醜悪なる趣味
この城に来るのはいつだって気分が悪い。
見張りの兵士も、護衛の騎士も、鎮座する主も、その全てが気色悪い。
「やあやあ。よくぞいらした」
主の言葉に私は礼をする。
でっぷりと太った醜悪な男だ。
「今日は何を持ってきたのだい?」
「はい。今日の商品は……」
しかし、これはビジネスだ。
私は自らにそう言い聞かせながら今日持ってきた商品を男に見せる。
「第六王女です」
両手両足を縛られた上に猿轡をされた少女を男に見せる。
すると男は歓喜の声をあげて喜んだ。
「なんと! 遂に王族か! これは嬉しい!」
そう言うと男は事前に提示されていた額の二倍を私に支払う。
気持ちの悪い男だが金払いだけは良いのが唯一の美点だ。
「さぁさぁ。早くこっちへ来ておくれ。君を閉じ込める最高の檻を用意したよ」
「まだ猿轡をされているので喋れませんよ」
金を受け取りながら私はそう言うと男に連れられて奥の部屋へと姿を消した少女に幾ばくかの哀れみを抱いた。
攫っておいてなんだが哀れな女だ。
あの女はもう二度とこの場所から出られない。
何せ、あの醜悪な男は『人間を飼う』のが目的なのだ。
犯すでも、壊すでも、殺すでもない。
およそ人間のする事ではない。
あの男の城には百を超す飼われた人間達がコレクションされているのだ。
「気色悪ぃ」
あんな度し難い人間がいるなんて考えたこともなかった。
そもそも何をどうしたらあのような発想になるのか……。
「あんな奴にはなりたかねえわ」
自宅に戻った後に私は呟くと趣味である標本作りを再開した。
妻は気色悪いものをコレクションするなとは言うが、私の唯一の趣味なのだから放っておいてほしいものだ。
数は既に数百に上るが未だにこの趣味には飽きが来ない。