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120.古い信念と約束

第三者視点。扶桑樹が色々話す回。

 樹の根で出来たドームのような、静謐な空間。そこで一人の男_アルマが、まるで瞑想しているように、胡座をかいて座り込みじっと目を閉じていた。


 ここは鬼ヶ島の地下、【死穢なる湧命の領域】。【死穢の扶桑樹】が全てを支配する空間である。


 そこに、彼のものとは異なる、何処か神聖な気配が入り込んだ。


『【死穢】』

「よ、久し振り」

『ええ。そしてあなたに喚び出されるのはこれで何度目でしょうかね』

「毎度悪いな。ただ今回はちょっと緊急の案件だ」

『毎度のことですね。寄生樹の利用法、龍脈の探知、今回は何ですか?』

「“命と約束の神”について」


 アルマはじっと目を閉じて枝や根を広げながら、その声の主、かつてアルマが打ち倒し乗っ取った先代の【扶桑樹】の意識とやり取りを続ける。


 最近明らかになった、歳王や扶桑樹以前の、始祖級かも怪しい“命と約束の神”の存在。その名をアルマから聞いた扶桑樹は、ごくわずかな反応を示した。彼女を直接その身に宿すアルマにしか分からないほど、ほんの少しだけ。


『それを何処で知りましたか』

「俺の友達」

『……【龍生九子】』

「なんだ知ってんのか。そいつが生まれたきっかけが、“命と約束の神”を食い殺した男……李丹心の薬を飲んだからなんだけどさ」

『知っておりますとも。彼女に生命を許したのは大いなる神(システム)ですが、実際に与えたのはわたくしと我が半身_歳王です』

「まじ?……え、薬は?関係ねえの?」

『その薬が何かは知りませんが、口にするだけで永遠の命を得られるような物は存在し得ません』

「神の血肉でもなければ、ってことか」

『……』


 扶桑樹は小さく嘆息し、口を閉じる。アルマからは確かに強い生命の痕跡……穢が染み付いた跡がある。それは扶桑樹にとって覚えのある、アルマとは全く異なるルーツを持つ穢だった。


 歳王の力。彼女の肉体の再構築は、歳王の体のごく一部を材料に使って行われた。


『【龍生九子】とは言い得て妙ですね』

「んあ?」

『彼女の体の根源は歳王にありますから。本質的には異なりますが、実質は歳王の娘と呼んで構わないかと思われます。正当な取引、もとい了解に基づいて行われた血の継承ですから』

「……まじかよ……」

『あなたのそれとは大きく異なりますね。あなたは力を示し力を譲ることをわたくしに承知させた。肉の繋がりではなく冠の継承です』

「え、違うのか」

『異なります』


 継承されたという結果でも大きく違っています、と扶桑樹はアルマに言い放つ。龍生九子は新たな権限を認められたのに対し、死穢の扶桑樹は元から存在していた権限を継承した……その取引に多少の力業を使ったとは言え。


 そういう意味では、確かに継承しておきながら、扶桑樹に管理を丸投げしていることになんやかんや言われてもおかしくはないのだが。生まれついての生命の神であった扶桑樹にとっては、むしろただ敗者として潰されるよりも遥かに温情のある結果だと受け取ったらしい。


 そのことを扶桑樹がアルマに伝えると、アルマは呆れたように声を上げた。


「別にそんなつもりねえけどなあ」

『そうですか』

「慣れてるやつがいるなら慣れてるやつにやってもらった方が良いし、別にちょっとした興味と腕試しだったんだから殺すまでやる気は無いし」

『……』

「それにさあ、いざやり遂げてやったぜ!って時に『では褒賞としてわたくしの首を』って言われてもやる気起きねえのよ。俺はそんな血なまぐさい世界にルーツを持ってるわけじゃないの」

『首が一番の褒美だと思ったのですが』

「いつの時代だよマジで……」

『或いは、かつての命と約束の神のように、私を口にしたいのかと』

「見た目食人じゃねえか。食べてみたいだけなら葉っぱの1枚でも貰ってサヨナラに決まってんだろ」

『多くの人間が、わたくしを口にしたいと不躾にも鬼ヶ島に足を踏み入れては私に傷をつけていきました。それにうんざりしたわたくしは、人よりも強く戦いに優れた存在を眷属として生み出すことにしたのです』

「……あ、もしかして鬼人族の生まれの話?」

『ええ。あなたは随分一人で生きて、眷族も適当に生まれていただけの【屍食い鬼】1体をなんとなく連れ回しているだけのようですが』

「突然のお叱り?」

『あなたは元来、好きなだけ眷族を生み出し繁殖させることが出来るのです』

「へ〜……」

『龍生九子はやっているようですよ。教えを請えてきたらどうです』

「え?そんなの分かるのか」

『歳王から聞きました。彼は随分衰えたようですから』


 世間話のように喋る扶桑樹。その言葉を聞き逃さなかったのはアルマだった。


「待て。歳王が衰えたってのは本当なのか?」

『その話ですか?ええ。恐らくは一時的なものでしょうけれど。これまでも何度かありましたが、そのたびに封印をやり直してきましたから』

「……()()?」

『古き獣の封印です。彼の地……【華】の龍脈は、歳王がそのために整備したものですから』

「待て待て待て。古き獣ってなんだ。封印しなきゃマズいもんなのか」


 情報の奔流に頭を抱えるアルマ。なんだか頭痛がしてきた、と一人つぶやく。


『かつての歳王のねぐら……今では【四安】と呼ばれているのでしたね。そこの鬼門と裏鬼門にあたる位置に、古き獣を2つに裂いて封じたのです』

「はぁ……?」

『かつて、この地上を一度虚無に変えた怪物です。それを打ち払い、世を法則と命で満たしたのが、命と約束の神』


 ……ピッ、と電子音が響く。だがそれは、アルマの脳内にしか聞こえない音だ。


 アルマの視界の端に、小さく【録画終了】と映っていた。

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