41.敵を知らずとも己を知れば・1
しばらくスキル考察回です。
ぐー、ぱー。両手を握って、再び開く。ばきばき、と嫌な音がした。
ぐー、ぱー。生白い肌が視界に映る。
……とうとう、脱したようだ。【非実体】から!
「ゔー……!あ゛?(やっ……!あれ?)」
おや?……声が出せない。なんで?言語スキルたちはもう使えるようになってるはずなのに……。私の身体のくせに、まったく思い通りに動かないんだが……。
試しに、腕を伸ばしてみる。関節が固まっていてまともに動きやしない。何とか無理やり、引き剥がすように動かしてみるが……かなり痛いな。激しく凝り固まっている。5時間カンヅメで勉強した時だってこうはならなかったぞ。
あー……【非実体】が【尸体】になってる。黄泉の国を順当に逆走しているな。この身体のボロボロ具合はアレか。死後硬直ってことか。ラジオ体操して解そう。
つまり、私には声帯はあれど死んで強張っているために声が出ないのだと。……それ、使えるって言える?理論上は可能、ってだけ?
まあいいや。
……しかし、意外と使えなくもなかったんだけどな。【非実体】。普通に剥がされてサヨウナラか……。次からは壁を粉砕して通り抜けろってことね。え?違う?
と、なると……流石に自分の身体をもう少し詳しく調べたほうが良い。今までの【非実体】セオリーで動くと痛い目に遭う可能性がある。自動ドアかと思ったらただのガラスで激突した〜……、みたいな……。
気を取り直して。まず特筆すべきは耐性を下げていたデメリットスキル達の現在だ。
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【全属性耐性弱化】レベル5(New)
【物理耐性弱化】レベル5(New)
【魔法耐性弱化】レベル5(New)
【全環境耐性弱化】レベル5(New)
【日光耐性脆弱】レベル10(New)
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何やら新しいものが生えてきていたりもするが、まあ概ね強化だ。多分【脆弱】のワンランク下のデメリットが【弱化】なんだろうな。
【虚弱】【干渉力低下】【感覚鈍麻】は相変わらず。これからは【虚弱】もガンガン下げていけそうだ。
うーん……しかし、私の身体は日光に対し脆弱なのか……。アンデッドだからか?そうか。アンデッドのくせに割と健康体だけどね。ちょうど今、ラジオ体操やってるし。ラジオ体操。やりながらステータスを見ているから。
体を横に曲げる運動〜。1、2、3、4。
上体を倒しつつスキルを確認しま〜す。5、6、7、8。
よいしょ。【尸体】はどんな効果かな?
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【尸体】
あなたは龍脈で動く尸、或いは走る肉である。腐乱していないだけマシと言えるだろうか。
このスキルは状態スキルである。
このスキルにはレベルが存在しない。
効果時間・永続
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あ〜……。この文面から察するに、【腐乱死体】みたいな状態スキルもあるんだろうか。
言われてみれば確かに私の身体はおおむね綺麗だ。どう見ても血が通っているようには思えないし、傍目から見てすぐ死体と分からずとも妙な雰囲気は放っているかも知れないが、綺麗と言って差し支えないと思う。
ただし、やはり死体である。軽く斬り付けてみても血が流れるようなことは無いし、刃に触れても、自分が冷え切っているために冷たさを感じない。関節は死後硬直で凝り固まっていて、筋肉は伸びも縮みもしなかった。
そもそも力が入らない。死んでるからしょうがないけど。肉体そのものはただのマテリアルで、エネルギーを供給しないといけない。でも無い。
まあ、つまり、うん。ものすごく動きにくい。少し身体を伸ばそうとするだけで、全身からゴリゴリバキバキ聞こえる。しかも痛いし。正攻法で動こうとするのは厳しそうだな。
……でも、考えてみてほしい。死んでいるゆえに血流が無くても、身体を動かすためのリソースはまだあるのだ。そして、私はそれをほぼ自在に操る力を持っている。
困った時のマジカル概念、魔素である。
魔素を筋肉や関節に巡らせて動かし続ければ、エネルギー問題は解決するのではないかと。
と言うか、ラジオ体操してた時に、何となく魔素使ってるな〜って感覚があった。死んだ身体を動かすのに魔素は有効らしい。餓鬼を【魔素操作】で吹っ飛ばしたこともあったし、動く魔素そのものに物体を押し出す力があるのは間違いない。
体内の魔素を動かすのに最も適したスキルも持っている。私はこのために今まで頑張ってきたのかもな。
そんなわけで、よっ【内丹】!
じわー、と全身の筋肉や関節に魔素を流し込み、ゆっくりと動かしていく。あ、痛くない!まだなんか……太極拳くらいのスピードでしか動けないけど!でも慣らしていけば普通のスピードで動けそうだ。
……これから毎日ラジオ体操と太極拳?ゲーム内でずいぶん健康的なことをやるんだな。死体のくせに……。