66.プロテクト
「次の装備……【心間手敏】?ふむふむ」
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【心間手敏】
不可思議な技術で作られた、繊細な魔法や細工を可能とする手袋。心は静かに、手は早く動かす事が出来るだろう。
装備者に魔法の構築速度上昇(中)を付与。
装備者に製作系スキルの成功率上昇(中)を付与。
装備箇所:腕部
備考:破壊不可・譲渡不可
『人為にして自然なるものよ』
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白黒のツートンカラーの指ぬきグローブ。手にぴったりと密着し、よくあるような穴は空いていない。
「魔法の構築速度上昇?」
ふむ……【ダークランス】。
「……確かに?」
なんとなく、ラグが解消されている気がする。これがもっとたくさん魔法を撃つシーンになったら、さらに光るんじゃなかろうか。
こいつは素直で良かった。じゃあ次は靴か。
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【剽疾軽悍】
飄逸に疾駆する、軽快にして悍勇なものへの靴。何処までも踏み込んで加速し、阻むものへ手痛い蹴りをお見舞いするじゃじゃ馬でもあるだろう。
装備者に身体能力上昇(中)を付与。
装備者に格闘攻撃ダメージ上昇(中)を付与。
装備箇所:脚部
備考:破壊不可・譲渡不可
『激情にして泰然なるものよ』
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中華風の装飾が施された、これまた黒い靴。なの、だが……。
「すっごいハイヒール……」
……なんと言うか、手袋以外に素直な装備は無いの?これで足を捻ったりしたら困る……困る、けど……。
「……でも、やたら歩きやすい」
現実で履けば3歩ですっこけかねないほどのヒールである。8cmくらいありそう。一応ショートブーツだから、パンプスよりは歩きやすいのかな。全体的なビジュアルとしては、スエード地で踵側に刺繍が施されていて、ジャケットと同じ黒に赤の縁取り。ヒールは金色をしていて……これ、中身までがっつり金属だね?
でもそこは流石完全没入型VR、姿勢の補正だか何だかが働いているのか、何を気にすることもなく全力ダッシュ可能。
「適当なのを蹴ったらそのまま貫通しそうだな……」
そんな事は起きないだろうが。現実でやったら、の話である。現実だったら踏むだけで釘が打てそう。
まあ性能自体は素直か。
はー……ま、露出云々は抜きにして、悪くない装備たちだね。動きやすいし。強いし。
「次は、【浄穢の剣】と【雙魚の環】か」
武器二つ。一気にいこう。
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【浄穢の剣】
かつて夥しい穢に満ちていた剣。綺麗に浄化された……はずだが、浄化者の気質にあてられたか、清浄さと穢を同時に持ち合わせる混沌とした剣に変化した。
備考:破壊時強化成長
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ほう。これ……【■■の剣】だったよな?また何かクリアして解放されたのかな、前までの【■■■■】みたいに。でも……まあ、いつもの両刃の直剣である。なんかテキストが色々変わってるが、そのへんはいいだろう。今度こそちゃんと戦闘に使ってやるからな。
破壊時強化成長は……折れるほど強くなる、と。結構な壊れじゃない?……あーでも、再生には時間が掛かるし、魔素も使うのか。戦闘中に即再生!は無理だな。
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【雙魚の環】
二輪一組の腕輪。魔素を溜め込んだ意思ある武器であり、魂を喰らって成長する。【封印】状態では腕輪だが、【解放】すると雙魚の姿になる。白は聖浄、黒は侵蝕を司る。実は魔法の杖の亜種である。
備考:破壊時再生・成長・譲渡不可
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ふむ。
問題はこの【雙魚の環】だな。形状そのものは、くり抜きの腕輪である。えも言われぬ艶を帯びていて、継ぎ目は無い。くり抜きだから当然か。ちょっと試しに【解放】してみよう。
