106.Most Valuable Player
前話は誤字まみれですみません。謹んで謝罪申し上げますとともに、毎度皆様が寄せてくださる誤字報告に感謝申し上げます。
やっぱ深夜作業はダメだな(現在時刻23:16)
しばらくみんなで談笑していると、不意に音声のアナウンスが聞こえる。
『――『奪え!守れ!騒乱のスクランブル・ウォー!』イベントにご参加の、防衛陣営の皆様。公式運営より、個人戦績の表彰を行います。
なお、本アナウンスは防衛側の皆様にのみ発信されております。
総合MVP……“アルマ”さん。
戦闘MVP……“エナ”さん。
生産MVP……“かぬっち”さん。
支援MVP……“十三”さん。
探索MVP……“阮明”さん。
戦術MVP……“カルクス”さん。
最多キル……“アラーニェ”さん。
瞬間最大ダメージ……“ブルーム”さん。
累積最大ダメージ……“少佐”さん。
以上が本イベントにおける主要戦績となります。
詳細な個人成績やランキングにつきましては、公式サイトの結果ページをご確認ください。
ご参加いただき、誠にありがとうございました。――以上、公式運営からの発表でした』
……おお〜……。
「……総合MVP、俺?」
「納得」
「アルマさんの仕事を軽く挙げるだけでも、作戦立案、敵陣への偵察、内部分裂の陽動、陣営内の連絡網構築、敵主力戦力との戦闘および一時拘束、寄生樹作戦の成功……なるほどこれはMVPですね。ワタクシも納得です」
「……お前、わしに働きすぎだ何だと言っておったのう?」
「……スミマセンデシター」
アルマは軽く肩をすくめる。
「いやしかし、こうして正式に表彰されると感慨深いものがあるな。いえーいMVPだ!」
おちゃらけてピースサインをするアルマ。素直に拍手するアラーニェさんやブルーム、少佐にカルクスさん。あ、アルマが照れた。
「こほん!それにしても、戦闘MVPがエナか」
「……エナ殿は寄生樹を背負いながらあの究極院相手に戦い抜いた。当然と言えば当然だろう」
「いやあ、どれほど壮絶な戦いぶりだったのか……小生今から切り抜きを見るのが恐ろしいですね」
阮明さん、私のことを人扱いしてないよね?そっちも大百足のくせに……。
「そして生産MVPがかぬっちさん、支援MVPが十三さん、探索MVPが阮明さん……うん、ここも納得ですね!とくにかぬっちさんはわたしの体も含めてたくさんゴーレムを作ってくれましたし、十三さんは資材も武器もたくさん運んでくれました!」
「阮明くんは虫ですぐに地形情報をあつめてくれたから〜、罠の設置が捗ったわ〜。カルクスくんの戦術MVPもそうね〜。うんうん、各自の仕事が見事に数字として表れてるわ〜」
各々は少し照れくさそうに笑い、視線をみんなに向ける。しばしの不快でない沈黙のあと、アルマが口を開いた。
「……さて、せっかくだし、この後は改めてゆっくり飯でも食べながら戦果報告会としゃれ込むか。ちょっとツッコミ入れたい戦績もあるし」
「ええ、もう少し気楽に行きましょう」
グラスを手に取り、宴会の続きを楽しむ防衛陣営の面々。音声アナウンスの余韻が残る中、1週間の死闘を乗り越えた充実感が、ゆっくりと場を包み込んでいた。
アルマがふと呟く。
「さて、まずは……アラーニェさんが最多キルってのはなんだ……?」
「えっ?……ほんとだ、生産職なのに?」
なんでだろう……私も首を傾げた。ちら、とアラーニェさんの方を見ると、彼女はふふふ、と笑う。
「罠でのキルがカウントされてるのかしらね〜?」
「……即死罠地獄……」
かぬっちさんがハッ、と思い出したようにつぶやいた。……あ。あの。アラーニェさんがとっておきの殺意を込めて設置した即死罠たち。
でもアラーニェさん、私の最終日の夕陽ビームとかその他諸々よりも沢山のプレイヤーをぶっ倒したってことだよね。
……罠って怖いなあ。アラーニェさんを怒らせてはいけないってことなのかも。
「みんなの持ち場には置かなかったけれど〜、ちょっと外れたら足の踏み場全てに置く勢いで設置したわね〜」
それから気になるのは、ブルームの戦績……最大瞬間ダメージ。
「ブルームさんの最大瞬間ダメージっちゅうのは何じゃ?かぬっちさんのゴーレムは確かに異常な高品質じゃけえ、違和感は薄いが」
「いえ。もしかしたらそれではないかもしれません」
「え?どういうこと?ブルームが敵をキルしたのはゴーレムに憑依してからで_」
いや。思い出した。それ以外にも一度あったはずだ。
「_Random15か」
「……???わかりません!」
「思い出してよブルーム……私が君を投げてRandom15にぶっ刺して……」
「あ!内側から風魔法でズタズタにしたやつ!!あれ私の魔法ですもんね!!!」
「あー!あのときのRandom15、ほぼ即死だったもんな」
アルマが肩をすくめつつ笑う。
「なるほど、そういうことだったのか。ブルームの瞬間最大ダメージは、ゴーレムのときの戦闘じゃなくて、あの一撃がカウントされたわけだな」
「……なんか、よくわからない」
アラーニェさんがにこにこと答える。
「まあ、こういう“不思議な判定”もイベントの味ってことかしら〜?」
「納得……か?」
「でも、面白い。こうして振り返ると、各自の活躍がちゃんと結果に反映されてるのもわかるし」
そこそういう判定なんだ、というのはあるけど。でも紛れもない努力と作戦の結果だ。
「確かに。寄生樹を背負ったり、罠設置したり、魔法で補助したり……戦い方も人それぞれだし」
「数字だけじゃ伝わらない苦労や工夫もあるからな」
少佐が不意に声を上げた。
「本官が、累積最大ダメージというのは……今までの努力が認められたようで嬉しい」
「……!少佐」
「検証班としてではあるが、魔法を愛し研鑽してきたことも事実。それを使って堅実に勝利を積み重ねた結果がこうしてある」
「……ええ。ワタクシもあなたの友人として喜ばしい限りです」
祝勝会はそうやって穏やかに過ぎていった。