110.扶桑樹は憂いている
「そりゃああれだけ猛威を振るったんだよ、【寄生樹】に一つや二つや三つや四つやそれ以上くらい弱体化が与えられてもおかしくはないでしょ」
「猛威を振るったって言ったって結果論だし〜……あんなに頑張って下準備してや〜〜〜っと兵器運用できるようになるレベルならさあ、別にロマン砲の域を出ねえじゃん」
「ん〜……ちょっと調整内容見せて」
はいよ、と内容を見せてくれるアルマ。……うわあなにこれ。ほぼレシートだよレシート。威力の低下に胞子噴出確率の低下に、寄生状態に移行するための感染の深度が深くなったり……なんじゃこりゃ。
「なんかあれだね……全体的に使いづらくされたね」
「極めつけはこれだ。連鎖で寄生樹化させるたびに必要な感染度が指数関数的に上がっていく。もうイベントの時みてえなバイオハザードは起こせねえな」
「わあ、本当に使いづらくなりましたね〜……」
「やりすぎたってのはそうだけど、それにしたって徹底的にボコされたな……」
「ま〜〜〜遅かれ早かれお仕置きされるって考えたらまあ……イベントで最大火力をお披露目できたのは良かったか……」
そもそもこれ、多分運営は自爆技としての運用を考えてたんだろうな。それがたまたま、こう……わけの分からないパワーを持った運用者が悪用するアタマを持ってたせいで良くない噛み合い方をしたんだろう。
「ま、おとなしく諦めるべきだね」
「ん〜〜〜〜〜そうだな。ナーフにいつまでもうだうだ言ってたってしょうがねえか」
「そうです!おいしいもの食べて気分転換しましょう!」
「そうだよ。アルマ、私水晶エビ蒸し餃子食べたいな」
「わたしは蓮蓉包で!」
「言っとくけど支払い俺だからな?」
も〜、とぶつくさ言いつつもちゃんと頼んでくれるアルマ。ありがとう、この恩は必ずどこかで返すよ。機会があれば。タイミングが合ったときに。
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「は〜……結構食ったな」
「ブルームはよく食べるね」
「食べるの大好きなんです!でも、普段はあんまり好きなもの食べられる生活じゃなくて」
しょぼん、と言うブルーム。……なるほど。まあ人には人の事情があるって言うし、突っ込みはしない。でもたくさんお食べ、と思わざるを得ないな。支払いアルマだけど。
「……なんか、もうちょい頼んでいいぜ」
支払いアルマだけどたくさんお食べ。
「さーてと……んじゃ、このイベント中に調べてもらった諸々をエナと共有するか」
「ん?」
「……あの〜……前もここでさあ、色々言ったろ。龍脈とか……」
「ああ、“さる高貴な御方”とか?」
「そうそう。イベントの裏でも時間てのは経過してるからな、そっちの調査に俺の分身と、それから前に紹介させた俺の眷属……晴太を出したんだ」
「へー。へ?分身?」
「うん」
……アルマの分身は、アルマと根っこを共有してない別キャラを生やせるってもので……え?イベントの裏でそんなの運用してたの?
「ああええと、エナが考えてるほどヤバいことじゃない。普通に龍脈の様子がわかるのが俺くらいだから、晴太を足にそこかしこでデータ取らせただけ」
「ええ〜……なにそれ」
「やってみりゃそんな難しくねえんだけどな……まあいいや、そんでちょっと資料共有するな」
フレンドチャットが通知音を鳴らした。メッセージ欄には謎の画像ファイル。
「……開けていいよね?」
「いいよ大丈夫だよ。警戒すんのは偉いけど」
アルマが言うのでファイルを開く。それは……おそらく【華】全域の白地図に、赤くラインが引かれた画像だった。
「なにこれ」
「龍脈が通る場所をハイライトした。龍脈の力が強ければ強いほど太く、弱ければ弱いほど細くなるようにな。なんかおかしなところに気が付かないか?」
「ん〜……あれ?」
四安は龍脈の支流の真上に乗っかるように作られているが、それは他の都市も同じ。まるで川沿いに文明ができていくように、龍脈沿いに街が出来上がっているのだ。
その中で一箇所だけ、明らかな異常が一つある。四安の北、無頂山との間にある街……【武州】という場所を通る龍脈は、そのまま南の四安やその他都市に流れ込んでいくのだが。
「武州で露骨に細ってる……?」
「そう。だからここに何かあるんじゃねえのって思ってるんだが……如何せんそこには、俺のは当然公徳どののツテも無くてな……」
「……ああ、そもそも一介の商人が『龍脈がおかしいから調査させてくれ!』って言ったって、ねえ。頭がおかしくなったと思われておしまいだよ」
「そもそもこんな異常、一人で捜査なんて出来ねえしよお……大規模な人数を投入できて情報統制が完璧で指揮が取れる、調査とそれからついでに戦闘慣れしたチームってどう話つければいいんだ……!」
……無茶ぶりすぎる。一体そんなのどうやれば_
_できる人いたわ。
「カルクスさんとか少佐さんとかにお願いすればいけるか……?」
「……!あ〜〜〜〜〜!!!!【カドゥケウス】!!!!!その手があったわエナお前天才かよ!?!?」
「いやでも待って、無理かも」
「え」
「【華】って法治国家でしょ。勝手に武州に立ち入り調査は」
「あ〜〜〜〜〜〜…………いや。阮明さん経由で武州の役人にお願いできれば……ちょっと今日解散でいいか?色々やりたい」
「いい……けど待って。ブルームが全然食べきってない」
「むぐ?」
静かだと思ったら、ずっと食べてたの……?
結局ブルームが食べきってもしばらくダラダラしてやっと解散した。人の金で受ける富春楼の食事とサービスは良すぎる。尻に根が生えるよ。