37.地上はまだ遠く
問答無用でぶっ殺されてしまった。謎の文字化けスキルはほっとこう。【龍脈活性】は素直に自動回復が強化されたってことでいいのかな。
あ、死んじゃったけど【穢の種】の矢印は……無い?あれ?消えてる。
これは……向こうが格上すぎて、スキルが通じなかったとか、かな……?
「……(……そもそも、本当に死に戻ったんだよな?)」
あのときの私は、かなりの時間をかけて地下まで潜っていったはずだ。浅い場所に【龍脈】なんてものがあるはずもないし、たぶん相当深い場所まで行ったことは間違いない。
そんな場所から一瞬で戻された。明確に死亡した、なんてログは流れていないけど、『代償を払った』なんて文言を見せつけられた。
じゃあ、まあ、死んだのか。うん。
ということはこうなる。
私の【穢の種】は、システム通りに私を殺した_正確にはそうではないが_あの【歳王】へつけられるはずだった。しかし相手はあまりにも格上で、スキルが通じなかった。だが、既に【穢の種】の上書きは実行されていたために、今更【風化鬼】の方に戻ることもなかった。
「……(まあ、そろそろ【風化鬼】も本腰入れてやらなきゃか……)」
この【風化鬼】のいるフィールドはダンジョンで、モンスターが湧き、セーフティスポットに近い魔素の薄い部屋がある。
しかし、その逆に魔素の濃い部屋もあった。立ち並ぶ部屋の中で突然濃くなっている場所は、俗に言うモンスターハウスになっている。なぜかやたらと濃い魔素の根源は、大体私が持っている剣のような呪物であった。呪いに集って餓鬼が来て、餓鬼が集まるから魔素が高くなる……ってことなのかな。
ただ、そのようなモンスターハウス以外にも魔素が濃いエリアがあった。
地下だ。
さっき、地下へ地下へと潜っていく中ですぐに広い空間にぶち当たった。どうやらこの屋敷には大きな地下室があるらしく、そこは異様に魔素が歪んでいる。……【風化鬼】がいた部屋のように。
ただし、何かがいるような気配は感じられなかった。もちろん一瞬通り過ぎただけだから、普通に見逃したということもあり得るのだけれど。
「……(でも行くだけの価値はある。きっと【風化鬼】にもかかわることだから)」
よし、行ってみよう。こういうときの地下室って、大体怪しい実験の痕跡とか残ってるし。そろそろ【風化鬼】のダンジョンも後半戦かな。気を引き締めて行こうか。
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……なんというか、想定通りにボロボロだな。
というわけで、現在地下室である。無理やり地面を貫通してやっと見つけたくらいだから、入口は厳重に隠されているんだろうと思っていたが……まさかわざわざ2階に作っているとは。
あの【煉丹術】に関する日記が仕舞われていた棚の裏に、人間の肩幅程度の縦穴が地下室まで貫通していたのだ。上を少し見上げると、錆びたフックが壁に留めてあったので、ロープや縄梯子なんかを垂らしていたのかもしれない。
私の見立て、というかゲームのお約束通り、地下室は実験施設であった。中心には、普通の人の背丈くらいはありそうな祭壇?がある。濁った水晶のようなものが恭しく中心に飾られているが、ここにいた存在はそんなに信心深いものか?
それから、相変わらず何がしかの薬を作っていたようで、大きな釜や炉などの器具から、丹砂や金に宝石といった材料、甕やら瓶やらの、何かしらの容器まである。あとはカラカラに乾いた草や、これまたカラカラに乾いた……なんだ?なにこれ、【鑑定】。
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【干からびたネズミ】
干からびたネズミ。苦痛に悶えるような表情をしている。
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……なんというか、もしかして実験に使われたネズミなんじゃなかろうか。かわいそうに。手だけでも合わせておこう……。乾いて死ぬその時まで苦痛に悶えているなんて、あまりに……ん?
このネズミ、なんで腐敗していないんだ……?干からびるほど放置されていた割に、状態があまりにもきれいだ。そんなまさか、実験動物を丁寧にミイラにするようなことがあるか?
……まあ、素直に考えるなら、投与された薬が原因だよな。そこにある甕の中身とか調べるか。
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【不変の丹薬の甕】
肉体の変化を捨て、不死に至るための丹薬。しかし失敗作であり、猛毒であるが服用した者の死体は腐らなくなる作用がある。
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う〜ん、知ってた。そりゃそうだよな、ただでさえ隠されていた部屋に入口が隠されていた地下室なんだから、相当踏み込んだ実験の形跡が残ってるのはおかしくないよな。
……日記の“彼”が【風化鬼】を作ったのだとしたら、彼はいつそのような術を完成させたんだろう?
もしかして彼は、何らかの目的でずっとこの屋敷に潜んで実験を繰り返していて、その目的が達した、あるいは準備が済んだから何食わぬ顔で旅人として現れた?日記はその時までのもの?
……なら、ここには。あの青年を元に【風化鬼】を作り上げた、その技術が潜んでいるのではないか。
「……(これは、本腰入れて調べなきゃな)」