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101.銃・病原菌・鉄

 そう言ったアルマに、少佐が鋭く言い放った。


「何故」

「簡単だ。俺たちが総力を出して究極院を排除することはもうできない」

「……なんだと」

「そりゃそうだろ。究極院を倒したときの状況はどうだった?味方を全員排除した状態で、無防備な態勢で拘束して、一番魔法が使える少佐が、究極院の防御をすり抜けられる魔法を撃って、やっと倒したんだ。そうしなきゃ倒せなかったから」

「……」

「今度の究極院は、数千単位の味方を率いてくる。Random15もいる。騙し討ちも多分通らない……前の究極院はあくまでも偵察目的で、退却前提の油断があったからな。真正面から倒すのは厳しいから、そのしぶとさを上手いこと利用するんだ」


 重い沈黙が落ちる。それを破ったのはエナだった。


「……究極院をこっちの手駒にするんだよね?その“胞子を出す木”で」

「そう。名前は【寄生樹】。寄生状態になると宿主を殺して栄養分にして育ち、俺の操作キャラになる」

「見た目はただの木なのに、ずいぶんおどろおどろしい名前じゃの」

「うんにゃ。見てくれはおとなしいが扱いは面倒くさいことこの上ない」


 アルマは調子を変えずに語る。


「……こいつさあ、俺以外の全員に感染するんだよ。パーティメンバーとか、おんなじ防衛陣営とか全く関係無く」

「え」

「俺は親木だから逆らわない。でもそれ以外は何でも取り込んで自分の糧にする。扱いに困るったらありゃしねえだろ?これが使いたくない理由その一」

「ふむ。ワタクシとしてはもっと情報を集めたいところですが……時間がありませんね。それから逃れる方法はありますか?」

「根本的に感染しないようにする方法は無い」


 断言するアルマに、胡乱げな目を向けるメンバー。なんでそんなものを、と、誰も口に出さずとも雄弁に語っていた。


「……ま、対処法はあるぜ。敢えて寄生されることで上から食われるのを避けるんだ」

「あらぁ〜?」

「簡単に言えば共生関係になるんだ。敢えて自分の身体に寄生樹を植え付けて、エネルギーを自分から提供することで身体の自由を奪われないようにすることができる」

「融和政策。理解」

「かぬっち殿は意外にも皮肉屋でございますね……」

「そう聞くと、本官としては一刻も早く共生関係になりたいところではあるが」

「デメリットはあるぜ。まず、エネルギー……つまり魔素とか体力とかその他諸々取られ続けるから、結構弱体化する。それから、自分の身体に生えた寄生樹も胞子を吐き続けるし、共生関係になったからって胞子に免疫が出来るわけでもねえから、最終的には感染が重篤化して死ぬかそれ以外で死ぬかだ。何よりも……」


 アルマはそこで一度言葉を切る。その顔は何か不安そうな顔というよりも、面倒くさくてたまらないといったような顔であった。


「……寄生樹ってのは随分強欲でな。共生関係で妥協してくれるのは一人だけだ。その共生した相手にもまるで遠慮ってもんが無い。共生されればガンガン弱体化してくから、結局活用法はほぼ無い……弱体化されまくってもまだ強い、そんな奴がいない限りは」


