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10.想定の何倍もの

 周囲は酷くざわめいている。当然だろうな、これからエキシビションの決勝戦なんだから。


 ごきげんよう。そろそろ人間体での挨拶が影の頃より多くなってくるでしょうか、エナです。


 あの謎のマントが騎士団長相手に番狂わせを見せたあと、続いた女騎士と冒険者組合長の勝負は女騎士に軍配が上がった。


「まあ、あれだけ組合長の不自由な左手側から無理やり攻め立てたらそうなるか……」

「組合長さんの動き、ぎこちなかったもんな。防御一辺倒になってたし」

「……あの女騎士が結構エグめの戦い方もできるタイプなのは意外だったけど」

「あー……。確かに。しかし、こうなると厳しいのはマントの方か?」

「ええ。速攻に次ぐ速攻で手を潰される可能性がある。でも女騎士の方も、決して楽な勝負ではない」

「息切れした瞬間に一撃必殺を叩き込まれる、とかな……。何せ女騎士さんは速さの代わりに防御を捨ててる構築だ」


 ともすれば、まさしくまばたき厳禁の試合になるだろう。マントの魔法を撃たせない連撃で女騎士が抑え込むか。女騎士の少ない隙を縫ってマントが一撃必殺を叩き込むか。


 周囲の観客も、固唾をのんで開始を待っていた。MCのエンジンもすでに暖まっている。


『準備はバッチリってとこだな!そんじゃあ_』


『ファイナル・バトル……開始スタートッ!!!!』


 空間がひきつれた。


「え」

「うわ、速ッ!?アレ、組合長さんとやったときのよりももっと加速してるだろ……やべーな、女騎士さん」


 女騎士が真っ直ぐに加速する。まばたきより速くマントに肉薄し、剣を振り下ろした。マントはいっぱいいっぱいになりながら、歯を食いしばり必死で刃を受け止めている。 


 マントのレイピアが折れそうで怖い。


 しかし、今のはなんだ……スキル?だとしてなんでわかったんだろうか。魔法を使ったから【魔素感知】に引っかかったとか?いや、スキルの類は全て効果が抑制されているはずで……。そもそもそうだったら、あのマントが魔法を使った時点でわかるはずだ。


 と、いうことは……


「空間そのものが歪んだ……?」

「……あー、やっぱそうだよな?」

「アルマもわかった?さっき、妙な感じがした」

「ああ。だけど周りはあんま気にしてなさそうだ。俺たちが気づけたのは最前列だからかもしれない」


 確かに、周囲のざわめきは女騎士のとんでもない加速に気を取られていてばかりで、誰も違和感を覚えているような話はしていない。


 あれをスキルの余波とするなら、本来は私たちのもとに伝わってくるはずがないものだ。


「そうなると……女騎士はスキルを使いこなせてないってこと?」

「あー、完全に制御できてないみたいな。だからちょびっと伝わってきたのかもな」


 あれはとんでもない加速だった。相当な熟練でないと使いこなせないだろう。彼女はあれを習得しているからこそ騎士団長のお墨付きがあるのだろうし、あれを使いこなせていないのはまだ若いからだろう。


 しかし凄まじかったな。まるで文字通りの“縮地法”というか……


「あれ、そのまま【縮地】の可能性があるな」

「マジで大地……いや、空間か。それを縮めてるって?」

「ううん……。でもそれほどの規模だったら、もう少し後ろにも余波が飛んでいるだろうし……」

「あー。あ、こういうのはどうだ?空間を縮めてバネにしたとか」

「縮めてそのまま向かったほうが速い。効率が悪すぎる」

「う。いや、移動だけで見るなら確かにな?でも運動エネルギー的にはこっちのが効率いいし」

「あー……えー……?」

「……言ってる俺が言うのもなんだけど、流石に苦しすぎると思う」


 うん。


 そもそもあの歪みは意図せず伝わっているものだと考えられる。だってエキシビションのルールとして、観客に危害を加えてはいけないんだから。歪みを利用して高速移動したけれど、制御しきれず余波が……いや。


 ……むしろ、あの歪みそのものが全く意図せず生まれていたものだったとしたら。


「マジカルな加速の反作用として空間が歪んでる、とか?」

「……あ?なんか言いたいことは分かるけどわからん」 

「ん〜……水泳で言ったら、泳ぐ動きは水を押しのけて推進力を得ているに過ぎないけど……」

「?……あ!押しのけられた水は意図せず波になる。そういうことか?」

「イメージとしてはだいたいそんなものかな」

「なるほどな〜。本当に全く意図していない歪みってわけか」


 文字通りの副作用、もしくはスキルのデメリットというわけだ。


 そして、あれほどの歪み。多分マントもわかったな。


「……てことは、女騎士さんのあの加速。二度目は通じない可能性が高い」

「空間の歪みというわかりやすい前兆。曲がれないほどのスピード。次に前兆を感じ取ったら……」

「横にヒョイッと跳んじまえばすぐ避けられる。相手の練度によっちゃあ、進路に魔法を置くくらいはされるだろうな」

「まあ、女騎士としては初撃で仕留めたかっただろうけど……」

「そう上手いこと行かなかった。思ったよりちゃんと対応されてたからな」

「初撃がマトモに当たれば……もしくは力で押しきれていれば。女騎士の勝利は確実だったけれど」

「あのマント、思ってたより侮れないな……」

「ええ。少なくとも、想定の数倍……数十倍は。一体いくつカードを隠しているのやら」


 ……まあ、人の形も取れない私たちに関係のあることではないけれど。イベントの勝利予想以外には何の関係もないけれど。関係無いけれど!!!!ヤケクソ気味に串焼き肉を口へ詰め込んだ。


「……エナ、そんな腹減ったか?」

「……ひははいれ」

「……あ、『聞かないで』?おーけーおーけー、大体わかった」

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