2.成長しないのは死んでいるということ
鬼畜ゲーの定め。
うーん、うーん、ぐるぐる。
ああどうも、乱数の女神に裏切られまくった末にただの影になった女ことエナです。
うーん、場所が悪いかな?ぐるぐる、ぐるぐる。
【体力自動回復】をまさかのランダムで引いたおかげで、感覚がないまま適当にもがいても疲れないのはありがたいな。
え、今何をしているかって?
【魔素操作】の練習だよ。ろくに使えるスキルがこれと【侵蝕魔法】なんておっかないやつの二つしか無いんだから。
せめてさあ、もっと汎用的な属性魔法とかくれても良かったんだよ?こんなイメージの湧きにくいものを与えられたってスキルレベル上げの方法もわからないのに。
というわけで。しょうがないので、その辺をうごうごと藻搔いて移動……移動できてるのかこれ。今は移動し(ているつもりであり)つつ、【魔素操作】の練習をするため、とにかく魔素なるものの感覚を捕まえようとしている、といったところだ。
何せ今の私は【感覚鈍麻】レベル50とかいうバカみたいなデメリットスキルのせいで目も見えなければ耳も聞こえない。というか五感が完全に全滅している。まあ影には感覚器官なんて無いのでね……。
おかげさまで、視認しなければいけない【鑑定】だとか、口なりそれ以外なりを使って言葉を発しなければいけない言語系スキルだとかも完全に置物。平和なスキル欄に突如ただの文鎮が!
まあそんなわけで。ワンチャン【魔素操作】越しに敵をサーチングする技能とか身につけられないだろうかと祈って、どこかもわからない暗闇を這いずりながら魔素をぐるぐると練っているのである。練るというにはあまりにも粗雑だが、まあしょうがない。
うーん、魔素〜。どこだ〜い。そもそも魔素ってなんだ〜い。五感が死滅しているのになぜか感じるモヤッとしたこれが魔素なのか〜い。うん。このモヤッとを暫定的に魔素としてぐるぐる練ろう。
……何の進捗も無い。いやまあ、なんか、こう、モヤッとした暫定魔素がウニウニ動いているのは薄ぼんやりと感じるので、多分これが魔素でおーけー。だとして周辺に何かあるようなことすら感じられないのはなんなんだろうか。
集まれ魔素〜。どっかいけ魔素〜。
うん、魔素をじんわり動かせてはいると言える。動かせているとは言えるが、如何せん暖簾に腕押しといった感覚が拭えない。これ多分【干渉力低下】も悪さしてるな。
なんというか、深ーいプールに沈んで水を集めたり押しのけたりしているような感覚に近い。これだけでやってることそのものの無意味さがよくわかるだろう。
あ、なんかモヤッとしてる感じからぐにぐにしてる感じになったぞ。多分魔素がちょっとわかりやすくなった。なんでだ?ちょっとステータス確認……。
【干渉力低下】レベル90
【感覚鈍麻】レベル47
あっ下がってる!!!感覚鈍麻と干渉力低下のレベルが下がってるぞ!!!!!嬉しい!!
つまりはなるほどこのおかげか。感覚鈍麻だけでなく、干渉力低下でも私の感覚器官は終わると。まあ干渉力低下ってつまり、自分が世界に干渉できないってことだから……視認したり聞いたりすることも世界への干渉ってカウントなら、そりゃそうなるわな。
デメリットスキル二大巨頭がよ……!!!
【耐性脆弱】系は、まあ、しばらくはデスペナも無いので地道に上げれば良いとして。死にやすいだけならただの死にゲーだったのに、敵の位置も分からなければ自分の攻撃手段もない身にされてしまったばかりに空前絶後の鬼畜ゲーと化してしまったと。
……まあいい。いいだろう。私のレベルが『1/10』ってことは、10レベルまで上げればこの感覚無し耐性無し自衛無しの三重苦を抜け出す一歩を踏み出せるはずで……
その瞬間、感覚鈍麻を持つ私の全身に、妙な違和感が走った。
「……!?」
なんだ、これ。周りが、なんか、変……。プールの水が妙な歪み方をしてる。なんというか、一方向から波がやってきてるような……。
……スキル確認中も、なんとかぐにぐにと魔素を動かしていたからわかる。これ、私以外に魔素を持ったやつがいるんだ。生物か非生物かも分からないけれど。
どうしよう、逃げる?逃げるってどこへ?何がいるかなんて分からない、そもそもここがどこかも分からないのに?
そもそも向こうが私のように魔素を感知できる存在だったらどうする?さっきまで魔素をわずかとは言え動かしてたんだから、逆探知されてバレる。なんならとっくにバレてる可能性だって低くない。
攻撃は?これも、相手が見えないのにできるわけがない。今の私の唯一の攻撃手段かもしれない【侵蝕魔法】だって、通じるとも思えない。
なす術が無い。
「……(死ぬ)」
ダメだ。
『あなたは【餓鬼】に踏み潰されて死亡した』
『リスポーンしますか?』
『受理しました』
全身に悪寒が走る。そしてすべてが消えた。