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119.龍脈の由来

 神を喰らった人間、久。棹君の教え子の一人。あの男、武州の軍師祭酒、「うつくしい おとこ」と被るな。


「李丹心のことですか?」


 と言うかそうであって欲しい。神を食った奴が二人も居てたまるか。


「……“丹心”?あの莫迦者め、そのような名を名乗っているのか」

「ええ……。じゃあ、あの男の本名は、“久”で合ってるってこと……?」

「名家・李家の三男坊、長兄の李董と次兄の李仁の不出来な弟、怠け者。その者の名は李久じゃな」

「長兄が経営に、次兄が剣に秀でていたのなら、十中八九、李丹心は李久のことでしょうね」

「ではそれじゃろうな。“丹心”とはまた大それた名を自らに付けおって、相変わらず身の丈という言葉を知らぬようじゃ」


 なんか急にド辛辣になったぞこのおじいちゃん。これ以上首を突っ込むと長話を食らいそうだな。と言うか元々、この人が「龍脈について話がある」ってここに呼び出した……私有地に呼び出されるってのも変な話だけど、まあ何はともあれ呼び出したんだから、その話に移るべきだろう。


「その話はまた後にしましょう。龍脈についての話をお伺いしたい」

「む。そうじゃの。いかんいかん、歳を取ると忘れっぽくていかんな」


 え〜……。うん百年だかうん千年前だか知らんが、そんな昔のことを覚えておいて「忘れっぽい」は無いだろ。


「それで、その。龍脈の話とは……」

「ふむ……まず、そもそも。龍脈とは何か?」

「え」


 魔素の由来で、かつ、万物の根源。龍脈が溜まると龍穴になり、この辺りだと無頂山の地下に存在している。……鬼ヶ島にもあるんだっけ。


「龍脈とは、すなわち生命の由来。お主もその力を借りて長生の身体を手にしておる」

「……【龍脈活性】」

「聡い子じゃな。歳が気に入ったのも頷ける」

「私は……【尸解仙】になる前、李丹心が書き残した偽の薬を飲みました。もしかして、それがたまたま効いたというわけでもなく……?」

「久の薬を?ふむ、調合を聞きたい」


 隠すことでもないので素直に教える。水銀、乾燥した覆盆子の未熟果、鉛、砒素、そして金。材料を言うたびに、ホクホクとした笑顔のこめかみに青筋が浮いていく。さてはよっぽどヤバいな?


「金属類はすべて水銀に溶かし、覆盆子は練って丸薬にしました」

「……これまた随分と、悪意に満ちておるのう。それ程までに堕ちたか」

「悪意……」

「まず、お主が飲んだその薬に長生の薬効は無い」

「無いんですか」

「無い。じゃが薬効そのものはある。単なる毒性とは異なる、別の効果がな」


 あるんだ。化学的な毒性しかないのかと思ってた。


「簡単に言えば、服用者を長い幻覚に落とすものじゃ。お主はそれを飲み、一度知らぬ空間に閉じ込められたのではないか?」

「ええ、はい……飲んだあと、気がついたら見覚えのない広間にいました。その頃は見覚えが無かっただけで、正確にはここと全く同じ空間なのですが」

「ふむ。無意識に形成されかけていた洞天が投影されたのであろうな。その幻覚作用の由来は水銀。砒素と鉛は昏々と眠る服用者を蝕み続け、金は効果を長く引き伸ばす。覆盆子は気の巡りを整える作用があるが、この場合は恐らく、服用者が出来るだけ苦しむようにするためだけに混ぜられたのじゃろうな」


 え〜……。


「その幻覚の内容が、その……私の体を奪い、乗っ取った存在に、殺され続けるというもので」

「それはわからん」

「え」

「……作る間に、そこらの魂を吸い寄せた可能性はあるのう。それを一つの贄にして、服用者を霊的にも閉じ込める構造だった可能性は否定しきれん」


 あ、悪意〜…………!!!!!!じゃあ瑾瑜もガチの被害者じゃんねえ。


「よくもまあ乗り越えたものよ。仙人でも無ければ耐え切れぬであろうに、お主は成し遂げた」

「もしかして、それも【龍脈活性】のおかげだったりとか……?いや、奪われてたし違いますかね」

「或いは歳の介入じゃな。ふむ……いや、なるほど。半身の気配の由来はそこか」

「?」

「お主から、()()()()()()()()()()()()。片方はより霊的で神に近く、もう片方はより実存的で本質に近い」

「……後者は、【死穢の扶桑樹】でしょうか」

「死穢。ふむ。誤解を招きそうな名じゃのう!愉快愉快」


 はい?


「誤解……?」

「前者はかつての【扶桑樹】、歳の半身、命の神で間違いないじゃろう。覚えのある気配じゃからのう。それと比べれば、死穢とは禍々しく恐ろしいものにも思えるじゃろうな」

「違うんですか?」


 闇堕ちみたいな。ゾンビアタック仕掛けすぎてカルマ値貯まりすぎたみたいな……そんなシステムがあるかどうかは知らないけど。


「死は穢じゃ。だが穢は悪とは異なる。善でもないがな」

「え」

「生と死、そのものに善悪の区別はつけられぬ。その由来と生き方死に様、それに始めて善悪が生まれるに過ぎぬよ」

「え〜……?」

「皆穢れておるのよ。人も獣も、動物は生まれる時に血に塗れる。植物は死が溜まった土から芽生える」

「……逆に、死ぬときに浄化されるわけでもない」


 あれ?じゃあそうなると、穢れはたまり続けるんじゃないのか?


「ほっほ、話が帰ってきたの。龍脈とは生命の由来にして帰る場所。つまり、穢の流れであり、穢をすすぐための機構なんじゃよ」

「……じゃあ、それが痩せてるってことは」

「うむ。そのような異常はありえてはならぬ事じゃな。古き命の死の帰る場も、新たな命が芽生える場も潰れておるのじゃ」


 ……思ったよりマズイことになってるな!?

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李久ほんとろくなことしねえなw
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