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38.人でなしの怨

 さて、と……再び家探しのターンだな。もうどれだけの数の厄ネタが出てくるか楽しみにしている部分すらある。


 その辺に並べられている悍ましい色の液体が入った瓶やら何やらを片っ端から【鑑定】したいのは山々だが、まずは2階の部屋と同じくうず高く積み上がった竹簡を解読するとしよう。


 ……2階のやつよりさらに封が固い!クソッタレ!……ふう。【念動】で無理やり引っ剥がせるようになったのはありがたい。ご覧の通り多少なら力仕事もできるようになったので、探索効率は上がるはずだ。


 ふむ……うーん、中身はあまり変わりなさそうだな。どうやら、【外丹】の実験記録ばかりが記されているようだ。今の私に必要のあるものたちではないが、覚えておこう。


 ……これも実験結果、これも実験結果……かなり失敗を重ねていたようだな。彼はどうしてそこまで結果にしがみついたのだろう。日記を読む限り、心を入れ替えて努力を重ねるたちには思えないんだが。……まだ【扶桑樹】の素材を諦めてないのか。


 ふむふむ、なるほど……【龍脈】?彼もその存在を知っていたのか……あるいはこの時に知ったのか。へえ、【扶桑樹】は龍脈の溜まり、つまり【龍穴】だな。そこに根を張っているために、生命力に満ち溢れ巨大なのだと。


 ……アルマ、大丈夫か?もし本当に【扶桑樹】を乗っ取るようなら、あいつも私が会ったあの龍、もしくはそれに並ぶような存在に釘を刺されるかもしれない。なんなら今刺されてるかも。


 ん〜……まあ良いか。プレイスタイルは人それぞれ、アルマなら自力で対応するでしょう。無問題無問題。


 さて、竹簡に戻ろう。失敗を重ねているとは言え、彼の実験結果は、完成形に着々と近づいているようだ。


 その完成形はすなわち、【仙人】になること。まあ不老長寿の代表格っていったらそれか。現実での【煉丹術】もそうなることを目指していたわけだし。


 ただ……ここから内容がますます狂気じみてくるんだよな。「動物や魔物ごときではもう実験できない」「適当な死体をさらいたいが村人の目が困る」「殺せば楽だが、人死を出して騒がれたら面倒だ」その他諸々……ちょっと読んでいたくなくて閉じた。私、ただでさえホラーゲームはそこまで得意じゃないんだから……。


 これがホラーゲームだったら、後ろを振り向いた瞬間に凶暴化した実験動物が襲いかかってきたりするよな。……え、やめてほしいんだけど?


 ……【魔素感知】には何も引っかかってない……な。【念動】……剣を鞘から抜いて、構えておく。頼むから、何も出てくれるなよ。本当に!


 意を決して、振り返る。何もいなかった。


「……(……はぁ……)」


 当然だ、ここに何もいないことは確認済みなのだから。勝手に私が怯えていた、それだけで。


 私はこんなに小心者だっただろうか。……感覚を無くした状態で何とか成長してきた身としては、まあ、自分の矮小さは痛いほど分かっているつもりだが。


「……(解読に戻ろう……)」


 さあ、くよくよするのはここまでだ。今するべきなのは日記を解読してヒントを得ること。居もしない怪異に怯えることじゃない。手元の竹簡の封を解いた。やっぱり固い!


 ……屍肉を呼び覚まし、命令する方法。これ、【風化鬼】の話か。まあ彼が本当に【風化鬼】を作り出したかはまだ怪しいけれど。九割九分九厘ってとこで。


 ……うん、やっぱりこいつ、この屋敷の庭に青年が葬られている話は知ってたみたいだな。これでハッキリした。ええと何々、骨だけでも残っているはずだ、上手いこと人払いをして死体を……気分が悪くなる話ばかり書いてある。


 こいつを見て……読んでいると、人はこんなにも人でなしになれるものなのかと思う。生育環境は、まあ、人は少なからず皆劣等感を抱いている部分があると思うし、兄二人が優秀過ぎて反発したくなるところは同情するよ。


 でもこれは、もう、生来の気質と言うやつだ。例えば、恋人に裏切られたからって凶行に走る人間は実際ほとんどいないように、調薬、ひいては【煉丹術】に通じていたからって、従来の劣等感を燃やして異常な実験を繰り返し続けるのは理解できない。


 彼のことが嫌いだ。何度も叱ってくれた親の心を、ついぞ理解しなかった。何度も叱ってくれるような親がいたのに。期待されていた癖に。


 同時に、哀れだとも思う。自分以外にも心があって、そこで生きることに意味があることを知らなかったんだから。


 とまあ、そんな感じで、【風化鬼】を作ったイカレ野郎と【煉丹術】にのめり込んだイカレ野郎は同一人物でしたと。よかったよ、こんな奴らが2人も世に存在していなくて。


 ……【風化鬼】の力は、其れが喰ったものだけで賄われているわけじゃないらしい。むしろ、喰ったものは全体の力のごく一部だ。そもそも村人が居なくなればしばらく食べるものも無くなるわけで、それじゃあエネルギーが賄いきれずただの死体に戻る。


 そこで彼は【龍脈】に干渉し、魔素をそこから吸い上げて力に変える装置を作ったという。それは魔素を溜め込む宝珠が核となった装置で、【風化鬼】にも同じ宝珠の核を埋め込み、同じ呪いをかけることで魔素を共有させる仕組みらしい。


 それが、たぶん、部屋の中心にあるでかい……祭壇?のようなものの正体なのだと思う。


 思う、のだけれど……これ、多分【龍脈】には繋がってないんだよな……。

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― 新着の感想 ―
唯一のフレンドは大丈夫かな? 偶然?2人とも龍脈絡みの案件に。 扶桑樹はゲームでよく出てくる世界樹的なやつかな?
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