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63.千篇一律の非日常

第一章エピローグ。

エナ視点→掲示板→第三者視点です。

「あー……っと……」


 強制ログアウトって。処理にはどうやら現実時間で数時間程度掛かるらしく、しばらくやることがなくなってしまった。


「んー……課題、なんか残ってたっけ……」


 今日は休日だから、と朝からログインした。いやあ今日と明日が休日でよかったよ、薬を作って飲んだらログアウト出来なくなってたとかどんなホラーだ。ほら、もうお天道さまもあんなに高い……高……あれ?


「……まだ、昼……?」


 一応、毎日のリズムを崩さないように朝早くから起きるようにはしている。それで、顔を洗ってご飯を食べて肌着のままログインして……。


「だとすると、どれだけ時間加速してたんだ……?」


 日付は確かに今日のままだ。まる一日以上経ってたとかではない。いや、そうなったらさすがにアラートが鳴るだろうけれど。


 だとすれば……私は僅か数時間の間に薬を完成させ、飲み干し、そして3056回死につつも試練を完了した、ということになる。


 ……それって、良いのか?いや、あるゲームじゃイベントのために2時間で2週間進めることがあったって聞くし、仮想時間加速は法的に規制されていることもないけど。でも……【クライシスオンライン】も確かに普段から時間加速してるけれど、こんなに速くなかったはずだ。ええと、2倍速だっけ?


「……まあ、体に支障は無い、けど……」


 体調は悪くない。と言うか、肉体的にはちょっと活動的な夢を見てただけだから、むしろ良いと言える。


 まあ、ハードウェアが常に身体と脳波の状態をモニタリングして、異常が出たら強制ログアウトされるようにはなってるし。そうなってないなら大丈夫、ってことでしょう。


「んー……ここまで長かった。次にログインする時は、太陽の下を歩けるようになってると良いんだけど」


 最近はずっと【クライシスオンライン】に居座っていたからな……。向こうは半年以上……7ヶ月くらい?経ってるのに、こっちはまだ3ヶ月半程度だとは。恐るべし、仮想時間加速技術。


 4月頭、20歳の誕生日にかこつけて、貯めてたバイト代を差し出しつつ親にねだってデカい最新型のVRベッドを買ったのが遠い過去に思える。いやあ、最新型を選んで良かった。廉価なベッドとかヘッドギア型よりも没入感が段違い。……あのご飯のおいしさも、もしかしてベッドの性能のおかげなのか?


「はー……たった3ヶ月……うん?」


 いや待て。逆に、もう3ヶ月半なの?だって私の誕生日が4月頭で……なのにもう夏休み直前?あれ……?


 ……時間感覚がおかしいのは、ゲーム内でもそうか。太陽を浴びなかったし、人と関わらなかったからな……。


「え、じゃあ連続ログイン制限に引っ掛かるレベルの長時間労働って、ゲーム内時間に直すと……?」


 ……よしとこう。幾ら常時体調をモニタリングされている上に寝てるから肉体への負担はそこまで考えなくていいとしても、自分の悍ましい作業時間なんて考えたくもない。


 と言うか、安全云々ならそもそもあの頭弄るのってアリなの?めちゃくちゃ記憶封じられてた、と言うか引っこ抜かれてたんだけど?


「……問い合わせておくか」


 PCから公式サイトを立ち上げて、問い合わせにメールを送信しておく。まあそんなマズいことは無いだろうけれどね。……流石にそうだよね?


 とは言え、私がこれ以上なにかすることも出来ないわけで。一旦、気にしないでおこう。


「うーん……誕生日にVRカプセルベッドを買ってもらって、それから何となく始めた割には続いたなあ」


 いろいろあった。あんなスタートだった割に結構色んな経験が出来たんじゃないかな。イベントに参加できたし、ユニークキャラクターなんてものにもなれた。


 もちろん失敗もある。


「……PKしちゃったのは……ちょっと調子に乗りすぎた」


 肉体を手に入れて、餓鬼にも全く苦労しなくなったからって、他プレイヤーに突撃はちょっとな。いくら【風化鬼】のことがバレたらこっちが困るって言っても、自分からやりに行く必要がある程だったかと言われると。あそこはもっと慎重に動くべきだった。


