17.一つ先へ
今の私は内心かなり取り乱している。何せユニークキャラクターになってしまったのだから。ユニークだぞ、ユニーク。唯一無二の、自分の種族を紹介した瞬間に身バレ必至になる身分。それをなんで問答無用でワールドアナウンスしたんだ。
ふー……、ふー……、息を整える。口は無いけれど。とにかく【ユニーク】に関しては一旦置いておくことにして、新しいスキルや称号について色々見ていこう。
なになに、ふんふん。【闇魔法】は攻撃に優れた技が揃う魔法スキル、代わりに燃費が悪め。【影魔法】は……レベル1で覚えている【影操作】が全ての準備スキルになっていて、そこから移動補助だとか攻撃魔法だとかに派生するようだ。取り回しはやや面倒くさそうだな。
でも嬉しい。何せ……とうとう【魂縛】による持続ダメージ以外のまともなダメージソースが手に入ったのだから!これで餓鬼もサクッとイケるはずだ。
おっと、そうこうしているうちにまた餓鬼が【魔素感知】に引っかかったな。では新兵器の試運転と行こうか。
「……(【ダークランス】!)」
【闇魔法】のレベル1、【ダークランス】。闇を魔素で操り、槍にして敵を突き刺す魔法……そのままだな。その【ダークランス】で見事に腹(と思わしき部位)を刺された餓鬼はそのままボロっと崩れた。いい火力!
……これだけの威力なら、もっと……。
……話を変えよう。私が今いる場所は、何らかの人工的な建造物と思わしき場所の、一つの小さな部屋。いつまでもここに引っ込んでいても、たまに迷い込んできた餓鬼を魔法で打ち倒す以外で経験値を得ることは恐らく難しい。ぐにぐにも最近ちょっと伸び悩んできたからね。
私の進化に必要なレベルは40、これはミニ・ウィーク・スピリットだったころの2倍。そしてユニークキャラクターということは、必要経験値も普通の進化二段階目のキャラクターより多い可能性がある。
そして……私はゲームを始めてから、だいたい半月少々くらいでここまで来られた。このことから推定すると、今のペースでは次の進化は一ヶ月以上先だ。それはちょっと……時間がかかり過ぎる。
と、いうわけで。
「……(この小部屋から、出てみよう!)」
この部屋の外で、餓鬼、あるいはそれ以外のまだ見ぬエネミーを狩る!狩って、進化するんだ!そしてあわよくば人型になりたい。せめて【非実体】を解除したい……!
「……(よし、行くぞ!)」
さあ、まずは小部屋の出口を探して進もう!進もう……進……進めない!?
え、進めないんだけど。なんで。
えーと、状況を整理しよう。今の私は【ミニ・ダーク・スピリット】。一つ前のふわふわオーブのボディシェイプがそのまま真っ黒になっただけ。さて、ここで問題。
空中に浮いている人魂って、どうやって移動する?
「……(知らない)」
影のときはこう、ずるずる這い回るイメージでなんとなくうごうごと蠢いていた_移動できていたとは言えない_のだけれど。今の私はなんというか、足のつかないプールで藻掻いてるみたいな。うおおお、バタバタバタバタ!無理!といった風体である。
というわけで、部屋を出るために作戦を立てよう。
1、死に物狂いで動く。
却下。というか無理。まず藻掻いているだけじゃ殆ど進めない。それから、こういう根性論が許されるのはすぐ近くに明確なゴールが決まっている状況くらいであって、部屋の出口の位置も分かってない状態でやるべきじゃない。
2、壁や何らかの重い物体を蹴って、反動から推進力を得る。
却下。【非実体】スキルが外れてないのに出来るとは思えない。そもそも出来たとして、近くの壁に行く手段が無い。
3、【魔素操作】で魔素の流れを作ってそれに乗る。
これはアリ。というよりも、これくらいしか出来なさそう。【魔素感知】を持っていなかった頃から魔素の動きがうっすらとは分かっていたってことは、私の体に魔素の動きで影響を与えられるってことだからね。一つ問題があるとするなら、それほどの動きを実現させられるかどうか分からないってことだけど……前二つよりは可能性が高いし。やろう。
「……(【魔素操作】)」
よし、流れを作れそうだが……うぐ……!ああもう、動かさなくちゃいけない魔素の量がこれまでの訓練の比じゃ無い!
「……(【魔素操作】、もっと【魔素操作】!)」
まだまだ、もっと動け!私の体が全部乗るくらいの流れを作って、そして_ここを出るんだ!
この小さく区切られた部屋も、この部屋が建物の中にあるならその建物も、いつか出る。出て、私も広い世界を旅するんだ!
「……!(【魔素操作】……!)」
なにか感覚を掴んだ。多分、スキルレベルが一定まで上がったんだ。これなら、さっきまでよりもずっと速く、もっと大胆に動かせる!
「……(乗れた!)」
自分の身体に沿って生み出した流れが、とうとう私を押し流し始める。さあ、動け、私!外に出るんだ!あんなに遠かった壁はもう目と鼻の先。目も鼻も無いけど。まずはこの壁に体当たりして、ドアがあるかどうか確かめてやる_!?
ドアを確かめようとした私の体が、壁に当たって、そのままめり込んですり抜けた。
あ。【非実体】って地形無視できるんだね。