いつの間に……」
『そこでウンウン唸りながらやってたじゃない!だんだん姿が見えてきたから、そろそろかと思ってたのに!そもそも自覚無しなんて!』
「あー、ああうん、玉帛?」
『いかがなさいましたか』
「そこにいるさあ、瑾瑜……私の眷属一号なんだけど」
『不服な呼ばれ方ね』
「あの子の補佐に回ってくれない?そんで、この屋敷を迷宮として運営してほしい」
『……ふむ……』
玉帛は瑾瑜をじっと見る。その目はまるで値踏みしているようで……なんか、もしかして相性悪い?
『……我が君のご意向とあらば。この玉帛、謹んで拝命いたします』
『アンタもアンタで不服そうね』
『まさかそんなことは。我が君に気配こそ似ていますが、その性質は似ても似つかないなどとは。全く』
『……むー!!ねえ、コイツ生意気なんだけど!?チェンジで!』
「ちょ、待っ、むり……」
二人のやりとりを眺めていたら、不意に全身から力が抜けた。そのままドサッと倒れ込んでしまう。
……最近、こういうの多くない?
――――――――――――
『……どう?そろそろ起きられるんじゃない?』
『ああ……我が君、まさかこの玉帛を生み出すためにそのお力を使い果たしてしまわれるとは……』
『この世の終わりみたいな顔するんじゃないの!何千回殺しても這い上がってきたのよ!?』
『……我が君を何千回と……!?』
『そこに引っかかってんじゃないわよ!』
……うるさい。
「んん゛……」
『ああ我が君!』
『黙って!大丈夫?コイツの見立てじゃアンタ、魔素を使い果たしてぶっ倒れたって話なんだもの』
「あー……いや、大丈夫」
なんか、ひんやりしてる……。これ瑾瑜の太ももか。膝枕だ。しっとりひんやり、腐敗しない死体ボディだ。
『大丈夫じゃなさそうだけど』
「ひんやり、きもちいい」
『……大丈夫ね!起きろ!』
ぐえ。瑾瑜にふっ飛ばされた。ええ……こんなに強かったの?
「いたた……別に膝枕の一分や二分……」
『痛いの!角が引っ掛かって!』
「あ、そうなの?ごめん」
魔素を使い果たしたその時に、【偽装】も切れていたらしい。私の頭には角が生え、皮膚には鱗が浮いていた。隠せ隠せ。
『ああ……我が君……』
『うっさい!ちゃっちゃとこのボロっちい餓鬼まみれの屋敷を何とかするわよ!』
「……あー、取り敢えず任せていい感じ?」
『いえ、我が君。一先ずここにいる餓鬼どもを間引いていただく必要があるかと』
「……ほんとにその必要ある?」
『無いわよ。どうせそいつのこだわりでしょ。でもまあ、餓鬼ばっかってのも確かに代わり映えがしなくて困るし……あ、ねえ、ちょっとした魂くらいならもっと簡単に創れない?それと餓鬼を混ぜて配置して、あとは罠とか仕掛けたら体裁は整うでしょ』
……あれ。意外と瑾瑜単体で頭が回ったのかもしれないなあ。確かにスペックは高いのか。貰いたての身体をすぐに使いこなしてたし。
『我が君。名付けをしてこの世に固定する処理をしないのであれば、恐らく負担は殆ど無いかと』
「あー。ちょっと待ってね」
雑兵としての【ミニ・ダーク・スピリット】、それから【ダーク・スピリット】を、適当なエネミーのイメージでぽこぽこ湧かす。
「……なるほど、ちょこっとだるさはあるけどまだまだ出せるね」
『ここは魔素が濃い地です。名のない存在は放っておけば地へ還り、魔素として解けてゆきます故』
『取り敢えず最初だけ揃えておけば、あとは減っても勝手に補充されてくの』
「罠とかは……」
『……それは、ここが迷宮として多くの魔素と魂を喰らい成長してからになるでしょう。ゆくゆくは時空を歪ませ、外よりも中が広いような形にすることも可能になります』
「よく知ってるね」
『“補佐”です故』
「それじゃあ……もし二人がやられたら、どうなるの?」
『暫く時間をおいてから、我が君の力をお借りして蘇ることとなりましょう』
『できるだけ死なないようにはするわ。でもその時はその時、やられて即消滅するようなことはないから安心なさい』
きちんとリスポーンはする、と。
「スキルは?いろいろ返してもらったはずだけど」
『……使えなくなったやつはあるわ。でもアンタとやり合ってたときに使ってた【影魔法】とか【闇魔法】はちゃんと残ってる。種族的に持ってるものなんでしょうね』
『こちらも【幽影鬼】としてある程度は魔法に覚えがございます故』
「なるほど?」
ふむ。とにかく、ここは二人……二人?瑾瑜と玉帛に任せても大丈夫そうだ。相性は……まあ、ビジネスライクならそこまで悪くないんじゃない?
それじゃあ、瑾瑜をボスに設定し、【穢れた咎の領域】を公開に設定。
「じゃあ、あとは宜しく」
『御意に』
『うまくやっとくから、変に気にしたりするんじゃないわよ』
……なにか余計なことを言われた気がする。
なにはともあれ、次は【混沌なる穢那の領域】だ。行こう。