「……下手を踏めば、自分がユニークだってバレてたかもしれないのに」


 らしくないミスをした。思い返すと、じわじわと後悔が染みてくる。


「……はぁ。……課題やったら、ちょっと寝よ……」


 机に向かったところで、携帯が鳴った。着信通知だ。


「ん?あ、お母さんか。もしもし?」

尚希なおき、今大丈夫?』

「いいけど、何かあった?」

『いいえ、今年の夏休みはどうするのかだけ聞いておきたくて』

「ん〜……集中講義もあるし……帰れるのは9月になるかも」

『あら。じゃあ予定が出たら教えてちょうだい』

「わかった」

『一人暮らしは慣れた?大丈夫?』

「うん。もう1年経つからね」

『元気そうでよかった。ちゃんと顔出しに来なさいね、お父さんも待ってるから』

「はーい」


 ピロン、と通話が切れる。


「……よし。さっさと終わらせようか」


 そうして、私は改めて机に向かい直すのだった。


――――――――――――


【死穢の扶桑樹】ユニークキャラクターについて調べるスレ31【カドゥケウス】


457名無しの検証者

スレタイがずっと【死穢の扶桑樹】のままなのなんかおもろいな


458名無しの検証者

»457

まあずっと死穢の扶桑樹追ってるし……


459名無しの検証者

»458

追ってる(眺めてる)


460名無しの検証者

»458

追ってる(死んでる)


461カドゥケウス所属

しにそうです


462名無しの検証者

»461

休んでクレメンス……ブラックギルドやんけ……


463カドゥケウス所属

»462

ご心配をおかけしてすみません。休息は適度にとっていますが、如何せんしんちょくg


464カドゥケウス所属

すmせん

げんざいほんbっつないどりまs


465名無しの検証者

また始祖!?また始祖!?


466名無しの検証者

【死穢】の次は【混沌】かあ……


467名無しの検証者

»464

おちつけ


468名無しの検証者

コピペ!

――――――――――――

3658ワールドアナウンス

始祖級キャラクター【龍生九子】が誕生しました。

【無頂山】の一部地域の支配権が【龍生九子】に移行します。今後は変異キャラクターとして【混沌種】キャラクターが世界で発生します。

 世界任務ワールドクエスト【無二の生命を追え】の目標が更新されます。

――――――――――――


469カドゥケウス所属

»678

未探索領域への人員を一部回していただきたいですこのままでは首が回りません助けてください


470カドゥケウス所属

すみません。レス先を間違えました


471名無しの検証者

ヒェッ……


472名無しの検証者

本当に大丈夫?本当に大丈夫?


473名無しの検証者

これさあ……【龍生九子】ってさあ……9体全部見つけて倒さなくちゃってこと、無いよね……?


474名無しの検証者

»473

流石に無いと思う……けど……


475名無しの検証者

逆に、【龍生九子】が始祖級かつ【混沌】ってことは、「元ネタ自体は9体だけど、全部1体にぎゅってしちゃいました!」みたいな解釈かもしれないよ?


476カドゥケウス所属

»475

その可能性は無くもないですねと言うかそうであってほしい切実に


477名無しの検証者

#カドゥケウスは労働環境をなんとかしろ


478カドゥケウス所属

#カドゥケウスは上から下まで無理してる


479名無しの検証者

もうだめだこの検証班……


――――――――――――


 【華】の国、【四安スーアン】のある屋敷にて。


「起きてくだせェ旦那ァ!朝餉が出てますよ!」

「ん゛……」

「旦那!今日は昼から公徳コウトクどのと会議だったっすよね!」

「ぁ゛ー……」

「旦那ァ!あんま近づいちゃいけない人みたいな寝癖になってるっスよ!」

「んぇー……」

「着物が裏表逆っス旦那ァ!」

「……ちっ……」

「旦那ァ!そこは……」


 ゴンッ!


