67.意外な再会
「えーと……まず【穢れた咎の領域】からにしよう」
ステータスから、【穢れた咎の領域】を選択。ここに関しては、取り敢えずさっさと体裁を整えて公開しないといけない事情もある。
「……ここにダンジョンがあるって、バレてるんだよなあ」
つい最近……と言うほどでもないが、かと言ってそれほど前でもないくらいのときに、プレイヤーたちが来たことがある。キルして追い払ったわけだが……。
「……正直、倒さないで潜んでたほうがよかっただろうなあ」
この件に関しては、結構しっかり後悔している。強くなってハイになってたのもあるし、どうせゲームだって思ってたのもある。とにかく【風化鬼】をなんとかする目処が立った矢先のことだったから、他のプレイヤーに勝手に倒されたりしたらまずいと思ったんだよ……。
掲示板、とか言ってたのもあるし、名前だとかがファンタジーらしからぬところもあって、まあプレイヤーだろうと断定して襲いかかったわけだが。実際その推測は間違ってなかったとは言え、一歩間違えたら普通にNPCを殺害してた可能性すらあるわけで。
「……ちょっと、自分勝手にやり過ぎたな」
……本当に、反省。
ちなみに掲示板についてはあとで調べた。がっつり自分の写ったスクショが上げられてたし、ボスだって勘違いされてた。【風化鬼】そのものには気付かずに私をボスだと勘違いしてくれたことはまあおいしいけど、それと同時に私が「このダンジョンのボス」として扱われているのが……かなり厳しい。
「キョンシーなり【影禍】なりをボスにしなきゃいけなくなったからなあ」
取り敢えず、ボスを決定しよう。
えーとなになに?自分の眷属から選択してボスにできる、と……。居たっけ、眷属。
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【眷属一覧】
【混沌】影禍 “瑾瑜” レベル52
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「……えっ居る!?!?居るんだけど!?」
どうすりゃ良いんだこれ。【ボスに指定】……はまだしないから、ええと……あ、あった!【召喚】!
「や、さっきぶり。元気?」
『……なんでそんな、昨日の今日くらいで呼び出せるわけ?』
「いやあ、色々あってさ。しんみりしてる暇があんまりないと言うか」
『何?』
「あのー……手伝ってくれない?ダンジョン」
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『……で、つまり。実質、アンタがはしゃいだ後始末をやらされるわけ』
「それは、まあ。ごめんなさいと言う他ありません」
『……』
はい。瑾瑜にガチ詰めされています。……あれ?私が始祖なんだよね?瑾瑜は眷属だよね?
『強くなって、そんなに楽しくなっちゃって。バカじゃないの?』
「あ。それだけはお前に言われたくないね、そっちだって身体だ力だ名前だ〜って手に入れてあんなに大騒ぎしてたくせに」
『……むぐ』
「はしゃいだって言ったって、あのときのお前と何ら変わりないからね?生まれはそもそも生物ともつかない影で、そこから少なくない時間をかけて這い上がったんだ。いざ自分の野望をかなえるんだって時に、それを妨げようとする存在が出てきたら焦るでしょ」
『……たしかに』
「そこにさ、自分が強くなったんだって自意識があったら、よく考えず実力行使に出ちゃってもおかしくはない……んじゃない?」
『んん……』
「……まあ、やったことは良くなかった……と言うか、ちょっと考え無しが過ぎたとは思ってる」
……しかし反省を重ねても、私の身体はもはやアンデッドでは無い……と。致し方無いので、徘徊型ボスの代役を瑾瑜に頼みたいという話である。
『事情はわかった……けど、そもそも生まれが影って何?アンタ最初からこうじゃなかったの?』
「あー……そこからか」
そういや言ってなかったな、と生まれてからこれまでの事のあらましをざっくりと語る。だんだん瑾瑜が引き始めたのは気にしないことにしよう。お前眷属のくせに生意気だぞ。
『魂未満って。ありえないんだけど……』
「はは、影の身体でも死ぬのは怖いもんだったね。まあ感覚とか無かったし、言うてトラウマってわけじゃないが」
『……やった私が言うのもなんだけど、そんな身の上のくせに、なんであんな躊躇無く死に戻りしてたのよ』
「ん〜……実験が成功してた確信はあったからね。既に私の身体は死体ではなかったから、あとは名前と力を取り戻せば何とでもなるだろうと」
『ええ……』
「死ぬのを躊躇う理由は一つもなかったから。そりゃ最初に死んだ時は流石に焦ったけど、大したペナルティも無くすぐ復活出来るなら、そんなに怖がる必要無いかなって」
『……』
「まあ、実際それが成功してた、って確信も忘れかけてはいたんだけど。そのへんは結果オーライってことで、ね?」
そんなわけでボス役お願い、と瑾瑜に頼み込む。あー渋い顔してるね……そりゃそうだろうけども。
『……まあ、良いけど。私もちょっと、アンタにひどいことしたなって思ってるし。身体と名前についての恩も、まあ、無くはないし』
「ありがとう!それじゃあよろしく!」
『ま、待って待って!タダで引き受けるほどお人好しじゃないんだから!条件付きよ、条件付き!』
条件って。
「何……?一日三食満漢全席とかは無理だよ?」
『私の方が持たないじゃない!そんな訳無いでしょ!』
「じゃあ何」
『部下をつけなさいってこと!』
あー……。一理ある、のか?
「ところでさ」
『何よ』
「瑾瑜って、ずっと【念話】で喋ってたんだね」
『……今更!?』