 な。そう言って、アルマはエナにいい笑顔を向けた。


「……その。一応聞くけど、使いたくない理由その二は?」

「見た目がエグすぎる」


――――――――――――


 カルクスが岩壁に石膏でがりがりとチャートを書いていく。


「では、作戦は以下のようになります」


 1、地上で十三がゴーレム大隊を率い正面部隊と衝突。同時に、阮明が虫を操り哨戒し、他の小部隊と接触し次第対応。


「臨機応変さが求められますね。役人には厳しい話でございまする」

「言うてお前さん、敵陣に虫を放り込んで人も食料も散々食い荒らしとったじゃろ。あん時みたいに好きにせえ」


 2、時間を稼ぎつつ後退、本陣地上でアラーニェ・かぬっちが敵部隊に対応。折を見てブルームがゴーレムに憑依して登場、敵を荒らす。


「頑張るわ〜」

「把握」

「ブルームも、頑張るって言ってる」


 3、荒らしつつ究極院・Random15を地下へ誘導。


「その頃には地下にも結構胞子が溜まってるだろうな。当然胞子は下に落ちていくから、最奥につく人の場所が一番濃度が高くなる」


 4、地下で敵プレイヤーを分断。


「念の為複数の分岐ポイントを作り、本官やゴーレム、虫、アルマ殿を配置……把握した。我々は敵を撃破することが目標で良いのか?」

「ああ。感染状態はあくまでも弱体デバフに過ぎないし、究極院以外は重篤化させずに倒すつもりだ。……増えるとめんどくせえ」


 5、究極院とエナがコアの防衛部屋で戦闘。できるだけ、少なくとも日が昇るまで、時間を稼ぎ重篤化させる。


「究極院だと、どのくらいかかりそう?」

「んー。三日目に小競り合いした所感だと、まあ、胞子が充満しまくった部屋で、深夜から明け方までガチの打ち合いして呼吸させまくってやっとか?」

「……究極院って、そんなに強いの……」

「悪い。三日目のアレは騙し討ち同然にやったから何とかなってただけだし、相当の重荷だろうけど、寄生樹を背負いながら究極院と打ち合い続けられるのは多分エナだけだ」

「分かった。やるだけやる」

「ああそう、念のため言っとくけど、どんなにムカついても殺さないようにもしてくれよ。死んだら感染状態がリセットされちまう」

「……面倒くさい!」

「それはほんとにそう。ごめんな」


 6、エナが撃破された後、コアを持って地上へ上がる究極院を日に当て寄生樹化させる。


「ここで、ずっと潜伏……まあ正確には、地上で隠れてバフを撒いていたワタクシがゆったり登場すると」

「ラスボス感満載じゃの」

「うふふ〜……カルクスさんって〜、意外と愉快な人ねえ〜」

「ありがたいこったな。ぽっと出の俺がノコノコ出てくるよりは、『情報ギルドのトップが隠し玉を出した』ってことにした方が、向こうさんも状況を受け入れやすいからな」


 7、寄生樹を中心にコアの防衛を開始。


「とは言えアルマさんの言う通りならば、寄生樹に近付くだけで相当のデバフを食らうようですから……防衛にはぴったりでしょうね」

「言っとくがゴーレムや虫にも寄生するぜ。上手いこと抑え込むつもりだがこっちに出る被害も覚悟しててくれ」

「その辺りは、ワタクシが大きく派手にバフを撒けばある程度はこちらへの胞子のデバフも相殺できるでしょうから。ある程度は気にせずいきましょう」


 簡素なチャートを一通り書き終えたカルクスは、ほっと一息ついた。……実際には、そのような素振りをしただけだが。


「では、今から6日目の昼にかけては準備期間ということで」


 速やかに散開。


――――――――――――


「エナ。ちょっと腕捲れるか?」

「どのくらい?」


 最奥の部屋で、始祖二人が向かい合っている。寄生樹と共生する下準備のためだ。


「出来れば両腕は丸々出してほしい」

「あー……じゃあちょっと待ってね。えい」

「え゙っ」

「よし。上着脱いだからどうぞ」


 ばさ、とゆったりとしたジャケットを脱ぎ、謎のスリットや露出部があるインナーをあらわにしたエナ。気まずげに目を逸らすアルマ。


「……えーと」

「早く。……その、デザインについては私は何も知らないからね」

(何だかマズイことをやっている気がする)


 アルマがエナの手首をそっとつかむ。その袖口から伸びる枝がエナの腕を這い、首や背へ伸びて根付いていく。


「ん……」

「んん゙っ!痛かったりしないか?」

「痛くはないけれど、くすぐったいかな」

「……ちょっと置いたら馴染むはず。多分すぐに身体が重くなったりするから、馴染んだら慣らしたほうがいいかもな」

「分かった」


 アルマがエナから手を離す。じわじわとエナの身体を根や枝が覆い始めた。エナはそのまま上着を着て、そして寄生樹は覆い隠された。


「悪い」

「うん?」

「……エナは、負けるために、寄生樹を背負うことになったわけで。それは俺のワガママだから……」

「いいよ」

「エナ」

「最初から最後まで、出し抜いてやろう。侵攻陣営のこと」

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― 新着の感想 ―
エナが究極院に負けると思ってなくて少しショックを受けてたけど、常時デバフに加えて不殺縛りがあったなら納得。 あとブルームの身体はゴーレムなのね。
想像以上のデバフに加え倒すの禁止とは…苦戦したわけだ
非実体は寄生できない?
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