 側頭部から二本の角が生えた年端もいかぬ少年に、旦那と呼ばれた青い着物の青年は、部屋の出口にかかる梁へしたたかにおでこをぶつけていた。


「……痛ぇ」

「もうここに来て1週間っスよ、旦那ァ……。なんで朝起きたら毎回そこにぶつけるんスか……」

「あー……目が覚めた。朝メシ出来てるんだっけ」

「うス」

「悪い、朝には弱くて」

「大丈夫っス。旦那は平気っスか?結構強めにぶつけてたっスけど」

「ん。気にすんな、もう治った」


 青い着物の青年は、面倒くさそうにストレートの茶髪を軽く撫でつけた。それだけで遊び呆けた髪型が治るはずもなく、無骨な指の隙間からぴょんぴょんと髪が飛び出している。


「あー、で、公徳どのか。お前は出るんだっけか?」

「いや。俺は()()()との連絡があるんで」

「ん。悪いな、連絡が欲しいからって、わざわざお前にまで【華】に来てもらって」

「それこそ旦那が気にすることじゃ無ェっス!俺ァ旦那の部下もとい下僕しもべとして、手足以上に働かせてもらうっスよ!」


 その返事を聞くと、青年はゆるりと目を細める。少年と青年は向かい合って朝食をとり始めた。食事をしながらも、2人は会話を続ける。


「しかし旦那、なんでわざわざ旦那が【瑞穂国】から海を渡ってきたんスか?」

「んー。ま、【織屋おりや】の経営に関わってんなら誰でもよかったから、俺が手を挙げたってだけの話だな」

「誰でも?」

「つっても若旦那は外との交渉事がヘッタクソだし、ご隠居は船酔いが酷えしで、実際は俺くらいしかいなかったわけだが」

「……そんなもんスかねェ」

「あとは、な。探してる奴がいるって話はしただろ?多分【華】に居るんだよ」

「あ!旦那の“いいひと”っスね!!!」

「ゴフェッ!!……ゲッホゴホ……」


 汁椀を手にしたまま盛大に噎せて、どこで聞いたんだそんなこと、と声にならない声を発する青年。少年は無邪気に続ける。


「おたえさんっス!」

「若奥様かよ……!」


 ゴホゴホ、と青年は未だに咳が治まらない様子。少年はさらに追い打ちをかけるように、言葉を続けた。


「だってお妙さん、『あれは絶対にいい人が居る顔よ、アルマさんたら隅に置けない人ね』って」

「……晴太はるたァ……」

「なんスか?」

「しばらく小遣い減らすな」

「エッ!?!?そんな殺生なァ!?!?!?」


 少年を恨めしげに睨む青年の目は、底冷えがするほど鮮やかなあお色であった。

これにて、第一章【穢より出ずるもの】閉幕です。


2ヶ月毎日投稿を(主に期末課題という)幾つもの危機に瀕しながらも続けられ、そして第一章完結に漕ぎ着けられたのは、皆様のあたたかいご声援のお陰です!本当にありがとうございました!


活動報告の方に、第一章時点で開示できる設定を出しておきます。作中で出す余地が無く、また今後も出す余地が無さそうな設定とかも置いておきますので、気が向いたら覗いてみてください。


そして、どうか今後とも、評価・ブックマーク・感想・レビューなど、よろしければお願いします!執筆の励みになります。


まだまだ続くエナの冒険とこの物語を、これからもよろしくお願いします!


出す余地がなかった情報の例:主人公の本名は『榎嶋尚希』


章設定できました!ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
ナオキで男とは考えられんよね アキラで女の場合があるんだし まあ、どっちでも変わらずに見るのだがね
この面白い作品がまだ続くようで良かったです! 今後楽しみしています エナは大学に行きながらこんな長時間ゲームできるのすごいなと思いながら読んでおります
いつも楽しく読んでおります。 主人公エナのリアル容姿は黒髪ショートとのことでしたが、ゲーム内での容姿もそうなのでしょうか。また、もう少し詳細な描写も欲しいなと思いました。 記述を見逃していたら申し訳な…
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