「あ、出来た……お?」
エフェクトとともに腕輪がほどけた。何を言っているのかと自分でも思うが、確かにほどけた。そのほどけた腕輪は腕から抜けていき、そして大きく膨らんで……。
「……金魚?」
二匹の金魚の姿になった。ずんぐりとした体に、たなびくヒレ。よく見る姿だ。片方は全身が真っ白で、もう片方は真っ黒。でもどちらも宝石のような赤い目をしている。
サイズはかなりでかい。片方だけで一抱えはありそうなほどだ。試しに白いのを抱きしめてみると、ひんやりしていて確かに一抱えくらいある。
「わ、かわいい」
しばらくそのつるつるした鱗とひんやりした身体を楽しんでいると、黒い方につつかれる。君も撫でてあげたほうがいいかな。そっと手を伸ばすと、黒いのは嬉しそうにすり寄ってきた。見た目は金魚だけど、犬みたいだね。
「……白いのと黒いのじゃあ、締まらないよな……うーん。白いのが“陽”で、黒いのが“陰”で良い?」
二匹は軽くぷるぷると震えて、私の周りをくるくると回る。同意したってことでいいかな。よし。よろしく。
「じゃあ、【封印】」
再び腕輪に戻った。黒は右手に、白は左手に。いやあかわいかった……定期的に【解放】して可愛がるとしよう。エサは……魂を食べるとかなんとかあるけど、まあ、その時はその時ってことで……。
じゃ、装備の確認は終わったかな?
『メッセージが届いています』
「ん?あ、運営からだ。えーと……問い合わせの返事!」
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【お問い合わせしていただいた件について】
平素より【クライシスオンライン】をお楽しみくださり、誠にありがとうございます。
【エナ】様よりお問い合わせいただいた、プレイヤーへの思考領域への干渉について、ご心配とご迷惑をおかけして申し訳ございません。
本ゲームにおける思考領域干渉システムは大槻・モーガン方式を採用し、国際仮想現実法に則り運営されているため、本ゲームはあらゆる場面において仮想再現された思考領域への干渉にとどめられております。
現実における【エナ】様の思考領域・脳波、およびそれに準ずる箇所への干渉は現在確認されておりません。
万が一、体調および思考に異常が発生した場合、速やかにお近くの医療機関を受診ください。
重ね重ねになりますが、ご迷惑とご心配をお掛けして大変申し訳ございません。
今後とも【クライシスオンライン】をよろしくお願いします。
【クライシスオンライン】お客様対応チーム
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ふーん……“大槻・モーガン方式”ってなんだ?調べたら出てくるか。
……ふむ。つまり、ええと?これはどうやら、VRゲームにおいては今のところ【クライシスオンライン】だけに採用されている最新技術らしい。でもそれ以外の教育機関なんかでは、既にメジャーなものなのだという。
脳の思考領域を仮想空間に再現し、そこでゲーム内の思考処理を行う方式。ゲームにログインしている間、私たちの意識はそこに接続されている。
NGワードを強制的に口にしないように設定したり、思考トリガーで魔法を放ったり、私みたいに記憶を直接封じたりする処理は、その投影された……まあ、偽物の脳に対して行うのから、直接自分の脳みそに負荷がかかったりしないようになってるんだと。
つまり、あらゆるアクションを直接脳に行うんじゃなくて、仮想空間上に再現された脳をワンクッション挟むから負荷が少なく安全性が高い……らしい。
「上手いことやるね」
あーでも、プライバシー云々の問題はまだ残っているのか……この運営は「データを常に暗号化し、暗号を変え続ける」という脳筋丸出しAIゴリ押しのパワープレイで安全を担保しているらしいが。
「……へー……開発主導は日本人の大槻有真博士……。開発当時17歳……!?世の中には天才がいるもんだな」
ま、体調に何か異変があるわけでもないし、心配は特にございませんと。それだけ返信しとくか。んで、何かあったときのためにメールを保存しておいて……。
……よし。じゃあいよいよやりますか、ダンジョン運営。……ちょっとやったら人里を探すけど!ちょっとだけ!