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第八十九話 巨大な獣に大立ち回って

「っせい!」


 烈迫の気合いと共に、右手の金砕棒を振り上げる。

 空より降りる銀と虹に煌めく蹄を撃ちすえ、宙に浮いたそれに左手の大楯を叩きつけた。


「なかなか!」


 それでも、ヴォルフラムの体勢を崩したとは言えない。

 両前脚が足踏みするかのように……というより実際そうなのだろう……交互に踏み落とされていった。

 流石に全てに殴り返すのは困難だ。

 後退しつつ、イオは補助腕の軽機関銃を斉射した。

 狙いはヴォルフラムではなく、落ちる真っ赤な花と、橙色の実。

 彼の踏み鳴らしと同時に落ちてくるそれらを、空中で撃ち落とす。


 盛大に花実が炸裂する中、しかし巨大な鹿獣は動じることなく前進は止まらない。

 彼女は標準をヴォルフラムへと向けなおす。

 破甲の花の爆発音に紛れ撃ち出された銃弾は、外すことなく巨獣を捉えた。

 しかし厚い毛皮と、そこに滲む油脂に弾は擦過し後方へと抜けていく。


 悪態をつく暇もなく、イオは補助脚を撓ませ跳躍した。

 迫りつつあった呪痕兵を躱し、機関銃を撃ちまくる。


「やるものですねぇ!」


 感心すら滲ませて、ヴォルフラムは言った。

 宙を舞う彼女へと踏み込み、突き上げるように双角を振る。

 それをイオは補助脚で受け後方回転、彼へと向き直り機関銃をその顔面へと向けた。

 流石に頭部への銃撃は嫌ってか、ヴォルフラムは退きつつ破甲の樹を操り、花弁を幕とする。


「それを待ってた!」


 不敵に言って、イオは金砕棒を『武器庫(アームザック)』にしまい込む。

 代わりに引き出されたのは、巨大な鉄扇だ。

 身の丈程もあるそれを、彼女は手首の返しだけでずらりと開く。

 そして真紅の壁に向かって、一閃する。

 巻き起こる突風が、一帯の空気を攪拌した。

 風に煽られ、ぶつかり合う花弁が連鎖的に爆発する。


「ちぃ」


 身を屈め、ヴォルフラムはそれをやり過ごした。

 イオは爆風に身を任せ、大きく下りつつ地へと降り立つ。

 花実の、枝葉の操作は出来ても、爆発そのものは制御出来ないようだ。


「それなら遣り様は、幾らもあるよね!」

「そんなことを、何時まで言っていられますかねぇ!」

「そりゃもう、何時までもだよ!」

「ぬかしますねぇ!」


 彼女の言葉に、大鹿は凄絶に笑った。

 イオへと駆け寄り脚を振り上げる。

 今度は踏みつけるではなく、蹴り飛ばす為に。


「地平の果てまで吹き飛べ!」

「こいやー!」


 ヴォルフラムの宣言に、彼女は逃げるでもなく鉄扇を仕舞い、あろうことか受け止めようというのか、腰を低く両手を構える。


 正気か?


 逆に彼の方が戸惑った。

 この巨体が助走をつけての、全力の蹴り。

 先ほどの油断のあった踏みつけとは威力が違う。

 肉はひしゃげ、骨は砕け散り、絶命は間違いない。


 いい度胸だ。

 ならば先に行って、待っていればいい。


「何れ皆、生まれて変わりますからねぇ!」


 ヴォルフラムは全力で、躊躇なく、侍女服姿の矮躯の少女を蹴り抜いた。

 ……手応えは、ない。


「……は?」


 振り抜いた蹄の先を見る。

 聖痕(スティグマ)たるそれには、血の一滴も、肉の一欠片も着いてはいない。


 有り得ない。

 回避出来る状況は、とうに過ぎていたというのに。

 辺りを見渡すが、四つ腕四つ足の怪女はいない。


「ヴォルフラム様!」


 『均衡(バランス)』の警告。

 それと同時に奔る、腹部への衝撃。


「ぐっ~~~~~!」


 訳も分からず、ただ腹下に潜む何かを潰すべく、ヴォルフラムは臥せた。

 重い地響きを立て、ヴォルフラムの巨躯が地に伏せる。

 衝撃こそ止んだものの、先ほどの蹴りと同じくやはり一切の手応えがなかった。


 灼熱感がこみ上げてくる。

 えずき、吐き出されたのは血の塊だ。

 先ほどの衝撃の影響だろう、咽ながらも彼は周囲を見渡す。


「ヴォルフ、大丈夫ですの?!」

「ああ、大丈夫です。痒いですねぇ」

「ええ……そんなもん?」


 二人の会話に割って入る声に、ヴォルフラムは視線を剣呑なものにした。

 ()()()()と姿を現したのは、異様な形に変形したイオの姿。

 肉体流化によって無挙動で地に伏せ……というより平らとなって蹴りを躱し、そのまま彼の腹の下に移動、軽機関銃を乱射したのだ。

 最後の圧し掛かりも、全身を流化し彼と地面の隙間に退避した次第である。


「……どこかで見たようなやり口ですねぇ」

「そうなんだよねー、印象悪いよねー」

「ぎたぎたにしますわよ」


 胡乱にこちらを睥睨するパメラに、イオは肩を竦める。


「あれで倒れないのか……」


 石刀を鞘に納めつつ、マコトは彼女へと駆け寄った。


「それどころか、血も出てないよ」


 尋常じゃないよね、と再び立ち上がった巨大な鹿獣に呆れ交じりの視線を送る。

 銃弾の直撃を複数受けたはずの腹部からは、血が滴る様子もなかった。

 吐血していたので無傷というわけではないようだが、外傷をつけるに至らないとはとんでもない頑健さである。


「主食が破甲の樹の若葉ですからねぇ。この程度」

「流石に眉唾だろ……」

「まゆつば?」

「……何でもない、異世界スラングだよ」

「まあ、冗談です」

「冗談言いあうような仲じゃないでしょ」

「悲しいかな、その通りですねぇ」


 大げさに、嘆くように言って、足を踏みしめこちらを見る。

 二人同士が二人同士で、再びに向かい合った。


「珍しい組み合わせになったね」

「言われてみれば、そうか」


 顔を見合わせ、マコトとイオは頷きあった。

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