29.浄化
ふー、ログイン。もう常日頃からアラームかけてたほうがよさそうだな。家から大学まで近いとは言え、万が一寝坊すれば当然間に合わないわけだし。
さて、ごきげんよう。魂から幽霊にランクアップを果たしたエナです。
「……(相変わらずインベントリは使用不可と。【採集】が使えないのはもしかしてこのせい?)」
すっかり、手が無いから【採集】スキルが使用不可なんじゃないかと思いこんでいたが。もしかして採っても入れる場所が無いから使えないのか?
うーむ。となると、しばらくは【鑑定】のスキルレベルをメインに上げつつ屋敷の探索を続行するか。まだこの部屋も調べきれていないしね。適当に避難場所として転がり込んだだけだし。
というわけで。まずは……なんだ、これ。部屋にいろいろと転がってるものが多すぎるな。ふむ、部屋全体を【鑑定】することはできるのかな?このダンジョンそのものを調べたときみたいに。ちょっとだけ試してみるか。【鑑定】!
――――――――――――
【■■の部屋】
西の離れ二階にある、■■の研究のために作られた部屋。かつては隠し部屋であったが、歳月の末に機構が壊れたようだ。不完全ながら、穢を祓う造りになっている。
――――――――――――
アー……なーんじゃこりゃ。隠し部屋なのはわかったが……これだけじゃ何もわからないな。もうちょい色々調べてみよう。お、なんかデカい瓶とかある。……うん、たぶん瓶じゃないかな。これも鑑定。
――――――――――――
【■■の■瓶】
青龍が大胆にあしらわれた瓶。■■のための■が収められている。
――――――――――――
……なんもわからないな。中身を鑑定しよう。
――――――――――――
【■■】
■■の為に作られた■。粗悪だが完成品。
口にすると状態異常【■■】になる。
常人が口に含むと即死する。
――――――――――――
……だ〜〜〜〜〜からなんにもわからないんだってば全くもう!!!なにがしかの碌でも無いものが入ってるってことしか分からん。どうなってるんだ。
常人が口に含むと即死ってのが特にヤバいな。“飲み込む”じゃなくて“口に含む”だぞ。テキスト読む限り、舐めた時点で死ぬってことでしょ。こわ。
こいつは一旦ほっとこう。
えーと、それから……この細長い何か。やたら真っ直ぐとした造りである以外は何も分からない。さっきの何かわからないものみたいな特級呪物でないことを祈って、鑑定。
――――――――――――
【■■の剣】
両刃の直剣。■■における■■のために拵えられた剣だが、■■は失敗してしまった。今となっては異様に濃い穢が纏わりついた呪物と化している。
――――――――――――
フラグ回収したね。推定呪物からのガチ呪物コンボはダメだって。えー……でも剣かあ。装備出来たらちょっと欲しかったかもなー……。
『浄化に挑戦しますか?』
浄化?なんだそりゃ。……あー、この剣に纏わりついた穢れ?をなんとか引っ剥がせってことかな。ならまあ……やるだけ試してみようか。
『要件確認……【聖浄魔法】なし……【魔素操作】あり……推定難易度:極高。推奨しません』
は?君が『挑戦しますか?』って聞いたくせに今度は『推奨しません』だァ?舐めてんのかおい。やってやろうじゃねえのこの野郎!?完ッ璧にぴっかぴかに浄化してやる、貸せ!
『浄化を開始します』
剣が勝手に動いて、鞘からやや引っかかりつつ刀身が抜ける。そのままこっちにすっ飛んできた。
「……(おっとあぶない)」
まったくキケンなことで。【魂縛】、はダメ?じゃあえっと、【念動】で拘束……っと、これは効いたか。まるでこの世にあるものすべてを憎んでるような挙動じゃないか。キレたナイフみたいな奴だな。
うへえ、刀身がめちゃくちゃ錆びてる。取り敢えず大人しくはなったけど、ちょっとまだカタカタいってるな……もういっちょ【念動】!お、静かになった。
よーしよし、そのままじっとしてろよ。んー?ふふん、そう簡単に抜け出せると思うな。何せ……何せあのクソおふざけ称号のおかげで同時にスキル展開すると上昇補正が入るからな。
で、えーと……【魔素操作】だったっけ?……うっわヤバ。もうカバンの奥底のどうしようもないケーブルが五万倍になったくらいめちゃくちゃになってる。何がって?刀身に纏わりついている魔素が。
「……(確かに骨が折れるな、これ……!)」
あ……そうだ、【魔素感知】もフルにしよう。中の方に潜ってるちょっとしたほころびとか、これならうまく見つけられそうだ。
それから、せっかく非実体とは言え手があるんだし活用することにしよう。こう……手で魔素を細かく操作するイメージで。
ふふ……パズルも、ちまちました作業も、結構好きだし得意なんだよ?覚悟しろよ、【■■の剣】め。綺麗さっぱりお前の身ぐるみ剥いでやる!
――――――キリトリ――――――
『浄化完了。記録・1:57:45』
『高難易度でのクリアにより、獲得経験が増大します』
『一定時間内でのクリアにより、獲得経験が増大します』
『経験が一定に達しました。スキル獲得【聖浄魔法】』
ぜ、ぜえ……はあ……。やってやった、やってやったぞ……。オエッ……。非実体のはずなのに背中とか腰とか節々が痛い気がする……。前かがみでちまちました作業をやってたからかな。
さて、なんか、いろいろ気にはなるが……ひとまず剣を【鑑定】。
――――――――――――
【■■の剣】
両刃の直剣。■■の失敗により纏わりついていた憎悪と穢は、既に祓われた。今はかつての清浄な輝きを取り戻している。
――――――――――――
え、清浄な輝き……?うわっあんなに錆だらけだったのにめっちゃ綺麗になってる!錆って穢扱いなの?あーでもなんか、臭いが血に似てるとかそういう……?
……しかし、解呪したは良いがどう持っていこう。うーん……【念動】の消費する魔素ってそうでもないし、無理やり持っていけるかな?よいしょ、【念動】。
……あー、行けそう。持っていくというか、ふわふわ浮かんでついてきてるみたいだけど。
【■■の剣】が仲間になった!って?やかましいわ。