54.外丹
……帰ってきたな。ねえ、最後とんでもない爆弾発言無かった?
「……(あの、豪雨のときの旅人の名前が“歳”か……)」
それってさあ、もしかしてさあ、【歳王】のかつての名前とかだったりする?まだあのおじいちゃんが王になる前の、若い頃だったりする?
……まあ、それはおいおい確かめる……確かめられるか?まあそのつもりでいる、として。
「……(問題は【光魔法】と【陽魔法】だよなあ)」
そもそも【陽魔法】はどう読むんだ。ひまほう?ようまほう?取り敢えず、火魔法との混同を避けるために“ようまほう”と読むようにしよう。
えーと、とにかく性能を確認するか。
――――――――――――
【光魔法】レベル1
魔素の光を操作し攻撃する光属性の魔法。一部の攻撃スキルを除き、補助に特化している。
上位魔法の一種。
――――――――――――
あ、めっちゃわかりやすい。これ【闇魔法】の対になる魔法だね。レベル1で使える魔法は……お!【ヒール】だって!
いやあ、【聖浄魔法】の【再生】は、体力が一定より低かったりすると逆に体に負担がかかったりするからなあ。その分回復速度はすごく速いし、欠損なんかも割とすぐ治せたりするけど。
多分だけど、光魔法の【ヒール】は汎用性が高いんだろうな。ふむふむ、重篤になるほど魔素の消費量が跳ね上がるデメリットがあるのか。なら、上手いこと使い分けられたら相当しぶとくなるね。
それから【陽魔法】だ。
――――――――――――
【陽魔法】レベル1
魔素で陽光を操作し攻撃する光属性の魔法。光を操作する精度は自身のレベルとスキルレベルを参照する。
上位魔法の一種。
――――――――――――
あー、これも【影魔法】の対になるやつかあ、レベル1は【陽光操作】……え、【陽光操作】?
えーと、私は今、【日光耐性脆弱】だね?それで、この魔法は陽光……まあ、日光を操るんだよね?
……え、使えなくない?
え〜〜〜〜〜〜〜〜……まあ良いんだけどね。近い内に、というかすぐにでも使えるようになる予定なので。
正直言って、今の私の肉体には不満がある。そりゃあ、進化して物理的実体を手に入れた直後は満たされたような気持ちだったよ。
でも私は【尸体】だ。この身体じゃあ市井に降りて人様に姿を晒すことは出来ないし、そもそも日光に当たることだって出来ない。節々は凝り固まっていて動きづらいし、いざ慣れてみれば不満点だらけである。
でも、私のステータスを見ると、【影禍】にはレベルキャップが設定されてないことが分かる。つまりは、普通にレベル上げをするだけじゃ、もう進化できないということ。
「……(何か一つ、法則を外れて種族を変える方法を取らなくてはならない)」
でも幸いなことに、セオリーを外れて強い種族になるためのヒントが山程ある場所へ生まれ落ちることができた。
覚えてる?
この屋敷には実験施設がある。そこで行われていたのは、薬に頼り長生を目指す【外丹】の研究。
より高次な存在となるための業だ。
「……(ま、使えるものは使いたいよな)」
【外丹】の存在を発見したときは、確かに一旦スルーした。当時はまだそこのメリットが分かってなかったし、そもそも口が無いから試しようも無かったゆえに。
だが今はどうか。……正直、これに手を出した彼の気持ちも、今は分からなくもない。このまま進んだってどん詰まりだと分かっているのなら、全く異なるアプローチでもがいてみたくなるものだ。
正直、気が乗らない部分はある。でも、このまま永遠に屋敷へ引きこもってのボッチプレイを強いられるほうが困る。流石にもう一回黙りこくってボスムーブさせられるのは御免だ。一応、一応ね、あれは不本意だったんだよ。そりゃちょっと楽しんではいたけど。あと、私だっていつかの【ファスティア】みたいな街で買い物とかしてみたい。
それに、技術が生まれるその過程には倫理的問題があったにしろ、【外丹】という成果そのものに罪はない……はず……だよね……?
幸いなことに、ここを根城にしていたあの野郎は無事に……無事に?技術を完成させ、不老長寿なる高次の存在へと至ったことが日記にあった。
……正直、それでも失敗してそのまま死ねば良かったのに、と思わなくもないが。
まあつまり、真似すれば私もそうなれるということ。
とは言え、向こうは人間、こっちは死体。その違いがどんな影響を及ぼすかは定かではないが、まあ何事もやってみないことにはね。
ありがたいことに、具体的なプロセスもきちんと書き残されていた。……正直、なんでこんなことを書き残しているのか疑問だ。いつか足がつくとか、私みたいに真似するやつが現れるとか、考えなかったのか?いくら名前を書いてなくても、時代と身の上から探ることは出来なくもないんだぞ。記録に残すのは仕方ないけど、処分なり回収なりしなよ。
……私が気にすることじゃないな。
というわけで、手順はこうである。
1,丹薬と、魂の器を用意する。
魂の器にあたるものは、大体が剣や玉、鏡などの穢を寄せ付けにくいものが望ましい、らしい。丹薬の作り方は……探すか。探さなきゃいけないのか……。
2,丹薬を飲んで、肉体から魂を剥がす。
このとき肉体が失われてはならない、とのこと。ということは【対消滅】で魂引っこ抜き作戦は使えないので、地道に薬を作ろう。
3,魂を器へ移す。
大体ここで失敗するらしい。……つまり、実験体は妙な薬を飲まされて魂を剥がされた挙句に消滅して死んだと。ちゃんと胸糞悪いな。
4,成功すれば、元の肉体は死に、器が新たな肉体に変化する。
抜け殻になった身体の方は、器にした剣や玉の姿を取るらしい。そしてここが重要で、新たな肉体には病や体質が受け継がれず、健康的なさらの身体が手に入るらしい。
これを利用すれば、私はデメリットスキルを踏み倒しつつ、自分を強化できるのではないかと。そう考えたわけだ。
まあ、もろにそのまま尸解仙だよな。知らない?尸解仙。死んで肉体を脱ぎ捨てることで仙人になるっていう発想なんだけど。
まあ、材料や製法の大半も恐らくここに残されている。あのでっかい薬棚とか、謎の形状をした炉?とか置きっ放しだし……。
それじゃあまずは、薬の作り方を探るとしましょうか。
Friend Chat:Arma
『待っててね、アルマ』
『私も追いつくから』
『えっどういうこと?』
『何だ?またなんかやってるのか?』
『ちょっと!?エナ!?おーいー!?』
「だめだ、通話にも反応しねえ……」
「……まあいいか。エナだし」