表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/118

19.風化鬼・後編

ストーリームービー回その2です。

 復活リザレクション!2度目の死もまた一瞬とは、恐るべし【感覚鈍麻】。


 取り敢えず、あのデカいオブジェクトが【風化鬼】っていうエネミーなのは分かった。


 というわけで、ムービー後編だ。どうせ忘れ去られた男の遺体が鬼になったとかだろ。


――――――――――――

 何年も何年も。何百年もそれ以上も。男の安穩は願われ続けました。いつしかそれは村の祭りになり、洪水から村を救った男のために村人は酒を開け、作物を捧げ、豚を切り分けます。豪勢な祭りが始まった村には活気が満ち、その規模はかつてと比べ物にならぬほど大きくなってゆきました。


 そんなある年の祭り。何時ぞやのように、その村へ旅人がやってきました。その旅人はよく整えられた衣を纏い、しっとりと健康的な肉体をしていて、顔立ちは大変に美しいものでした。


 旅人は言いました。『宿を貸してくださいませんか』


 村人たちは二つ返事で了承しました。そして旅人に言いました。『村のために身を捧げたある男の安穩を願うために、あなたも祭りに参加してくれないか』


 旅人も二つ返事で了承しました。旅人は問います。『私は修験者であるから、男の冥福を願って回向したい。その男は何を成し遂げ祀られているのか』


 村人たちは嬉々として教えました。心優しく優秀な青年、醜くも志高い修験者、村を襲った豪雨、旅人と男の献身、村に伝わるその全てを。


 旅人は求めました。その男が眠る場所に連れて行ってほしいと。村人たちは、それはそれは喜んで男の眠る墓を教えました。


 旅人はさらに続けます。『回向するのは深夜、月のない今宵である。どうか邪念の交じることが無いよう、誰一人そこに立ち入らないでほしい』


 村人たちはそれも了承しました。村に伝わる英雄を外の旅人が重んじてくれることが、彼らにとっては何よりも嬉しかったからです。


 深夜。月は無く、暗闇だけが支配する時刻。旅人は高台の屋敷にいました。その屋敷の一番大きな部屋、その裏の扉から出られる庭に、男は葬られていたからです。


 旅人は美しいかんばせをほころばせ、墓を掘り返し荒らしはじめました。そして男の遺体が収まっていた甕を見つけると、罰当たりにも封を切り、逆さにして遺骨を一つ残らず取り出したのです。


 旅人は骨を乱雑にかき集めると、まじないを唱え始めました。発音はひどく曖昧で分かりにくいものでしたが、おどろおどろしい響きを持っていました。


 まじないに吸い寄せられるように邪悪な気が集まり始め、粗雑に積み上げられた骨へまとわりつきます。骨にまとわりついた邪悪な気は次第に腐って悪臭を放つ肉へ変化し、骨はかつての男の面影を残した動く屍として蘇ります。


 旅人は屍へ命じます。『この村には悪鬼が棲み憑いている。それは村人に化け、村人を喰らおうとしている。それを殺せ』


 屍は命じられるまま動きます。まず、扉の隙間からそのおぞましい儀式を覗いていた不信心な村人を喰い殺しました。屍の腐った剥き出しの肉が、ほんの一部だけ痩せて乾いた皮に覆われました。


 旅人はさらに命じます。『悪鬼はそれ以外にもいる。すべて喰い殺せ』


 屍は学びました。記憶が薄れ、村を守るという執着のみが残る腐り落ちた脳みそで、学びました。悪鬼を喰い殺せば、体が強くなる。力を得ればさらに悪鬼を喰い殺せる。村を守るためには力が必要で、すべて喰い殺す必要があるのだと。


 旅人は美しいかんばせをさらにほころばせます。その目には邪悪と狂気が満ちていました。旅人は屍を月のない深夜へ置き去りにし、去ってゆきました。


 その日を境に、村にある噂が流れ始めました。


 村には悪鬼が棲み憑くようになったのだと。


 それは全てを喰い殺すのだと。


 はじめに村人、そして美しい旅人も跡形もなく喰い殺されたと。


 村は活気を失い、人々は去り、家々と田畑は歳月の重みに崩れていきました。


 風化し、朽ちかけた村の屋敷だけが、その頃の面影を残します。村に残る男の記憶は薄れ、すべてを喰らう悪鬼の所業がその上に爪痕を残します。


 この廃村の大きな屋敷には悪鬼が居て、すべてを喰い殺さなければならないのです。

――――――――――――


物語任務シナリオクエスト:【回向を願う】が開始されました』

『本任務を受注している間、他者がこのクエストを進行することはできません』

『他者が本任務を開始するためには、任務を【放棄】する必要があります』


 ……む、胸糞……。あらゆる善意を一瞬で踏み躙るとんでもない胸糞がいた……。すみません、忘れ去られた恨みがどうとか言って。本当にごめんなさい。


 というわけで。多分このクエストのクリア条件は、あの【風化鬼】を意味のない命令から解放してあげることだろう。回向、その意味は『善行を分け与えて成仏を祈ること』。普通にぶっ飛ばしても何とかなりそうだが、回向する(そういう)方向から攻める事もできるかもしれないね。


 ま、どちらにせよ今んとこ無理である。今の私はろくに目も見えなければダメージソースにも乏しい。その上、私の攻撃手段は現状【侵蝕魔法】【闇魔法】【影魔法】の三つ。これで『善行を分け与え』られるとも思えない。なんなら罪の上塗り。


 というわけで、一旦保留!ごめんなさい!本当にダメそうだったら、【放棄】してからどっかに情報提供してなんとかしてもらおう。


 まあ、出来る限りは自分で何とかしたいし……しばらくはレベリングに勤しむってことで。待ってて、私が何とかするからね。


 そして、できることなら前後編両方の旅人についても追いたい。特に後編。本当にクソ。いつか見つけてブチ殺してやる。待ってろよ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