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47.病膏肓に入る

第三者視点・続

 ギイ、とひどく嫌な音を立てて、朽ちかけの門が開く。ローレンスは眉をしかめた。門をくぐったとたんに、彼らの頭上に暗雲が垂れ込めた。


 ……ここに住み着くあるもの(彼女)は知らないことだが、ここはダンジョンであり、当然摂理が歪む場である。このダンジョンの場合は空間に歪みが生じ、常に薄暗くなっていたのだが……外に出たことのない彼女が知らないのも無理はないかもしれない。


 兎も角、ローレンスたちはこの薄暗く死臭漂うダンジョンに踏み入ったのだった。


「……暗いな。それにひどい臭いだ」

「死臭、か?……もちもち犬殿、浄化の祈りを頼めるだろうか」

「え、毒霧ですか」

「念の為だ、少しで良い」

「そうだね。もし、もちもち犬の結界を突破するような状態異常が出てきたら、速やかに撤退するとしよう」


 もちもち犬は頷く。そして杖を抱えて両手を組み、小さな声で祈り始めた。そんな彼女をかばうようにローレンスとふぁらんくすがそれぞれ構え、ニコラボと少佐が周囲を警戒する。


「……!接敵!」

「んだありゃ、ゴブリンか?」

「気を抜くな、ふぁらんくす殿!【アイススピア】!む、硬い」

「隙ありー、【鑑定】。あー、【餓鬼】ってやつー。レベ62」

「餓鬼……なればアンデッドか?であれば炎は効くだろう、【ファイアボール】!」


 20程度のレベル差、中層を突き進んできた彼らには取るに足らないものである。レベル差のある相手を倒して、凄まじいスピードで成長していることも追い風になっているだろう。


 何よりも、餓鬼は飛んできた魔法をかわしもせずに受けて怯んだ。それがろくな思考を持っていないことは明白である。


 そして少佐の想定通り、餓鬼はアンデッドゆえに火魔法がよく効いた。燃えて苦しむ痩せこけて腐った体を見て、ローレンスは指揮を出す。


「とにかくダメージを受けないように!相手の動きは単純だ、僕とふぁらんくすはもちもち犬を護衛、少佐とニコラボは火属性で攻撃を!」

「承知した。【ファイアシュート】」

「くらえ【投擲】ー」


 少佐が火属性魔法を放ち、ニコラボは火炎瓶を投擲する。どちらも綺麗に命中し、餓鬼は叫ぶ間もなく消し炭となった。


 やはり、と誰からとも無く頷き合う。


「慎重に進もう。常に退却を意識して、接敵したら狩る。これを死守してくれ」

「……結界、張り終えました。進みましょう」


 彼らは進み始めた。足元には餓鬼の消し炭が積み上がっていく。


――――――――――――


 そうして、餓鬼を屠り進んでいた一行。しかし、その足が止まる時が来た。


「……!?止まって」

「ニコラボ?どうした」

「……いる、なんか……やばいの」


 ニコラボのスキル、【気配察知】。それに、餓鬼ではない別の、餓鬼よりも強大な気配が引っかかったのだ。


「……どこに?」

「うしろ。振り向いたらすぐ距離取って、逃げよう」

「同意。ニコラボ殿の感知は軽視できぬ」

「……分かった。話はあとだ、振り向くぞ」


 ローレンスが音もなく合図を出す。全員がざっと振り向いた。


「……」


 官僚の礼服を身にまとい、腰に剣を差した、人の形をしたものが、そこに居る。


 立ち姿には生気を感じられず、ぼんやりと摺り足で歩いていた。それはじわじわとローレンスたちへ近づいてくる。


 帽子から大きな何も書かれていない札が垂れ下がっているために、薄暗さも手伝って顔は見えない。背丈はあるがやや華奢で、帽子から少しだけ覗く黒の短髪に艶はない。それの性別すらも、判然としなかった。


「……キョンシー?」

「……」

「!逃げる、よ、ローレンス!……【鑑定】!」

「ボサッとすんな!」


 それは何も言わず、何をするでもなく、ただローレンスたちへ歩み寄る。最後っ屁とでもいうように、ニコラボがそれに【鑑定】を放つ。それは彼らへ何か反応を返すように、片手を軽く上げた。


『パーティメンバー【もちもち犬】が死亡しました』


「……は?」

「うそ、もっちー!?」

「ニコラボ殿、鑑定結果は!」

「え、えと、キョンシー!レベル75!」


 突然のパーティメンバーの死に、統率が瓦解しかける。しかしそこはトップ層に次ぐ実力者たちゆえか、少佐の一声で全員が気を引き締めた。


「レベル75か……厳しいね」

「遠隔での攻撃手段を持っている相手だ。やり合うのは避けて逃げるべきだろう」

「了解。ニコラボ、足止め頼むぜ」

「おっけー。【痺れ床】」


 それ……キョンシーは、ぼんやりと摺り足で歩き続けている。見え透いた床の罠は、引っかかれば僥倖、避けて遠回りさせるのが本命であるくらいのものだが、それは気にすることもなくただ踏み潰そうとしてくる。どこか重厚な身なりに反して、大したAIを積んでいないのかもしれない、とローレンスたちは考えた。


 が、しかし。


 それは何を気にすることもなく罠を踏み抜くと、ただ進み続ける。罠は確かに発動したが、それに牙を剥くには至らなかった。


「うそ……」


 彼らは理解する。それは罠を理解していなかったわけでは無いのだと。それが罠と理解して、同時に全く脅威になどならないと理解したが故なのだと。取るに足らないものであったが故なのだと。


 それは生半可な足止めなどかなわない格上なのだと、彼らはやっと理解したのだ。


「……くそ、動きはトロいんだ、逃げるぞ!」

「あ、ああ」

「ニコラボ殿、走ってくれ」

「うそ、うそ……ゴブリンジェネラルもかかる罠だったのにい……」


 憔悴したような顔をして、転がり込むように入ってきた門へすがりつく。重い門を、ふぁらんくすがガタガタと力いっぱい押し引きしている。


「ちくしょう、重てえ!」

「帰ったらちゃんと、攻略依頼を出そう、それから……」

「ふぁらんくす殿、ローレンス殿」

「ああ、鍵がかかっているのかな?少しまずいかもね、ニコラボ、鍵開けを」

「無理だ、開かない。鍵もなく、ふぁらんくす殿が体当たり同然に開けようとしても開かないなら無理だ」


 開かない門、背後に迫るそれ。


 彼らはみな一様に思った。


 逃げられない。

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― 新着の感想 ―
電気信号で動いてないのであれば効くはずないよね
扶桑樹もゾンビみたいになっちゃったし東洋ゾーンのホラー化は止まるところを知らない
なんかここだけ違うジャンルのゲームやってる
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